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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第474回:アメリカ中西部にある小さな教会のホームカミング

更新日2016/08/04



アメリカに"ホームカミング"と呼ばれている行事があります。とても幅広く色々な意味で使われています。ホームカミングは直訳すれば帰郷、故郷に戻るという意味になりますが、高校や大学のホームカミングは、その学校の出身者が母校に戻る、先輩たちの日になり、町の中を在校生がブラスバンド、チアーリーダー、ミス・ホームカミングを連ねてパレードし、フットボールの試合が行われます。

ミズーリーの田舎町リッチモンドからさらに14-15キロ離れたところにある、私の両親のお爺さん、お婆さんが通っていた教会のホームカミングに行ってきました。もちろん、高校や大学のホームカミングとは違い、教会のホームカミングは、昔この教会に通っていたけど、今は都会に移り住み普段疎遠になっている人たちが年に一度集まるというポトラック・パーティー(各自が得意料理を持ち寄るヴァイキングスタイルのパーティー)で、パレードもフットボールの試合もありません。

この教会は"ニューホープ"と名付けられたメソジスト派のものです。周りに家など一軒も見当たらない牧草地や森が延々と広がる丘の上にあります。私の母はこの教会に16歳まで通っていました。白く塗られた小さな教会は、アメリカ中西部の濃い緑の多い自然によく似合っているな、とはウチのダンナさんの呟きです。

初夏の暑い日でしたから、集った人たちの服装もリラックスしたもので、半袖カッターシャツ組がとても多く、背広ネクタイは牧師さんだけでした。それにしても、私が子供の頃は教会へ行く時には一応キチンとした服を着せられたものですが、若者、子供たちは短パンにサンダル履きなのには時代の相違を感じました。私が歳をとっただけなのかもしれませんが…。

これも、ウチのダンナさんに言われて気が付いたのですが、黒人、ラテン系と呼ばれるメキシコ人など、ダンナさん曰く"色付き"が彼以外一人もおらず、そろいもそろっておデブの白人ばかりなのです。

会食に入る前に、教会でサーヴィス、説教、賛美歌、素人学芸会風の器楽演奏があります。相撲で十両くらいは務まりそうなお腹をした牧師さんがユーモアを込めてお話をしたのですが、彼、ズーッとチュウインガムを齧りながら説教したのには驚きました。そして、平気でドナルド・トランプをからかい、馬鹿にするような冗談を言って笑いを取っていたのも、トランプ嫌いの私には嬉しいお驚きでした。

アメリカのポップ、カントリー、ジャズ、フォークの歌手、音楽家たちの多くが、子供の頃、教会で何らかの音楽に携わっていた経験を持っています。小中学校で特別ブラスバンドや合唱に参加しない限り、音楽教育を受け、演奏したり歌ったりするチャンスはありません。教会がその場を提供している…と言ってよいでしょう。"ニューホープ"教会のホームカミングでは13-14歳の坊やが調子はずれのヴァイオリンを弾き、72歳の老夫婦がデュエットで歌い、老嬢の小さなオルガン演奏、ピアノ演奏がありました。

そして、蛍光灯の青白い光が照らす天井の低い地下でポトラックが始まります。超田舎の人たちが持ち寄る自慢料理はチョットしたものです。鶏もその日の朝までそこらじゅう駈けずり回っていたのを締め、料理されたのでしょう、肉そのものの味が違いますし、燻製ハムも自家製なら、野菜もすべて採りたてなのでしょう、めったに「美味しい」とか「不味い」とか言わずに、ともかく素早く黙々と掻き込むのを本条としているダンナさんも、まだかすかに舌にミライが残っているのでしょうか、「ウーム、これはいけるな」とか呟いていました。

ただ、高級なフランス料理(私自身そのような高級料理を味わった経験はないのですが…こんな表現をすればなんとなく説得力が増すような気がしたものですから)のような上品な味付けではなく、すべてが濃厚なのです。塩辛く脂っこいのです。

それは、一日中太陽の下で働くお百姓さんに見合った味付けで、脂肪も、塩分も必要でしょうけど、普通の都会生活の人ならすぐにも血圧が上がり、コレステロールが盛大に溜まりそうな上品ならざる(下品とは言いませんよ)味付けなのです。

そして、数えたところ16種類に及ぶデサートの甘さと言ったら、顎の裏が痛くなるほどで、まるでコレデモカ、マイッタカとばかり砂糖、蜂蜜をぶち込んだかのような甘さなのです。それをこの教会に集まった田舎の人たちは大皿に3種類、5種類山盛りにし、平然と平らげているのです。チョコレートに目のないダンナさん、チョコレート・ブラウニーを一切れ皿に取ってきましたが、「オイ、こりゃチョコレート色をした砂糖の塊だぞ」と匙を投げていました。

食事の後、この教会の墓地に埋葬されている母方のお爺さん、お婆さんのお墓参りをして、暑い日中帰路につきました。帰りの車の中では、田舎料理をお腹一杯詰め込んだダンナさんが気持ち良さそうに居眠りしていました。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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