第399回:アメリカの大学輸出業
私が勤めている大学は州立の地方大学で、東部の有名なハーバード、プリンストン、MITのような私立大学やカルフォルニアのバークレー大学などとはレベルの違う……かなりレベルが下がる?ところです。
学生さんが集まらず、大学経営が危機に陥り、盛んに閉鎖、統合されている大学が多い中で、元気に生き延びています。ツタの絡まる歴史的な重みを感じさせる建物は一つもありませんが、その替わり、日本の超豪華マンションがバラックに見えるほど立派な学生寮が幾棟も建ち並び、校舎のビルもこの5、6年ですべて新築、学生会館も広々とした立派なものです。
学生向けのカフェテリア(もちろん教授でも食べれます)は、ウチの仙人をして、「こりゃ、ヒルトンホテルのレストランみたいだな。ミュランの五つ星じゃないか…」と言わせていますが、ウチの仙人、ヒルトンに泊まったことはなく、ミシュランの星が付いたレストランなんかに足を踏み入れたこともないはずです。
大学も"ショーバイ"になってきて、お金を払ってくれる(授業料ですが)生徒さんを獲得するのに、躍起になっています。私のところにも、日本からの留学生をたくさん呼ぶことはできないか…と打診が再三あります。
留学生を呼ぶより、大学の支店?を現地に造って、アメリカの大学と同じカリキュラムで授業を行い、同じ卒業資格を与えたほうが手っ取り早いと考えたのでしょうか、アメリカの大きな有名大学が盛んに海外支店、校舎を開くようになりました。
ニューヨーク大学(New York University)では上海とドバイに大学を開きましたし、私立の名門デユーク大学(Duke University)も上海郊外にキャンパスを建造中です。わざわざ外国に出なくても、自分の国で、欧米の有名大学を卒業できる…というわけです。
このような大学の海外分校の建設、開校の主な目的は、貧しい国、文盲の多い国で教育の底辺を広げようというウツクシイ心掛けから発したものではなく、あくまでその国の裕福な階級、既にある程度高い教育を受けた人が対象ですから、当然、お金持ちが居る国に偏ってしまいます。
海外の大学が建設されているのは、アラブ首長国連邦が40校、中国が18校、シンガポール16校、あとカタール、マレーシアがそれぞれ10校で、オイルマネーが溢れている国、膨大なお金持ち層がいる中国などの国々に限られてしまいます。
一方、海外に大学を輸出している? 海外分校を創設している国は、やはりアメリカが56校と圧倒的に多く、イギリスが16校、オーストラリアが15校、フランス11校、インドが10校と圧倒的に英語圏の国が、国際言語として幅を利かせている英語での教育を売り物にして、海外進出を図っています。大学もショーバイなのです。
受け入れる国の方でも、ノウハウを持った大学経営者が有名な教授陣を引き連れて、大学を造りに着てくれるのですから大歓迎です。国や地方自治体はキャンパスの土地の購入に始まり、校舎の建設に大々的な援助をしています。
中国の昆山市(コンシャン;蘇州)では260ミリオンドル(300億円相当)もの援助金をデユーク大学分校建設に与えています。元々、蘇州は昔から科挙の試験でトップ合格する人(状元と言うのだそうです。奇妙なことをよく知っているウチのダンナさんの入れ知恵です)を多く輩出し、学者、詩人、文化人の多い地域でしたが、大学新設で地元の人に仕事をもたらすだけでなく、大学を通して地元住民に知的で新鮮な風を送り込んでくれる、学園都市として発展できると、良いことだらけの見通しを立てています。
それに、蘇州はリトル台湾と言われるほど、台湾からの企業が多く、2,000社もあり、顔を西に向けている州です(アレッ、台湾は蘇州の東か)。東芝、富士通など日本企業も200社あり、ハイテックの州として既に有名なところです。そこにデューク大学と昆山市が大学を開設しようというのですから、これほど条件の整っている所はまずほかにないでしょう。
日本では欧米の大学と姉妹校のような関係は結んでも、残念ながら、完全な欧米の大学を設立するのはとても難しいようです。言葉の問題があり、日本ではただでさえ、閉校している大学が多い中、海外の大学が日本に分校を設けることに文部省が積極的でないからです。加えて、若者たちが、即就職につながる日本の権威ある有名校に行きたがり、企業やお役所も個人の能力とは関係なく、日本の有名校の卒業生を採用する傾向が強いからです。
徐々に、日本の大学も開けてきましたが、外から見ると、とても閉鎖的なギルドの影が濃く残っているように見えるのです。
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