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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第197回:ラグビー・ワールド・カップ2011 プール戦終了

更新日2011/10/06

ついに我がスコットランドは、第1回ラグビーW杯以来続いていた決勝トーナメント連続出場記録に終止符を打ってしまった。

今大会のスコットランドは、今までの大会のチームに決して引けを取ることのない、むしろかなり強いチームだったと思う。敗れた相手とのスコアも、対アルゼンチン12-13、対イングランド12-16という、いずれも1トライ以内の僅差。しかも、両試合ともゲーム終了間際にトライを奪われるまではリードしていたのである。

紙一重のところで、プール戦1位通過の可能性を持ちながらも、予選敗退の結果に終わってしまった。その理由は、偏にトライが獲れないことにある。

今大会、初戦のルーマニア戦では4トライを挙げボーナスポイントが付いた勝ち点5を得たものの、2戦目のグルジア戦から、アルゼンチン戦、イングランド戦まで、3試合連続ノートライのゲーム。

試合の流れの問題もあり、勝負の綾というのはそれ程単純ではないにしても、敗戦2試合は、終盤にトライが獲れていたら勝てたゲームだとファンが思ってしまうのも、無理はないだろう。

この予選敗退を機に、スコットランド・ラグビー協会(Scottish Rugby Union)が本腰になって強化を図り、スコットランドを「トライを獲って勝つ」魅力的なチームにしていただきたい。

以前はスコットランドよりはるかに格下だったアイルランドが、レンスター、マンスターなどのクラブチームの強化に成功し、国全体のレベルを押し上げ、今回の予選プール1位通過を果たした。その姿勢を謙虚に学んでほしい。

そして、かつてテンポの良いラックの連取から、鮮やかなトライを獲って見せたスリリングな攻撃を、再びW杯の舞台で披露してもらいたいと強く願っている。

ジャパンは、また勝てなかった。けれども、確かにジャパンは強くなっているのだ。今回は、トンガ、カナダには思い切り勝ちに行った。しかし、届かない。それは、他のチームの強化の加速度が上回っていたのだと思う。

トンガもカナダも、W杯までのある時期までは日本よりも調整が遅れているように見えた。ところが、凄まじい勢いで結束力の堅い良いチームに仕上げてきたのだ。

今大会、調子が悪いとはいえ、過去のW杯で2度のファイナリストの経験を持つフランスを、トンガは力勝負で凌駕してしまった。そのトンガにトライ合戦で勝利したカナダ。両チームとも強いチームだったのだ。

ジャパンは、ジョン・カーワンの与えてくれた良い部分は継承し、成し得なかった部分は努力を重ねてできるようにし、地道に一歩ずつ強くなっていってもらいたい。そして、次回のW杯に最強の状態で望んでほしい。菊谷の、大野の、小野澤の悔し涙を、絶対に無駄にしてはならないと思う。

さて、決勝トーナメント。意外なことに、二つの山が北半球と南半球に完全に分かれてしまった。決勝戦(3位決定戦もそうなるが)までは南北半球の対決は見られないという、前代未聞の組み合わせになった。

■準々決勝(例えばプールAの1位通過チームはA-1と表記)
第1試合 アイルランド(C-1) 対 ウエールズ(D-2)
第2試合 イングランド(B-1) 対 フランス(A-2)
第3試合 南ア(D-1) 対 豪州(C-2)
第4試合 NZ(A-1) 対 アルゼンチン(B-2)

準決勝
第1試合 準々決勝1勝者 対 準々決勝2勝者
第2試合 準々決勝3勝者 対 準々決勝4勝者

何と言っても準々決勝で最も注目されているのは、南ア対豪州のカード。過去のW杯で、2度優勝という最高の記録を持つ国同士の対決が、早くもクォーター・ファイナルで実現することになった。

過去の両国の戦績は、南アフリカ40勝、オーストラリア26勝、1つの引き分け。W杯に限れば1勝1敗。但し、今年のトライ・ネーションズではオーストラリアが2連勝。

大会前から調子が今ひとつと言われてきた南ア、プール戦で全勝はしているが、ランキングが明らかに下位のチームに手こずるなど、内容的にはピリッとしない。

一方の豪州はアイルランドに不覚を取ったが、その他のゲームはすべて4トライ以上の勝利を挙げている。ただ、ロシア戦の3トライ献上はディフェンス面での課題を残した。

いずれにせよ、その勝者が当たるのが、おそらく地元NZ。実にタフでスリリングな組み合わせだ。

そのNZ。予選プールでまさに王道を歩んでいたが、ここに来ていきなり「一天俄に掻き曇り」の様相である。世界最高峰の司令塔であるダニエル・カーターが、キックの練習中に左足付け根の内転筋断裂により離脱したのだ。今回のW杯出場は絶望とのことである。

初回のコラムに書いた通り、NZの優勝の条件にはリチャード・マコウ、コンラッド・スミス、そしてカーターが最後までプレーできることが必須だったのである。彼がいなければ極端に手薄になるNZのフライ・ハーフ(スタンド・オフ)のポジション。

一気に態勢は不利になったが、この苦境をどう乗り切ることが出来るか。まずはアルゼンチンとのゲームで方向が見えてくるはずである。

北半球の方の山。アイルランド対ウエールズのゲーリック対決は興味深い。今大会では絶好調の両チームだが、勢いと試合の展開の上手さで言えばアイルランドが有利か。今大会のアイルランド、ファイナリストになれる可能性を感じる。

もう1試合のイングランド対フランス。ゲーリック2カ国とは対照的に、今大会の出来はあまり良くない。殊にフランスはゼーゼー言いながら決勝トーナメントに上がってきた感さえある。

そうは言っても伝統のある両チーム。この試合に勝っていきなり勢いに乗り、そのまま走ってしまう力は充分に秘めているのだ。

今度の土日が待ち遠しくて、年甲斐もなく指を折ったりしている。

-…つづく

 

 

第198回:ラグビー・ワールド・カップ2011 決勝へ

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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