第143回:私の蘇格蘭紀行(4)
更新日2009/05/21
■いよいよスコットランド入り
4月1日(木)晴、日本で言えば平成11年度の年度初め、いよいよ念願のScotland入りの日を迎える。2ヵ月前に退社した会社に、もしまだ残っていれば、今頃は入社式で新入社員にあれこれとレクチャーをしていた時分だ。何だか旅行をしていることが、とても非現実的なことのように思える。
前夜はKing's Cross駅のすぐ近くに宿をとったため、駅に行くのはとても楽だった。ところが切符の購入と乗車方法でいきなり戸惑ってしまう。窓口で「Edinburgh駅までください」とお願いすると、即座に「Single
or return?」と訊ねられる。
Single? 単独?片道one wayのこと? ではreturn? 戻る?・・・。行きだけと帰りだけの切符を売っているのだろうか。よくわからない。とりあえず窓口から離れて、切符を買う人たちの様子を観察してみた。
それでもよくわからないので、できるだけ頼るまいと決めていたベルリッツの『イギリス英語旅行会話ブック』を盗み見る。a
single ticket=片道乗車券 a return ticket=往復乗車券(因みに米ではan one way
ticket/a round -trip ticket)とあった。
それではreturnを、と窓口に言ってから、とっさに、「待てよ、ロンドンに帰ってくるのは25日の予定、日本では有効期限がせいぜい4日くらい。こちらでも無理かな」と思い、後ろに並んでいる人がさぞ迷惑だろうなと感じつつ、カタコトの英語でそのあたりを確認する。
何とこの区間での往復乗車券の有効期限は1ヵ月もあるとのことで、安心して購入し、すでに入線している大型特急、その名も「FLYING
SCOTSMAN」!!に乗り込もうとしたが、乗車口で駅員に「bookingはしてあるのか、なければ窓口へ」と言われてしまう。
窓口では、「この列車の指定席はもうないから、乗りたいのならとにかくホームへ行きなさい」とのこと。なんだかさっぱり意味がわからなかったが、気を取り直してホームに立っていた親切そうな黒人の駅員に、「私はどうしたらいいのでしょうか」と、できるだけ哀れな目で訊ねてみる。
彼はしきりに、「シー、コーチシー」を繰り返す。「シー」というのだから、「C」のつく車輌を見つけようとホームを歩き続けると「coach
C」という車輌に出会した。それは、日本で言ういわゆる自由席車輌であった。乗車すると、幸運なことにかなりの席が空いていたので、見晴らしの良い席にようやく深く腰掛けた。
どの駅員の方も丁寧に説明してくれているのだろう。分かってしまえば単純のことなのに、こちらのリスニング能力があまりに乏しいだけだ。かなり先が思いやられるが、「まあ何とかなるでしょう」という持ち前の能天気さで開き直る。
午前10時30分発GlasgowゆきFrying Scotsman。下車駅Edinburghまで約4時間半の旅程。距離的には東京-大阪間とあまり変わりないと思うが、この列車が走る線路がのぞみ号とは違う。高架の箇所はほとんどなく、在来線に近い感じで、広がる草原や丘陵の中を進んでいく。
途中、ゆっくりと草を食む羊、牛、馬の姿を何回も目の当たりにして、英国はやはり農業国だなあと感じる。車内では車内販売の4人のお兄さんたちがとても明るいノリで乗客を楽しませていた。さすがにモンティ・パイソンを生んだ国なのだ。
午後3時過ぎ、Edinburgh駅に到着。荘厳なエディンバラ城の真下に作られた駅だった。
下車するなり、私はThomas Cookの経営しているホテル紹介所に入った。カウンターの中に女性が一人。カウンターの外で自分の子どもだと思われるベビーカーに乗った赤ん坊をあやしている、いかにもスコットランド人という男性がいて、最初、お客さんの一人だと思っていたが、私がカウンターに向かおうとすると、「少々お待ちください」と言って、接客の準備を始めた。
よく見ていると、カウンターの女性とはご夫妻の様子、お二人でこの紹介所を切り盛りしているようだ。さっきの、「少々お待ち・・」を、彼は指で2を表し"Sorry,
just a 2 minutes"と言っていた。A few minutesの韻を踏んだ言い換え、「2分待って!」なるほどである。
この男性をも、私はまた手こずらしてしまう。「25ポンドパナイトゥ」としきりに言うが、私にはパナイトゥの意味がわからない。彼は、「ああ、何でこの旅行者はこんなことが分からないのだろう」という嘆き顔になり、「ねえ、だれかこの人の国の言葉わかる人いませんか? ああ、そこの東洋の方、分かりませんか、ねえ」と、4、5人の団体客に声をかけ出した。
"No, We are Chinese. May be, He is Japanese."の答えに、がっかりした様子の彼に、ようやく理解できた私が"£25
per night? OK. I decide."と了解したので、彼は心底ホッとしたようだった。
5泊分の申し込みをしてから、「1泊25ポンドね。ちゃんと発音してくれてたらすぐ分かったのに」と日本語で言いながら彼と握手をし、今日1泊目の宿泊料£25と斡旋手数料の£5を足して£30を支払い、宿泊先のB&B「Cangero
Hotel」の地図をもらって、紹介所を後にした。
-…つづく
第144回:私の蘇格蘭紀行(5)