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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第647回:隣の客はやや困った乗客だ - ワイドビューしなの9号 1 -

更新日2017/09/28



昨夜は梅田の洋食屋でY氏と会食。宿泊先は桜島線の安治川口駅から徒歩数分のビジネスホテル。大阪駅を出発するからと大阪駅付近の高いホテルに泊まる必要はない。ちょっと郊外に行けば手ごろな料金の宿がある。

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鉄道動画の達人Yさんと晩飯。ガッツリと

ここはユニバーサルシティに近いから、ビジネス客よりも家族連れや若い人たちが多かった。桜島線は大阪駅に直通する列車もあるから乗り換えなし。このホテルは穴場かもしれない。


ホテルの朝飯、うまし

翌朝、ホテルの無料の朝食をありがたく頂き、8時頃に桜島線に乗って大阪駅へ。ふだんは夜明け前に出発するから、これでも優雅な旅立ちであった。桜島線に立ち寄ったおかげで、201系電車に乗れた。103系高運転台車両も見えた。どちらも絶滅危惧種である。あいにくの曇り空だけど、都会に似合うグレーの空だ。


桜島線はゆめ咲線というらしい。201系が頑張っている

11番乗り場に金沢行きのサンダーバード7号が停車している。この11番乗り場は主に北陸方面特急の出発列車が使う。しかしワタシの目当てはこれではなく、その次、08時57分発の長野行きだ。サンダーバードの発車を見送り、10分ほどでワイドビューしなの9号、383系電車が入線した。発車まで数分。旅立ちにはちょっと忙しい気もする。さすが、天下の大阪駅である。先頭車を撮る人々に交じってシャッターを切った。

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大阪駅11番ホームは北陸方面の特急が多い
長野行きしなのでは、北陸方面には行かないと何度もアナウンスがあった

ワイドビューしなのは、定期便が1日13往復。臨時便がいくつか設定されている。運行区間は名古屋から中央本線と篠ノ井線を経由して長野まで。ただし、1日1往復だけ、大阪発着の列車があって、「大阪しなの」と呼ばれている。大阪~名古屋間は東海道新幹線のほうが早いけれど、大阪と長野を結ぶ直通便として残されていた。

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383系が入線する。ヘッドライト4灯がギラリ

しかし、2日後に迫ったダイヤ改正で大阪名古屋間の運行が廃止される。昼間の特急としては日本最長距離を走る列車だし、JR化後に作られた振り子式電車の383系に乗ってみたい。雲南市からの帰路に寄り道しようと決めた。しかもグリーン車を奮発する。383系は長野寄り先頭車がグリーン車で、運転室との仕切りがガラス。まさにワイドビューである。

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ホーム先端は少し明るい。この先頭車がグリーン車

一番前の特等席1Dは買えなかったけれど、2列目の左、通路側の席を取れた。席番は2B。窓側より前方を眺めやすいと思った。その目論見は正解だった。一番前には叶わないとはいえ、少し後ろは視野が広い。前方と左右の景色が見える。1Dの客も当然ながら鉄道ファンだ。彼は仕切りガラスの視線やや上の位置に吸盤でビデオカメラを固定している。ほう、あんな器具があるのかと思いつつ、目障りとも思う。もっと下ではダメなんだろうか。

08時57分。定刻に発車。屋根の下を抜け出して車窓が明るくなった。周囲を見渡したところ、グリーン車の客は私と同年代か若い人ばかり。たぶんみんな鉄道ファンで、大阪しなののお別れ乗車だ。線路が束ねられて4本になり、ワイドビューしなのは左端の線路を走る。車窓右手に大阪環状線の線路が分かれていく。方向別複々線区間で、内側2本が各駅停車用、外側が快速、新快速、特急用だ。

なんと、いきなり隣の普通電車に追い越される。普通電車は加減速重視、特急電車は最高速重視。ギア比が違うのだ。そのうちに追い越すぞ、楽しみだ。真っ直ぐな高架線、周囲にマンションやオフィスビルが並ぶ。このあたりは何度も乗ったけれど、側面窓の景色しか知らない。この前面展望は楽しい。

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座席番号2Bからの眺め。あのカメラ、もっと下のほうがいいのに

建物の連なりが消えて空が広がり、左側から貨物線が寄り添ってくると淀川の大鉄橋。トラス橋の中はアニメに出てくるタイムトンネルのようだ。緩いカーブを左へ、そして右へ。右側の線路がせり上がり、こちらの線路をまたいでいく。その先が新大阪駅である。新幹線のホームが横たわり、しなのはその下に潜る。右側に各駅停車が先行している。走行中の追い越しは叶わなかった。

新大阪駅も各駅停車と同時発車で、またしても先行される。普通列車の最後部車両が遠ざかる。いいのだ。こちらは特急だ。ゆったりと優雅に加速していくのだ。そのゆったりを演出するかのようにチャイムが鳴り、自動放送で停車駅の案内がある。新大阪駅を出てからが本番だ。アナウンス中に各駅停車が近づいてくる。あちらは東淀川駅に停車する。こちらは軽やかに通過。ほら、追い越した。心の中でガッツポーズ。

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新大阪駅到着

それにしても1Dのビデオカメラは邪魔だなあ。下げてくれないかな。でも上手にとってほしいとも思う。きっと、あとで動画サイトにアップロードされるから、それを見てみたい。ちょっと期待である。それより迷惑な事態が起きている。隣の窓側の席の男性だ。バッテラを旨そうに食っている。羨ましいわけではない。私は魚介の匂いが苦手だ。魚と寿司飯の香りが、彼の口の中で温められて拡散する。うわぁ。魚を食べられる人は我慢できるだろうけれど、私は逃げ出したい。

高槻駅を通過。ホームの工事中だ。私が小型カメラで前方を撮っていると、バッテラさんが話しかけてくる。私を鉄道ファンと察したようだ。
「あれ、新しくホームを作っているんですよ。通過するしなのがなくなるので、新快速をこちらの線路に移すためにホームを作ってます」
バッテラさんは50歳手前の私より、ひとまわり若いという印象だ。景色が単調なので私も調子を合わせる。私も見知らぬ人との会話は苦にならず、むしろ楽しむほうだ。長野まで長旅である。お互いに退屈しのぎになると思っている。

バッテラさんは話し好きのようだ。383系の乗り心地は良い。車体の作りが丁寧だ。メーカーは3社が担当していて、この車輛はたぶん近畿車輛が作ったのではないか。ほうほう、詳しいですね。たしかに乗り心地がいいと思う。調子を合わせてきたけれど、私が東京から来たと知ると、この人物の話の内容がひねくれてくる。

「大阪のメーカーはステンレス車体もアルミ車体もうまく作るんですよ。でも東急車輌はダメだな。いまは総合車両製作所だけど、アルミ車体の技術に出遅れたんだよね」

ここから東急車輌の苦言、というより、悪口が始まった。しばらく頷き、少しずつ会話から遠ざかろうとしたけれど止まらない。だんだん不愉快になってきたので、ピリオドを打つことにした。

「あの、ところで」
「なんですか」
「私、その総合車両製作所の横浜工場に勤めてるんです。元東急の」
「えっ」
しまった! やっちまった! という顔になった。いいぞ。ショックを与えてやった。しかし、このままでは私は経歴詐称である。
「嘘です」
「……なんだあ、ビックリさせないでくださいよ……」
静かになった。

この間に京都駅に停車、そして発車。山科を通過すると、サントリーの工場の横を通り過ぎる。朝の連続ドラマ小説『マッサン』の場面を思い出した。工場の手前を蒸気機関車と客車が通り過ぎていく。CGだとわかっているけれども、低予算ながら雰囲気のある映像だった。なんでこんなことを思い浮かべたか。たぶん、隣人の言葉を気にしないように、現実から離れた風景を思い出していたと思う。

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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