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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第437回:移民とシリア難民問題

更新日2015/10/29



私たちは、何とはなしに自分が生まれた国に大昔から住みつき、そこが唯一の故郷、棲家だと思い込む傾向があるようです。アメリカのように若い国の住人の大半というより、先住民のインディアンを除けばすべての人は外から渡ってきた移民なのですが。先住民族のインディアンたちですら、ユーラシアからアリューシャン列島を経て渡ってきたというのが通説です。

ところが、北アメリカに一番先に渡ってきたアングロサクソン系の人は、後から来たスコットランド、アイルランド系やドイツゲルマン系を目下に見る傾向があり、彼らスコットランド、アイルランド系の人たちは、さらに後の移民団イタリア、ギリシャ、スペイン系の人たちを、飲んで食ってばかりいて計画性のないヤツラだと見下し、今ではメキシコなどラテンアメリカからの移民をしょうがないから入れてやるかとシブシブ認め、それに最近移住してきたカンボジア、ベトナム、中国の人たちが最下層に入ってきました。いつも後から来た民族は、その国に適応するまで、偏見と戦わなければならない宿命を背負っているように見えます。 

州別に見ますと2014年だけでテキサス州に7,214人、国境を接しているメキシコ人かと思いましたが、意外や意外、ビルマからの難民を居住させていますし、カリフォルニアでは6,108人の大半がイランからの難民として受け入れています。現在、カルフォルニア州はイラン本国に次いでペルシャ人が多いところになっています。

ニューヨーク州にはソマリア人を中心として4,000人以上、ミシガン州でも4,000人以上が移住し、イスラム系の自治体も生まれています。そして、フロリダ州は3,500人以上のキューバ人が難民指定を待っています。

繰り返しになりますが、これは2014年、去年1年間の数字で、ここに挙げませんでしたが、50州すべてで難民を受け入れています。どんどんフェンスを乗り越えて渡って来るメキシコ人にとても厳しいと思われているアリゾナ州でさえ3,000人も受け入れているのです。

オバマ大統領がシリアからの難民を向こう2年間に14万8,000人受け入れると発表し、論争を呼んでいます。その数が多すぎると観るか、2億以上の人口を抱えるアメリカにしては少なすぎると観るかで、その人の移民、難民に対する視点が分かります。

西ドイツでは、今年中にシリアからの難民は80万人に及ぶだろうと言われ、メルケル首相は国の予算も底を尽き、受け入れ施設も満杯なので、これ以上は無理…と泣き声を上げています。おまけに、難民は身分を証明するパスポートのような身分証明書を持っていませんから、ドイツに移住しようという他の国の人がシリア難民のなかに30%も闖入している可能性があり、本当のシリア難民かどうかを識別するのは不可能に近い…とも嘆いています。

シリア難民の総数は400万人とみられ、それに加え、自分の町が戦禍に遭いシリア国内の別の町に避難している、国内難民も740万人いると推計されています。シリアの人口が2千200万人ですから、その半数が難民という状況に置かれています。

シリア難民が一番多いのはトルコで、ほぼ200万人になります。レバノンにも100万人を超える難民が押し寄せていますし、ヨルダンにも62万人、イラクにも25万人います。これら近隣の国々は正式に"難民として受け入れている"というより、シリア人が必死の覚悟で国境を乗り越えてきたので、追い返すわけにいかず、難民の波に呑みこまれている状態といってよいでしょう。

さて、日本です。
日本は難民受け入れ鎖国の国だとは知識として知っていましたが、困ったときのインターネット頼りで調べたところ、シリア人を難民として国が認め受け入れたのは、なんと3人だけなのです。それも、以前から日本に住んでいたシリア人で、とても戦禍のシリアに帰れないという事情で難民として受け入れているのです。

よく日本は島国で単一民族国家だから…と言いますが、ヒットラーのアーリア人種優性、純血主義じゃあるまいし、日本人も立派な混血民族です、とウチのダンナさんが古い本を引っ張り出して説明してくれました。

彼によると、日本はかつて、他の民族受け入れに、至って鷹揚で、むしろ積極的に移民を受け入れていたと言うのです。元々時間の観念が欠如しているダンナさんの言うことですから昔のことだとは思っていましたが、昔も昔、大昔のことで、お隣の朝鮮半島が三つの国に分かれていたとき、日本が大いにサポートしていた百済が新羅に敗れ、百済という国がなくなったとき、日本は大量の百済人を受け入れ、彼ら朝鮮人、百済人がもたらした豊かな文化遺産、学問、技術、とりわけ鉄を作る技術なくして日本の歴史は語れない、弥勒菩薩、百済観音など、そのときの移民がもたらしものだ。受け入れた日本、当時、日本という概念もなかったでしょうけど、彼ら移民団に水の利の良い土地を与える度量をもって優遇したと言うのです。

だけど、それ何時のこと? 年表で観ると、なんと百済が滅びたのは663年ですから、今からかれこれ1400年近く昔のことなのです。でも、ウチの仙人は、「日本が対外者に対して寛容であったこと、百済人を何千人と受け入れたことだけは、誇りにしても良いんじゃないか。それ以後、日本人の心はチマチマと小さくなっていくだけだから」と言うのです。

シリアも偉大な文明と歴史を持つ国です。異なった文化、民族と混ざり合うことで、次の新しい優れた文化が生まれないとは誰も言い切れないでしょう。私たち、日本を含めた西欧人は自分たちが優性だというウヌボレで他の国の人たちを見る傾向があります。基本的に、難民はどうしようもないから助けてやる、と言った態度なのです。

悲惨な難民の状況、コンテナに詰め込まれて窒息死したり、ボロボロの沈みそうな船に乗り、幾人も海に投げ出され溺れ死んだりしているニュースを見聞きしても、アア可愛そうだと思うだけで、そこから一歩進んで自分の家の一部屋を彼らに提供しようとはしません。自分の家とは、アメリカであり、日本という国家なのですが…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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