のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第399回:アメリカの大学輸出業

更新日2015/02/05



私が勤めている大学は州立の地方大学で、東部の有名なハーバード、プリンストン、MITのような私立大学やカルフォルニアのバークレー大学などとはレベルの違う……かなりレベルが下がる?ところです。

学生さんが集まらず、大学経営が危機に陥り、盛んに閉鎖、統合されている大学が多い中で、元気に生き延びています。ツタの絡まる歴史的な重みを感じさせる建物は一つもありませんが、その替わり、日本の超豪華マンションがバラックに見えるほど立派な学生寮が幾棟も建ち並び、校舎のビルもこの5、6年ですべて新築、学生会館も広々とした立派なものです。

学生向けのカフェテリア(もちろん教授でも食べれます)は、ウチの仙人をして、「こりゃ、ヒルトンホテルのレストランみたいだな。ミュランの五つ星じゃないか…」と言わせていますが、ウチの仙人、ヒルトンに泊まったことはなく、ミシュランの星が付いたレストランなんかに足を踏み入れたこともないはずです。

大学も"ショーバイ"になってきて、お金を払ってくれる(授業料ですが)生徒さんを獲得するのに、躍起になっています。私のところにも、日本からの留学生をたくさん呼ぶことはできないか…と打診が再三あります。

留学生を呼ぶより、大学の支店?を現地に造って、アメリカの大学と同じカリキュラムで授業を行い、同じ卒業資格を与えたほうが手っ取り早いと考えたのでしょうか、アメリカの大きな有名大学が盛んに海外支店、校舎を開くようになりました。

ニューヨーク大学(New York University)では上海とドバイに大学を開きましたし、私立の名門デユーク大学(Duke University)も上海郊外にキャンパスを建造中です。わざわざ外国に出なくても、自分の国で、欧米の有名大学を卒業できる…というわけです。

このような大学の海外分校の建設、開校の主な目的は、貧しい国、文盲の多い国で教育の底辺を広げようというウツクシイ心掛けから発したものではなく、あくまでその国の裕福な階級、既にある程度高い教育を受けた人が対象ですから、当然、お金持ちが居る国に偏ってしまいます。

海外の大学が建設されているのは、アラブ首長国連邦が40校、中国が18校、シンガポール16校、あとカタール、マレーシアがそれぞれ10校で、オイルマネーが溢れている国、膨大なお金持ち層がいる中国などの国々に限られてしまいます。

一方、海外に大学を輸出している? 海外分校を創設している国は、やはりアメリカが56校と圧倒的に多く、イギリスが16校、オーストラリアが15校、フランス11校、インドが10校と圧倒的に英語圏の国が、国際言語として幅を利かせている英語での教育を売り物にして、海外進出を図っています。大学もショーバイなのです。

受け入れる国の方でも、ノウハウを持った大学経営者が有名な教授陣を引き連れて、大学を造りに着てくれるのですから大歓迎です。国や地方自治体はキャンパスの土地の購入に始まり、校舎の建設に大々的な援助をしています。

中国の昆山市(コンシャン;蘇州)では260ミリオンドル(300億円相当)もの援助金をデユーク大学分校建設に与えています。元々、蘇州は昔から科挙の試験でトップ合格する人(状元と言うのだそうです。奇妙なことをよく知っているウチのダンナさんの入れ知恵です)を多く輩出し、学者、詩人、文化人の多い地域でしたが、大学新設で地元の人に仕事をもたらすだけでなく、大学を通して地元住民に知的で新鮮な風を送り込んでくれる、学園都市として発展できると、良いことだらけの見通しを立てています。

それに、蘇州はリトル台湾と言われるほど、台湾からの企業が多く、2,000社もあり、顔を西に向けている州です(アレッ、台湾は蘇州の東か)。東芝、富士通など日本企業も200社あり、ハイテックの州として既に有名なところです。そこにデューク大学と昆山市が大学を開設しようというのですから、これほど条件の整っている所はまずほかにないでしょう。

日本では欧米の大学と姉妹校のような関係は結んでも、残念ながら、完全な欧米の大学を設立するのはとても難しいようです。言葉の問題があり、日本ではただでさえ、閉校している大学が多い中、海外の大学が日本に分校を設けることに文部省が積極的でないからです。加えて、若者たちが、即就職につながる日本の権威ある有名校に行きたがり、企業やお役所も個人の能力とは関係なく、日本の有名校の卒業生を採用する傾向が強いからです。

徐々に、日本の大学も開けてきましたが、外から見ると、とても閉鎖的なギルドの影が濃く残っているように見えるのです。

 

 

第400回:イスラムの台頭とヨーロッパの右化

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで

第351回:アメリカの銃規制法案
第352回:大人になれない子供たち、子離れしない親たち
第353回:恐怖の白い粉、アンチシュガー・キャンペーン
第354回:歯並びと矯正歯科医さん
第355回:ローマ字、英語、米語の発音のことなど
第356回:アメリカ合衆国政府の無駄使い
第357回:ストーカーは立派な犯罪です
第358回:親切なのか、それとも騒音なのか?
第359回:ゴミを出さない、造らないライフスタイル
第360回:世界文化遺産と史跡の島
第361回:セルフィー登場でパパラッチ失業?
第362回:偏見のない思想はスパイスを入れない料理?
第363回:人種別学力差と優遇枠
第364回:"年寄りは転ぶ"~高齢者の山歩きの心得
第365回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その1
第366回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その2
第367回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その3
第368回:犬はかじるのが仕事?
第369回:名前、ID、暗証番号
第370回:「号泣県議」の"滑稽な涙"
第371回:死を招く大食い競争
第372回:日本で団地暮らしを始めました…
第373回:日本女性の顔と声の話
第374回:空き家だらけの町
第375回:旅客機撃ち落し事件
第376回:食卓での10秒ルール
第377回:夏のノースリーブ・ファッションの敵
第378回:飢えているアメリカ?
第379回:アメリカのザル法=最低賃金法
第380回:州や郡で消費税が異なるアメリカ
第381回:お国自慢と独立運動
第382回:アメリカで黒人であること
第383回:サーファーたちの訴訟~海岸は誰のもの?
第384回:幼児化した文化? コンサート衣装考
第385回:日本の食文化と食べ方
第386回:紅葉の季節、日本の秋
第387回:紋切型の会話と失語症?
第388回:日本の男女格差の現実
第389回:女性優位の日本
第390回:アメリカへの帰郷と帰宅
第391回:外来種による侵略戦争?
第392回:アメリカ大学事情
第393回:恐怖の白い粉"Sugar"
第394回:カルチャー・ショック
第395回:クルーズシップは大人のディズニーランド?
第396回:ヴェテラン=退役軍人の役得
第397回:アメリカ冤罪事情とイノセント・プロジェクト
第398回:ミッキーマウスとハローキティー

■更新予定日:毎週木曜日