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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第249回:"早起きは三文の得"ベンジャミン・フランクリンのこと

更新日2012/03/01



ベンジャミン・フランクリンはアメリカ建国に一役買った人、印刷工から身を起こし、大変なお金持ちになった人、凧を揚げて雷と電気はごく近い親戚だということを見つけた人という以外に、私たちアメリカの小学校で覚え込まされる格言、アメリカ流の『早起きは三文の得』でなんとなく名前を知っている存在です。

うちのダンナさん、日本語の同じ本を何度も繰り返して読んでいるのですが、この頃ほかに読む本がなくなったのか、英語の古典まで手を出し始めたようで、この『フランクリン自伝』をニヤニヤしたり、時々声を上げて笑ったりして読んでいるのにつられて、私も読んでみました。

早く言えば、成功して名を遂げた人の"私はこうやって成功した"という自慢話、誰でも私と同じようにやればお金持ちになれるという、教訓をタレているのですが、すべて"誠実、仁徳"をもって当たらなければならないとし、これに忠誠心を付け加えたら、日本の会社で新入社員への挨拶にピッタリのテキストになるのではないかしら。

私たちが子供の頃よく聞かされたフランクリンの格言は、彼が発行していた『貧しきリチャード』というカレンダーのような本(almanac)に365日、毎日の心がけとして書かれたもので、なんだか当たり前すぎて、口にするのも気恥ずかしいことを堂々と正面から、またはたとえ話として、リズミカルに上手く言い表しています。もちろん、フランクリンはこの『貧しきリチャードのカレンダー』を売り大いにお金をもうけています。

彼は一生懸命働いてお金持ちになるのはとても良いことだということを頭から信じ切っていて、そこには人里離れた山や絶海の孤島で精神的充足を求めて静かに瞑想に耽けりながら暮らすという東洋的な思想は全く入る余地がありません。人間の幸福は富を築き、徳をなすことにある……と信じ切っているです。

物質の世界から離れたところに、モノにとらわれない幸福な生き方があるなどと、想像さえしていませんし、そんなのは負け組の寝言だ……くらいにしか思っていないようなのです。

確かに、彼は生涯を通じて、公共事業に莫大なお金と時間を使い、アメリカ独立のために奔走し、独立宣言の草稿を書き、12歳までしか寺子屋的学校に行っていないのに数々の大学から博士号や賞をもらったりして、まるで回転する輪の中に入れられたネズミのように忙しく動き回っています。それはもうタダタダあきれるくらいです。エンゲルスが、フランクリンをアメリカ資本主義の元祖と言ったのもうなずけます。

フランクリン以後、巨額の財産をゼロから築き上げた億万長者が、小さな国の国家予算くらいのお金をチャリティーや公共事業に寄贈する伝統?が生まれたようです。カーネギィー、テッド・ターナー、ビル・ゲイツ ワーレン・ビュフェットなど、膨大な私財をチャリティーに使っています。あんなにたくさん持っているのだから、半分やそこいら、節税対策でチャリティーに回しても大したことではない……と、やっかみを言う人もいるにしろ、それすらしない大金持ちがたくさんいるのですから、彼らは立派です。これがフランクリンの影響とは言えませんが。

フランクリンの自伝の愉快さは、すべてがとても具体的なことです。一日の過ごし方も朝5時に起きてから夜10時に寝るまでの時間表を作り、それに従って行動したりしています。まるで日本の受験生のようなのです。

もう一つ傑作なのは自分に課した13の戒律で、なかなか立派な心がけなのですが、セックスは子孫を増やすためだけに行い、無駄な精力を浪費するな……という第12条の"純潔"に話が及ぶと、ウーム、はてな……と、現代人だけでなく、当時の人でも思うのではないかしら。

しかし、フランクリン自身が娼婦に子供を生ませているのです。彼の長男は、母親が誰だったのかいまだに分かっていません。でも、その子を引き取り立派に育て、息子さんのウィリアムはニュージャージー州の知事にまでなっていますから、フランクリンはきちんと義務を果たしたことになると言ってよいかもしれません。

でも、ダンナが素性の知れない女性に産ませた赤ちゃんをダンナの尻拭い(汚い言葉を使ってすみません)をするように引き取って育てたフランクリンに奥さんの方が偉いと思うのは私だけかしら。

 

 

第250回:日本的な値段とブランド志向

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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