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第17回:そして大虐殺が始まった その3

更新日2023/05/11

 

サンドクリークの虐殺には様々な人間が、インディアンと騎兵隊双方に登場し、交差している。
シャイアンの中に住み、有名な交易場を設け、合衆国のインディアン政策に深い影響をもたらしたウィリアム・ベント(William Bent)の娘、ジュリア(ウィリアムとインディアンの妻フクロウ女、Owl Womanとの間にできた娘)は夫のエド・グエラー(Ed Guerrier)と共にサンドクリークにいた。エドはブラック・ケトルがいち早く騎兵隊の異常な行動に気が付き、星条旗と白旗を揚げたと証言している。

しかし、このエドはサンドクリークの凄惨な虐殺を体験させられ、どうにか生き残った後、白人との和平協約など全く無意味だとばかり、過激なドッグソルジャーの先鋭になっているから、彼の証言は当然、反白人、反騎兵隊に染まっているだろう。

No.17-01
エド・グエラー(Edmond Guerrier;フランス人の父、シャイアン族の母の間に生まれた)
サンドクリーク虐殺の貴重な証言を残している
後年、合衆国政府の貴重な通訳、斥候になった

このように、星条旗と白旗を何時揚げたのか、今となっては知りようもないし、どうでも良いことのように思えるが、西欧、アメリカの通念で、国の旗、加えて降参、服従の白い旗を掲げている者を攻撃し、殺すのは最も卑怯なこと、絶対にするべきでないこととされている。白旗を挙げている者を殺すのは、許されない戦争犯罪だとされているのだ。それを、シヴィングトン率いる第三義勇騎兵隊はやったのだ。

サンドクリークのインディアン部落に雪崩込む前だったか、その最中だったか、いずれにせよ、星条旗と白旗がティーピー・テントの上にあがっていたことは確かだ。だが、そんなことは酔っ払い軍団、第三義勇騎兵隊にとってどうでも良いことだった。ともかく蛮族どもを殺しまくれとばかり、暴れ回ったのだ。 
 
サンドクリークのテント部落は馬で駆け抜けるのに、おそらく5分とかからない広さだ。それを掃討するのに7時間もかかったのは、兵士たちが略奪、強姦、インディアンの頭の皮を剥ぐのに忙しかったからだ。彼らが酔っ払っていたからだ。兵隊たちは頭の皮だけでなく、男性、女性を問わず彼らの性器を切り取って戦果としていた。自分が犯したインディアン女性の性器を切り取り、サドルの前にある突起(サドルホーン)に掛け、その数を競った。

エリザベス村でハンゲイトの妻を強姦し、二人の娘を殺したインディアンどもに対する復讐だ、何をやっても構うもんかと、取っていたのだろうか。復讐の念に人種偏見が加わり、罪の意識、モラルが見事に消え去り、何をやっても許される心理を作っていったのだろう。
 
私の連れ合いは地元の大学で教職にあったが、彼女の教え子の女学生二人が強姦された事件があった。その二人ともインディアンの女性だった。インディアンに対する偏見は根強く、原住インディアンに何をやっても構うもんかという伝統?が根強く残っているというのだ。また、連れ合いは授業にラコタ・インディアンの老齢の女性をゲストスピーカーとして呼び、消滅しつつある言語について話をしてもらった。そのスピーチの最後に彼女が育った環境に話が及び、強制的に部落、親元から切り離され、全寮制のキリスト教的英語学校に入れられたことを生徒たちに話した。

その時代、インディアンの女性は一人でインディアン・リザベーション(居留地)の中を、近隣の町でも歩くことができなかった。と言うのは、白人にとってインディアンの女性を強姦するのは罪にならないイジーな標的だったからだ。万が一逮捕され、裁判になっても、まず有罪になることがなかったからだと、ゲストスピーカーとして呼んだインディアンの老嬢は語っている。

復讐はすべての暴力を正当化する。 
このサンドクリークの虐殺を書き始めたのは、シャイアン、アラパホ族をサンドクリークに押し込め、虐殺したのと同じように、アメリカ政府が日系人(レッキとしたアメリカの国民)を第二次世界大戦の時、強制収容所に収容している事実と重なるからだ。この対インディアン政策と日系人強制収容との間に差はない。パールハーバーに奇襲をかけたジャップに何をやっても構わないとばかり、合衆国政府そのものが取った復讐政策だった。敵対国なら、ドイツ系、イタリア系をどうして収容しなかったのだろうか。答えは明確で、ドイツ系、イタリア系はあまりにも膨大な数になることもあったが、彼れがアングロサクソンでないにしろ、ともかく白人だったからだ。
 
第三義勇騎兵隊の隊員は妊娠中の女性を犯した後、腹を切り裂き、胎児を引き出している。元々部落には満足に弓を引ける男は数人しかいなかった。それも戦闘が始まると同時に攻撃目標になり、即殺されている。後は、女、子供、老人をゆっくり時間をかけてしらみつぶしに殺害していくだけだった。
 
乳飲児を抱いた女性たちはいち早く、乾いた河原の一方がエグれ、洞窟とも言えない窪みに逃げ込んだ。それを対岸から視認したシヴィングトンは、わざわざ引いてきた大砲を役立たせるためか、砲撃したのだ。正確な距離は測っていないが、私が歩き目測したところでは、100メートル以内だろう。しかも高所から低い窪地を狙うのだから、いくら精度が低かった当時の大砲でも極めて容易な標的だったことだろう。洞穴に身を隠していた女性たちは、乳飲児を抱えたまま全滅した。

それにしても7時間の狼藉は長い。

未だに、インディアン側の死傷者の数は確定されていない。少なく見積もる歴史家は165人殺されたとし、多く見る者でも200人を越すのではないかと推定している。負傷者は70人前後だった。犠牲者の3分の2は女性、子供、老人だった。よって、相当数の、どうにか歩ける、走れる者はサンドクリークから逃げおおせたのだ。シヴィングトンが敷いた逃亡防止の布陣は有効ではなかったのだ。

未だにサンドクリークから足で逃げた人数は確定できていない。部落に500~600人いたとして、死者、怪我人の総計をおおよそ400人とすると、包囲作戦から逃げたインディアンは軽く100人を越すことになる。インディアンたちは馬を使えず、徒歩だったから、その気になれば騎兵隊が追跡、殺害は容易だったはずだ。

-…つづく

 

 

第18回:サンドクリーク後 その1

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第1回:消えゆくインディアン文化
第2回:意外に古いインディアンのアメリカ大陸移住
第3回:インディアンの社会 その1
第4回:インディアンの社会 その2
第5回:サンドクリーク前夜 その1
第6回:サンドクリーク前夜 その2
第7回:サンドクリーク前夜 その3
第8回:サンドクリーク前夜 その4
第9回:サンドクリーク前夜 その5
第10回:シヴィングトンという男 その1
第11回:シヴィングトンという男 その2
第12回:サンドクリークへの旅 その1
第13回:サンドクリークへの旅 その2
第14回:サンドクリークへの旅 その3
第15回:そして大虐殺が始まった その1
第16回:そして大虐殺が始まった その2

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