第648回:複々線を快走 - ワイドビューしなの9号 2 -
ワイドビューしなの9号は順調に走行中。前方の展望も、目障りなカメラを気にしなければ良好だ。京都までの複々線区間で各駅停車を追い越し、関空特急はるか、コンテナ貨物列車とすれ違う。向日町の車両基地も、ふだん見かけない関西の車両ばかりで飽きない。
京都を出てトンネルを抜けると景色が開ける。市街地が広がり、その向こうに山が立ちはだかる。ここは琵琶湖沿岸の街だ。線路は山々の切れ目を探すようにカーブが続く。この389系電車は振り子機構を搭載しているけれど、大阪から名古屋までは傾かない。平坦で高速な幹線区間は振り子機構に対応していないそうだ。電車が傾くとパンタグラフが大きく振れるから、架線の張り方で対応しなくてはいけない。
複々線区間の架線柱は線路4本の外側にある。視界が広く、目障りに横切るものもない。各駅停車を何度か走行中に追い越した。線路4本が並び、しなの9号は左端を走っている。低速で、加速も減速もない。安定した走りってやつだ。この気持ちの良い複々線区間は草津で終わる。普通列車を追い越し、プラットホームを通過すると、しなの9号は右隣の線路に転じた。
米原駅、プラットホームにアマチュアカメラマンの姿
左側の線路は高架になって、こちらの線路をまたいで右へ。複雑な線路配置を抜ければ、複々線区間は終わって複線になる。右隣の線路の進行方向が逆転し、向かってくる電車が近づいてくる。複線区間だから当たり前だけど、目が複々線の前方展望に慣れているから、対向列車とすれ違う時に迫力を感じた。
琵琶湖沿岸を走っているはずだけど、線路は岸から遠い。草津を過ぎれば、次の見どころは彦根城になるはずだ。前ばかり向いていたけれど、左右の景色も楽しもう。スマートホンに地図を表示させて、カーナビのように自動スクロールさせる。よし、彦根城をしっかり見た。写真はタイミングが合わなかった。近江鉄道の電車も見えた。まだ乗っていない。いつにしよう。
オレンジ帯の電車たち。JR東海エリアに入った
まもなく米原、という車内放送がある。線路が分岐し、駅構内にさしかかったあたりでしなの9号は速度を落とした。先行する新快速が遅れており、その影響で詰まっているという。新快速が悪いのか。いや、こちらも調子を上げていたぞ、快調に飛ばしすぎたか。ゆっくり、ゆっくりとプラットホームに進入して停まる。ホーム先端に数人のカメラマンがいて、この列車を撮影している。383系がこの駅を通る様子は、あと2日で見納めだ。
しなの9号は米原を3分遅れて発車した。3分くらい、と思う。特に今日は乗車そのものを楽しむ人ばかりのはず。しかし、どこかの駅で乗り継ぐ人もいるだろう。名古屋までに回復しなければ、3分遅れを中央本線に持ち込んでしまう。単線区間があるから、すれ違う列車も遅れ始める。だからちょっと頑張らないといけない。
名鉄パノラマSuperが名鉄岐阜駅へ
しかし、しなの9号はいったん上げた速度を下げた。トンネルの補修工事区間があった。天下分け目、豪雪で知られる関ヶ原を通過。左に向かっていく線路がある。東海道本線の下り列車線用の線路だ。勾配を迂回するルートである。かつて新垂井駅があったから新垂井線と呼ばれている。
私は新垂井線を寝台特急で通過しているけれど、昼間に乗っていないから、景色は知らない。現在は下り貨物列車と特急だけ。しなのはもう通らないから"ワイドビューひだ" か "しらさぎ" に乗るしかない。こんな鉄道ネタポイントだから、バッテラさんがなにか言うと思ったら静かだ。寝ている。起こすと面倒だからそのままにしておく。
貨物列車
2分遅れで岐阜に到着。この駅を出ると名鉄本線の上を通過する。ここは前面展望ではなく左の車窓に注目する。2分遅れのおかげで、ちょうどパノラマSuperが名鉄岐阜駅に進入するところが見えた。12年前に、あの展望席に座った。夜間だったけれど、ガラス窓の角度が工夫されているようで室内が映り込まないところに感心した。
普通列車
そういえば、すれ違う電車にオレンジ帯が入っている。東海道本線は米原がJR西日本とJR東海の境界線だ。両社とも各駅停車は米原で折り返す。銀色車体に顔だけ白。そしてオレンジのライン。これがJR東海の在来線カラーである。展望席はすれ違う電車の顔がよく見える。大きな右カーブを過ぎてしばらくすると、新しい色の電車が現れる。東海道新幹線の青と白。新幹線の高架線が寄り添ってくると名古屋駅だ。遅れは取り戻している。運転士さんの良い仕事。今日は背後に視線をたくさん感じて、頑張っちゃったかもしれない。
名古屋到着
信じられないことに、名古屋で1Dの席が空いた。ガラスにビデオカメラを取り付けていた青年だ。廃止になる大阪から名古屋の間だけを撮影したかったらしい。そして、名古屋からの客はなく、1Dが空席のまま名古屋駅を定刻に発車した。なんともったいない。そこの席を取れたら、私なら全区間乗り通す。いや、こういう使い方をする人がいるなら、大阪から名古屋までと、名古屋から長野まで、指定席を分割購入すればよかった。
JR東海の特急電車と特急気動車
しなの9号は金山駅を過ぎて中央本線に入った。どんどんスピードが上がっていく。車内放送は自動音声に切り替わっていた。幸運なことに晴れてきた。中央本線は北東方向に進路を変えて、信州の山里へ向かう。要するに山岳路線。つまり曲線が多く、振り子装置が活躍するはずだ。
名古屋~金山間は名鉄と併走する
列車が振り子装置で傾いている様子を撮りたい。しかし、人は車体と一体で傾いているから、自分自身は傾いているように感じない。前面展望にデジカメを向けて、どうしようかと考えた。しばらくして、答えを見つけた。架線柱が傾いている。いや、架線柱は垂直だけど、車体と私が傾いているから、架線柱が傾いているように見える。
中央本線に入った
さて、次の問題は、カメラの垂直方向を架線柱に合わせるべきか、カメラの水平方向を窓枠に合わせるべきか……。両方とも試してみよう。長野駅到着まで3時間ほどある。たっぷりと遊べそうだ。
振り子の傾き、ファインダーを覗くと平衡感覚が怪しくなった
-…つづく
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