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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第438回:運転手は君だ、車掌は僕だ~クルマの国アメリカ

更新日2015/11/05



ダンナさんと連れ立ってドライブに出かけることが多くなりました。私のかなり怪しい情勢になってきた両親がカンサスシティーの東、インディペンダンスに住んでいるので、そこまで2,000キロ以上のドライブをします。往復で4,000キロ、それを年に2回。その他、弟夫婦と子供たち、妹夫婦は西海岸のオレゴン州とワシントン州に住んでいるので、そこまで寄り道をしながら車で行くと、片道2,500~3,000キロ、ほか毎週のように出かけるキャンプや登山、毎日の通勤と車なくして生活はできません。

時々、この大中古の車、ホントに良く動いてくれるな~と感心し、感謝しています。昨年1年間日本に住んで、何が良かったかといえば、もちろん日本食と温泉は当然のことですが、車を運転しなくて済むことでした。ほとんどどこでも車を使わずに、電車とバスで行くことができるのは、当然のこととはいえ新鮮な驚きでした。

車文化はアメリカが生み出したものと言ってよいと思います。大量生産、ベルトコンベアー方式で安く出回ったT-型フォードを初め、その当時からベラボーに安かったガソリンを撒き散らし、あっという間にアメリカのどんな田舎に行ってもクルマ、クルマにガソリンスタンドの文化?が育ちました。例外的なアメリカの都会、ニューヨークやシカゴを省けば、中西部から西部の広大な地域は車なしには暮らせない環境になってしまいました。

それに従い、道路もフェデラル・ハイウエイ、インターステイト・ハイウエイ、州道、群道、市道と整備され、こんな山の中に何のため?とあきれるところに、誰が使うのかちゃんとした道がつけられていたりします。

道路の建設に伴い、道路標識も統一され、GPS(カーナビ)などがなくても、正確な住所さえ分かっていれば、マヅマヅ、どこにでも行くことができます。

運転の仕方はそれぞれの土地柄、お国柄があるようで、仕事でチョイチョイ、ロスアンジェルスやマイアミでレンタカーを駆っているダンナさん、帰ってくるたびに、「参った、参った、あいつらの運転はすべてに自己優先型の突っ込み運転だ。ありゃ~命が幾つあっても足りない…」とか愚痴っていますが、地元の人に言わせれば、「あのハゲ白髪の田舎から出てきたばかりの爺さん(ウチの仙人のこと)、何をトロトロやってんだ。ジャマジャマ」と思っていることでしょうね。

私たちが住んでいる高原にも、ハイキングや山登り、それにハンターが押し寄せてくるようになりました。地元の人たちはだいたい顔なじみですから、対向車とすれ違う時、軽く手を振り挨拶します。私を含めて彼らは田舎風、ノンビリ運転です。ところが、そこに制限速度50マイル(80キロくらい)の田舎道を80マイル(130キロ近く)で吹っ飛ばしていく車が出できたのです。ナンバープレートを見ると、カルフォルニアとテキサスの車が大半です。そこで、当然、ある程度事実に基づいた偏見が生まれ、乱暴な運転、やたらにぶっ飛ばす運転をするのはカルフォルニア、テキサス人…と固定観念が根付いてしまいました。

日本、ヨーロッパの国々だけの経験ですが、かの国々に比べ、アメリカの道路はとても運転しやすくできていると断言して良いと思います。

そこでまた、うちの仙人、カボソイ記憶を頼りに、どうやら彼が尊敬しているらしい司馬遼太郎の本、文章を見つけ出してきました。司馬先生イワク、「アメリカの場合、すべての運転手はバカでアホウで方向オンチで度しがたいほど不注意である…という大前提から出発した懇切さなのだが…」と。でも一体、司馬先生、それほどアメリカの車でアメリカの高速道路を走ったことがあるのかしら。もっとも司馬先生が言っているは、車の構造のことも含まれているようですが…。

日本、ヨーロッパとアメリカの大きな違いは、日本、ヨーロッパでは道路は人が歩くため、一歩下がってせいぜい、馬車かロバに引かせた荷車のためのもので、絵画的な中世の町はおよそ車を走らせるために作られておらず、そこへ無理に車をねじ込んだのが実情でしょう。 また土地の所有権が複雑に固定していた田舎では、古く狭い馬車道、せいぜい最高スピード15-6キロの馬車用の道の上をアスファルトで固め車用に転用してるところがたくさんありますから、自然複雑怪奇な迷路のような道になってしまったのでしょう。

そこへいくと、アメリカの道路は初めから車を前提にして造られた道が多いのです。一部の東部の町以外は、余程大きな街でも家は木造でしたから、バリバリと家を壊し道幅を広げるのが易しかったという事情もあるでしょう。

アメリカの田舎町で生活するなら、たとえどのような車であれ、ガソリンを食い、排気ガスを撒き散らすことは必要悪として折り合いをつけていかなければなりません。車にオンブされているような生活から逃れたい…と思いつつ、今週も車で1時間半、コレでも一番近いところですが、登山口まで運転し、そこからハイキングに出かけてきました。 

通勤以外に車を使うことに、チョッピリ罪悪感を感じながらも、ドライブに出かけるときに心が浮き立つのは、私の中に西部開拓時代から引き継がれた、モータリゼイション、ハイウエイを飛ばしたいというDNAが多分にあるのでしょうか、大平原や砂漠の道をドライブするのは心が広がるような喜びです。いくらうちのダンナさんに、「オメー、アメリカ人だな~」と言われようが…。

 

 

第439回:またまた大量殺人が……進展のない銃規制

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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