のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第917回:天皇は神様?

更新日2025/09/18 

 

奇妙なことですが、中年以上の西欧人で、日本人は皆、天皇を神だと信じ込んでいたと思い込んでいる人が意外に多くいます。とりわけ第二次世界大戦を体験した世代の人たちは、日本人が天皇をまるで西欧の神、キリスト、エホバのように、あるいはモスレムの国の人々にとってのアラーのような存在だと見ていたようなのです。
 
私の知る日本人で天皇を神さまだと信じている人、過去に信じていた人に出会ったことがありません。それどころか、ダンナさんの親の世代でも、天皇=神だなんて誰も信じていなかった、あれは軍部が勝手に作り上げた神話で、天皇の名を利用しただけだと言うのです。

確かに日本の長い歴史で、天皇を神様扱いした時期は全くないようです。明治維新の時、革命を動かした尊皇攘夷をお題目のように唱えた人物でも、誰も天皇は神だなんて思っていなかったでしょう。天皇はどちらかというと政争に絡んだりせず、巻き込まれてもどうにか殺されずに、生かされていた期間の方が長かったように思えます。神どころか実権もなく、ただ儀式用に飼われていたようにさえ思えます。
 
日本の文化に深い理解を持ち、近松門左衛門の戯曲や現代では三島由紀夫、川端康成、安部公房を西欧に広めたドナルド・キーンさんが、安部公房が中学校時代、仲間の生徒で天皇を神だなんて思っていた生徒は一人もおらず、そんなことを言ったら気狂い扱いされただろうと述べているのは、信じられないことだ、それはきっと安倍公房が日本国内ではなく、満州の学校に行ったからだろうと書いているのです。

軍部、主に陸軍が日露戦争後に言い出しっぺで、天皇=神様をプロパガンダとして唱え出し、それが日本を朝鮮、台湾、中国本土へ狂気の侵略に駆り立て、国を滅ぼすことになったと、ウチのダンナさんは言うのです。付け加えて、日本の軍部が天皇=神様を盾にきて、横暴、弾圧、他国に侵攻したのは、期間にすると長い日本の歴史の中で、昭和のほんの35~37年間だけではなかったかな~と付け加えています。

第二次世界大戦に負けて、マッカーサーが乗り込んできて、辣腕を振るい始め、昭和天皇が正装でマッカーサーの政庁を訪れ、マッカーサーと並んで撮った写真がマスコミに盛大に流れました。御真影などというものではなく、ノッポのマッカサーは正規の制服でさえない略服で、だらしない姿勢で立ち、チビの天皇がこれ以上あり得ないほどの儀式用の立派な正装で緊張の面持ちで並んでいる写真は、まるでアメリカのテレビコメディーのコマーシャルのようです。
 
そして、“天皇の人間宣言”という奇妙なラジオ放送がありました。初めから天皇を人間だとしか思っていない日本人が大半で、軍部の抑圧を恐れて右へ倣えをしていただけのようですから、何を今更…の感を持ったことでしょう。この天皇=人間宣言はあの滑稽な天皇とマッカーサーの写真のダメ押しをするため、マッカーサーが天皇に言わせたものではないかと思っています。

ということは、マッカーサー自身、日本人の大半は天皇は神であると信じていると、信じていたのでしょう。そして、そんな考え方をしているアメリカ人、西欧人が圧倒的多数を占めていたし、今でも日本人はどこか狂信的に天皇を崇め、奉るところがあると思い込んでいる西欧人が結構いるのです。
 
天皇制を自分の都合で利用した軍人たちは、天皇をツンボ桟敷に置き、天皇の人格、意向を全く無視して、犯罪的な行為を繰り返していたと言っていいでしょう。それを、軍部のプロパガンダを西欧人は日本人全体に当てはめていたと思います。

それは西欧の多くの国の人々は一神教、キリスト教に洗脳されていますから、自分自身を日本人の天皇観に当て嵌めたのでしょう。早く言えば、天皇=神が西欧人にとって最も簡単で分かりやすいからです。日本の普通の家の中に、神棚と仏壇が同居している現実を理解していないのです。そして神棚、祭壇に祭り上げられている“神”は地域によって多種多様で、必ずしも現時点での天皇と関わりが薄いか、全くないことを知らないのでしょうか。

『菊と刀』を書いたルース・ベネディクト(Ruth Benedict)は、日本人の天皇制感をどう観ていたのかしら。


イギリス人の皇室好きは特に有名ですが、それに感化されアメリカ人でもイギリス王室のニュース、ゴシップがマスコミを賑わせます。王室専門のレポーターを送っている放送局があるくらいです。それに応えるように、イギリス王室も定期的に?スキャンダルをばら撒き、マスコミを飽きさせません。
 
日本の皇室はゴシップ、スキャンダルの製造元としてはとてもイギリス王室に敵いませんが、主に女性週刊誌やお昼のテレビの番組で、他にもっと大事なニュースがあると思うのですが、皇室ニュースを誰々さまが、どこを訪問されたと盛んに報じています。今時、天皇は神様だと思っている人はいないでしょうけど、あの皇室好き、皇室ファンはアメリカ人の私から観ると奇妙なくらい異常に写ります。そして何かキマリでもあるのでしょうか、皇室の子女がまだ赤ちゃんの時から“さま”付けで呼び、決して愛子ちゃん、佳子ちゃん、それどころか“さん”とも呼びません。必ず“さま”なのです。あれは何なんでしょう? 尊敬の押し付けなのかしら…。

でも、王室、皇室はゴシップの種になる程度の存在でいることが平和なのでしょうね。

 

917-01
Macarthur & Hirohito

-…つづく

 

 

第918回:抹茶狂想曲

このコラムの感想を書く

 

modoru



Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えていました。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで
第451回~第500回まで

第501回~第550回まで
第551回~第600回まで
第601回~第650回まで
第651回~第700回まで
第701回~第750回まで
第751回~第800回まで
第801回~第850回まで
第851回~第900回まで

第901回:マナーとエチケット
第902回:米語オンリー?
第903回:リズムに合わせみんなで踊ろう!
第904回:アメリカ人の法皇が選出されました
第905回:忖度と自主規制 、そして報道管制へ
第906回:外国人は辛いよ・・・
第907回:アメリカ的弁護士社会
第908回:器用と貧乏の関係性は?
第909回:明日は我が身、介護は身に迫る問題です
第910回:復讐心と戦争
第911回:気象異変と山火事
第912回:AI<人口知能>の世界
第913回:男色の世界、女色の風俗
第914回:辞書、辞典の活躍
第915回:“お迎えが来る”…まで
第916回:コーヒーとトランプ関税

■更新予定日:毎週木曜日