のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第398回:ミッキーマウスとハローキティー

更新日2015/01/29



大昔のことになりますが、スペインのデパートで、"ハローキティー"の売り場コーナーを見て驚いたことがあります。ハローキティーと英語、米語の命名ですから、カルフォルニアの若者たちがうまくマーケティングしたのではないかと思っていたところ、なんと日本人のデザイン、発想で、日本の会社が世界中に流通させていると知り、やっとドナルドダック、ミッキーマウスに対抗できるキャラクターが現れたと、驚きかつ感心したことです。

去年、旧東ドイツのライプッヒを訪れたとき、トイレを借りに街中のデパートに入ったところ、そこにもハローキティーのコーナーが設けられているのに出くわしました。ディズニーのコーナーなんてありませんでしたが…。

商標にやたらうるさく、盗作は断固許さない、いかに裁判費用がかかろうが、模造品、類似品は絶対に許さない態度で、ディズニーはキャラクターを守ってきました。どんな商品、ロレックス、ルイヴィトンでも、一月もあれば、そっくり同じものを作り上げることで有名なカノ国でも、なかなかディズニー商品には手を出せないといわれるほど、商標を守る強硬な姿勢を貫いています。

ミッキーマウスやドナルドダックの商品が多岐に及んでいるとはいえ、素人の私が見てもハローキティーの商品のキメの細かさには遠く及ばないでしょう。小中学生が身につけるもの、文房用具、ありとあらゆるものに、あの猫マークが付けられ、猫人形がぶら下がっているのです。

ノート、消しゴム、鉛筆は言うまでもありませんが、筆入れとチャックにつけるつまみの人形、携帯電話のカバーやらワッペン、それは唖然するほどです。一つのキャラクターがあれほどまで多くの商品に付けられているは、本当にあきれるばかりです。

しかも、ハローキティーちゃんは、なんと今年40歳を迎えます。こんなに長いあいだ、一匹の猫が生き続けたのも奇跡です。いつ老衰で死んでもおかしくないと思っていたところ、どうして、どうして毎年何十億円という売り上げ、ロイヤリティーが入り、なかなか殺すことができないといいます。

終いには、クリスタルで有名なスワロフスキーを19,636個も使ったハローキティー人形が150万円相当で売られたりしていますし、台湾ではホテルの内装をハローキティー一色にした部屋を10室造り、しかもハローキティー・レストラン(まさか猫の餌が出てくるのではないでしょうけど)まで設け、人気を呼んでいるそうです。

台北の病院では、可愛そうな入院中の子供たちのために、ハローキティー特別病室を30室も造り、満員盛況だといいます。

そのうち、エッフェル塔、ヴェニス、ピラミッド、自由の女神など、世界のイミテーションが集まる、何でもござれのラスヴェガスの目抜き通りに、とてつもなく大きなハローキティーホテルが現れても驚きませんよ。ラスヴェガスもギャンブルの町から家族連れでショーやアトラクションを楽しむ街に変身しつつありますので…。そして、ディズニーランドならぬ、ハローキティーランドがフロリダかどこかに造られるかもしれません。

ハローキティーがどうしてこんなに長生きできるのか、ド素人の私が推測するに、ディズニーのキャラクターには表情があります。ミッキーマウスは怒ったり、悲しんだり表情を変えます。それに比べ、ハローキティーの顔はとても単純で、黒く丸い目玉と左右3本ずつの黒いひげ、黄色い鼻で、これ以上簡素化するのは不可能なほど、単純明快な線と点で描かれています。その上、表情を変えません。そんなところが子供たちにとって自分の感情を移入できる要素になり、ハローキティーを身に着けると暖かい気持ちになるのではないでしょうか。

この無表情のキティーちゃん、ねずみ取りが上手で、ミッキーマウスをあっさりと捕まえ食べてしまったのです。これまでディズニー独占だったキャラクター商品をたった一匹の子猫が勝ってしまったのです。

まずはハローキティー、40歳の誕生日、おめでとうございます。

 

 

第399回:アメリカの大学輸出業

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで

第351回:アメリカの銃規制法案
第352回:大人になれない子供たち、子離れしない親たち
第353回:恐怖の白い粉、アンチシュガー・キャンペーン
第354回:歯並びと矯正歯科医さん
第355回:ローマ字、英語、米語の発音のことなど
第356回:アメリカ合衆国政府の無駄使い
第357回:ストーカーは立派な犯罪です
第358回:親切なのか、それとも騒音なのか?
第359回:ゴミを出さない、造らないライフスタイル
第360回:世界文化遺産と史跡の島
第361回:セルフィー登場でパパラッチ失業?
第362回:偏見のない思想はスパイスを入れない料理?
第363回:人種別学力差と優遇枠
第364回:"年寄りは転ぶ"~高齢者の山歩きの心得
第365回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その1
第366回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その2
第367回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その3
第368回:犬はかじるのが仕事?
第369回:名前、ID、暗証番号
第370回:「号泣県議」の"滑稽な涙"
第371回:死を招く大食い競争
第372回:日本で団地暮らしを始めました…
第373回:日本女性の顔と声の話
第374回:空き家だらけの町
第375回:旅客機撃ち落し事件
第376回:食卓での10秒ルール
第377回:夏のノースリーブ・ファッションの敵
第378回:飢えているアメリカ?
第379回:アメリカのザル法=最低賃金法
第380回:州や郡で消費税が異なるアメリカ
第381回:お国自慢と独立運動
第382回:アメリカで黒人であること
第383回:サーファーたちの訴訟~海岸は誰のもの?
第384回:幼児化した文化? コンサート衣装考
第385回:日本の食文化と食べ方
第386回:紅葉の季節、日本の秋
第387回:紋切型の会話と失語症?
第388回:日本の男女格差の現実
第389回:女性優位の日本
第390回:アメリカへの帰郷と帰宅
第391回:外来種による侵略戦争?
第392回:アメリカ大学事情
第393回:恐怖の白い粉"Sugar"
第394回:カルチャー・ショック
第395回:クルーズシップは大人のディズニーランド?
第396回:ヴェテラン=退役軍人の役得
第397回:アメリカ冤罪事情とイノセント・プロジェクト

■更新予定日:毎週木曜日