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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第341回:流行り歌に寄せて No.146 「女のためいき」~昭和41年(1966年)

更新日2017/12/07



最近のテレビを観ていると、番組の改編時などによく「ものまね番組」というものが登場してくる。『ものまねグランプリ』『ものまね王座決定戦』『爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル』などなど、比較的低予算で、安定した視聴率を稼げる番組なのだろう。

私たちが若かった頃も『そっくりショー』や『スターものまね大合戦』などといった番組が、こちらは毎週放映されていてかなりの人気があった。

森進一のデビュー曲をご紹介するのに、いきなり「ものまね番組」の話から入るのも唐突だが、おそらく芸能界史上、最もものまねの対象になった歌手は森進一だったのではないかと思う。眉を吊り上げたような顔を作り、嗄れ声で「今晩は、森進一です」と真似ている人々を、私たちは今まで何人見たことか。声帯、形態ともにの模写で、玄人素人を問わずにである。

このデビュー曲も、何百回となく題材にされているようだ。殊に、例えば1番「嘘〜と知らずに〜信じいってた あっ、あああんあ〜」の箇所は耳にタコができるほど聞いていると思う。

それだけ、今までの歌手にない特徴的な歌唱だったのだろう。彼は昭和40年、フジテレビ系『リズム歌合戦』に出場して優勝し、チャーリー石黒に見出され、渡辺プロダクションに所属することになった。森進一17歳の時である。最初はルックスの良さもあり、ポップス系で売り出そうとして、スクールメイツでの活動もあったようだ。

しかし、個性が今ひとつ弱かったため、チャーリーが声を潰して演歌を歌わせることを提案し、森本人と渡辺プロを説得した。そしてベテランの作詞家の吉川静夫と、まだ駆け出しだった作曲家の猪俣公章のコンビによる作品で、その後歴代最多の、NHK紅白歌合戦48回連続出場という記録を作る森進一がデビューすることになった。


「女のためいき」  吉川静夫:作詞  猪俣公章:作曲・編曲  森進一:歌

 
1.
死んでも お前を 離しはしない

そんな男の 約束を

嘘と 知らずに 信じてた
 
夜が 夜が 夜が泣いてる
 
ああ 女の ためいき

2.
どうでも なるよに なったらいいと

思いなやんだ 時もある

なにに すがって 生きるのか

暗い 暗い 暗い灯影の

ああ 女の ためいき

3.
男と 女の 悲しいさだめ

なんで涙が つきまとう

ほれているから 憎いのよ

未練 未練 未練一つが

ああ 女の ためいき


森進一は、昭和22年11月18日、山梨県甲府市に生まれ、母子家庭で育つ。沼津、下関など居を変えて、母の実家の鹿児島市で中学を卒業する。母と幼い妹、弟の生活費を稼ぐため、卒業後すぐに15歳で大阪に集団就職をして、最初にすし屋に奉公に出るが、長くは続かなかった。その後、歌手になるまでのわずか2年余り、全部で17回の転職をしたという。

多くの紹介文には「1円でも多く稼ぐため」の転職とあるが、ここまで職を変えていればお金が貯まるはずがない。いわゆる一般的な仕事は水が合わなかったのだろう(この経歴は、私たちは安易に、いかにも『昭和』な感じのものだという思いを持つ。しかし、中学を卒業した後、定職を持てずに転々としているという傾向は、最近は逆にかなり増加していると聞く。話が横道に逸れてしまったが、本当に憂慮すべき問題だと思う)。

さて、この曲は歌手・森進一のデビューであるとともに、作曲家・猪俣公章の本格的なデビュー曲である。
猪俣公章は昭和13年4月11日、福島県会津坂下町に生まれる。小学校の5年生から作曲をしていたという早熟な人だったが、日本大学芸術学部音楽科時代にはバンドマンをしていた。その後、古賀政男に師事し作曲の勉強をはじめ、昭和39年『僕の手でよかったら』で作曲家デビューを果たしたという。

その後は森進一をはじめ、水原弘、藤圭子、内山田洋とクール・ファイブ、石川さゆり、テレサ・テン、五木ひろし、坂本冬美などのヒット曲を多く提供しており、このコラムにも、この後何回も登場いただく、私の敬愛する素晴らしい作曲家である。

『女のためいき』は、森進一が18歳の時に歌ったものだが、いかに20回近くも職を変え、その間には男女の仲のことも覚え、世の中をある程度分かった男子とはいえ、現代の観点でいえば、詞の内容があまりにも大人のものすぎる気がする。彼自身、どのような思いで、どこまでの解釈で歌っていたのだろうか。大変興味があり、もう50年以上昔のことだが、ぜひ一度伺ってみたいものである。

-…つづく

 

 

第342回:流行り歌に寄せて No.147 「夢は夜ひらく」~昭和41年(1966年)


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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