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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第479回:山の遭難? それとも人災? その1

更新日2016/09/08



今年の夏休みも、ウィークデイは山篭り、週末の土日だけ下界に下りて、洗濯、食料の買出し、そしてホントウのシャワーを浴び、リフレッシュしてまた山に向かうという休暇を過ごしました。

狙った山の登頂率は3割ほどかしら、途中で引き返すのもよし、存分に山の空気を吸い、素晴らしい景色を眺めることができたから、それで大満足の夏休みでした。

私たちが行く山、キャンプする山は、あまり他の人が行かない、知られていないところが多く、一旦山に入ってしまうと、まず人に会いません。テントの中で夜、周囲何キロ、何十キロに人間がいないと思ったりすると怖くなりますが、人間何事も慣れです。慣れるものです。 

それに、たいした山ではないにしろ、自然に分け入るのですから、すべて自分たちの責任です。私たちはSOS救援を求める携帯電話を持っていませんから、二人のうちどちらかが山を降りて救助隊に連絡するしかありません。ですから、ちょっと大げさなくらい水、清水浄化器、食料の予備、羽毛服、防水カッパ、ライター、簡単な救急医療セットなどを持ち歩くことになります。

実際に応急セットを使ったのは、たった一度、それも他の、一人歩きの若者が鋭い岩でスネを切った時、ウチのダンナさん、なにやら手馴れた様子で傷口を消毒し、見事に包帯を巻いてあげただけで、自分たちのために使ったことはまだありません。十数年の山歩きでその一回だけのために、そんなものを持ち歩くのはバカ気ているように思えますが、ウチの仙人は「それでよいベヤ…」とか悟ったようなことを言っています。

今年の山行で一度、とても危ない目に遭いました。ヘンリーマウンテンというユタ州の砂漠の中に突然盛り上がってきたような連山があります。そこで雷嵐に遭遇したのです。雲行きが怪しくなり、閃光と落雷音の時間差が7、8秒だったのが段々短くなり、大粒の雹、氷雨が吹きつけ出し、峰のコル(サドル、馬の背)付近の石の洞穴に避難しました。

そこまでは教則本通りで、その洞穴、竪穴でしたから、角度によってはかなりの雨、雹に叩かれることになりましたが、ともかく一時間ほど避難し、ポンチョを被りジッと耐えていました。岩穴で硬い石の上に腰掛け、縮こまっていましたから、寒さもあって体がコチコチに硬くなり、少し雨があがり、雷が遠のいた時、外に出てノビをするのはとても気分が良いことでした。

その時、雷雲は去っていたのですが、遠く西の方に第二弾の雷雲があるのを二人とも見て、知っていたのに、目の前にソビエている山頂が私たちを呼んでいるかのように思え、「オイ、どうする、登ろうか?」「ヨシ、行こう!」とやってしまったのです。

ウチのダンナさんと時々図書館で待ち合わせるのですが、夏の暑い盛り、冬の寒さが厳しくなると図書館はエアコン、暖房を求めるホームレスの溜り場風になります。ダンナさんその中に極自然に溶け込んでいるのです。陽に焼けた顔や首、禿げ白髪、はき晒したジーパンにしわくちゃのTシャツ、サンダルもしくは汚れた運動靴…それはそれは立派にショボクレタ、ヨレヨレホームレスと同類項なのです。

ところが、そんなホームレス・スタイルのダンナさん、同じ服装で山に入ったとたんに、姿勢、歩るき方まで変わり、まるで山羊のように岩を飄々と渡り、登り始めるのです。雷で避難した穴倉から出たウチの仙人は、急なタラス(ガレ場、大小の崩れやすい岩、石が積み重なったところ)を、まさに水を得た魚のようにスイスイと頂上目指して登り出し、登頂し、相当遅れた私が登り切るのを待って、もうすでに怪しげな雲が流れて、迫って来ていましたから、即、降り始めました。 

ですが、途中で閃光が暗い空を裂き、大音響の雷が山を揺るがすように落ち始め、横殴りの大粒の雹が体を刺す事態になってしまいました。避難できる洞窟もなく、山の稜線を避け、山の腹を横切るように這っての下山でした。一番近い落雷は、おそらく50メートル以内だったと思います。なにしろ、閃光が岩を撃つのがはっきりと見えましたから…。

雷に当たるのは、ジャンボ宝くじに当たる確率より低いそうです。山で雷を避けるために様々なことが言われていますが、そのような状況に身を置かない、夏には雷が発生しやすくなる午後に登頂しない、少なくとも午後2時には下山している、雲行きが怪しい時には、山をあきらめることしかありません。

雷さんのパワーは物凄く、しかも通路、経路は全く予想がつきません。ゴルフコースで優れた伝導体であるチタン、カーボンファイバー、アルミ製のゴルフクラブがあれだけあるのに、ゴルファーの前のチャックに落雷したニュースが新聞沙汰になっていました。どこに落ちるかは神のみぞ知る…と考えた方がよさそうです。

今回はどうにか無事にキャンプに帰り着きましたが、テントの中での"反省会"で、ウチの山羊仙人、シキリに「ウーム、ヤバカッタな、俺、判断誤ったな~」と深く悔いていました。

 

 

第480回:山の遭難? それとも人災? その2

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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