第350回:バリエーション豊かな日本人の名前
今、日本に来ています。丁度冬のオリンピックが開かれているので、インターネットで覗くニュースもオリンピックに関することが多く、日本の選手の名前が飛び交っています。友達やダンナさんの親類の人たちも、当然私たちが知っているものと思い込んで、人気選手の名前を口にします。私の方はスポーツ音痴なので、誰が誰で何の競技に出場しているか、さっぱり分からないのですが…。
選手の名前がそれぞれにとても凝っていて、西欧風な音に漢字を当てはめていることが多く、漢字だけ見ると、イッタイ何と発音するのか分かりません。ダンナさんに訊いてもさっぱり要領を得ません。
例えば、金メダルを取った羽生結弦さん、"ハニュウ・ユズル"と読むのだそうですが、少しゆっくり読むと"夕鶴"ユーズルになってしまい、私はフィギアスケートで夕鶴のように舞うので、そのような名前を付けたのだろうと思い込んでいました。
ところが、将棋のチャンピョン、王将の羽生さんは苗字は漢字で書くと同じなのですが、"ハブ"と読みます。そして名前の方ですが、善治です。善治さんではなんだかフィギアスケートでヒラヒラと舞うイメージではありません。将棋向きの名前だとは思いますが。
私の98歳になるお姑さんの名前は"ユキ"とカタカナの二文字です。ダンナさんの戸籍謄本を見る機会がありました。すでに亡くなった、私が知るチャンスのなかった明治、大正産まれのお婆さん、叔母さんたちの名前が見事にカタカナ、二文字なのに驚かされました。
"キク"、"タメ"、"シズ"、"キミ"などです。と同時にニ文字の名前の響きが引き締まっていて、とてもよい印象を与えることに気が付きました。男性の方は漢字を並べた長ったらしい名前がほとんどなのに、なぜ女性の名前がカタカナの二文字が圧倒的に多いのか、すぐにダンナさんが調べてくれました。後で見ると、英語のGoogleでも簡単にその理由を説明してあるのを見つけました。
なんでも、その時代、まだ男尊女卑で女性の出生届けを出す時、口頭で役場に届出て、受付のお役人がカタカナで記帳することが多かったからだと言うのです。長い間、私の日本語の授業のアシスタントをしてくれた女性は"フミ"と言いますが、もちろん彼女は大正生まれではありません。妙に凝った名前が多い中で、"フミ"さんは名前だけでなく、全てにキリリと引き締まった明るさをクラスに持ち込んでくれました。彼女のせいで二文字の名前が好きになったのかもしれません。
そして、老齢なるうちのダンナさんの同窓会や友達の集まりに顔を出しますと、これも時代でしょうね、女性は90何パーセント"子"が付く名前の持ち主なのです。優子、紀子、則子、純子、美智子、幸子、聡子と、それは見事に"ナニナニ子"だらけなのです。平安、室町時代には"子"は男につけた例が沢山ありますから、何時の時代からこんな流行が生まれたのでしょうか。
オリンピックの女性の選手の名前ですが、カタカナで書くと何処の国の人か国籍不明の名前の大行進です。ジャンプの"サラ(沙羅)"ちゃんはアメリカの対抗選手もサラですから、サラが勝ったと報道されてもどちらのサラかさらさら分かりません。
名前の方だけ羅列してみますと、千穂、優梨菜、多英、真央、奈緒、菜那、美沙紀、真紀、美馬、美夏、彩花、裕唯と、新世代のアデヤカな名前ばかりが目に付きます。まるで宝塚少女歌劇の芸名のように聞こえます。そんな西欧風か無国籍風の発音に無理に漢字を当てはめたような名前をつけられた本人に罪はありません。彼女、彼らの親の世代、40代から50代の親たちの感覚の問題なのでしょう。
もちろんそのような、語感、音感は時代によって変化していきますから、彼女たちの名前も沙羅ばあちゃん、真央ばあさんになったときには、意外と古臭い響きになっているのかもしれませんが。
カタカナ語に漢字を当てはめるように、音の響きと漢字の美しさ、語感でとても豊かなバリエーションを創造できる日本語は素晴らしいと思います。それに比べ、西欧の名前は実にワンパターンです。ヒッピー全盛の時代に彼らの子供に自然からとった名前が流行ったことがあり、名前を聞いただけで、お前の親はヒッピーだったと分かるほどです。
サンシャイン、コスモ、レモン、スカイ、アータム、サマー、サンダイル、セージとくれば、まず確実に彼らの両親はヒッピーでしょう。それにしても、無限に近い新世代の日本の名前の面白さ、バリエーションとは比較になりません。
もう一つ、男女を問わずGoogleで日本の名前を検索したとき、前面にしゃしゃり出てきて、非常に邪魔なのは姓名判断です。字画によるものらしく、あれは日本独特の『占い文化』の一面なのでしょうか。そんなことが未だにハバを利かせているのに驚かされます。
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