第917回:天皇は神様?
奇妙なことですが、中年以上の西欧人で、日本人は皆、天皇を神だと信じ込んでいたと思い込んでいる人が意外に多くいます。とりわけ第二次世界大戦を体験した世代の人たちは、日本人が天皇をまるで西欧の神、キリスト、エホバのように、あるいはモスレムの国の人々にとってのアラーのような存在だと見ていたようなのです。
私の知る日本人で天皇を神さまだと信じている人、過去に信じていた人に出会ったことがありません。それどころか、ダンナさんの親の世代でも、天皇=神だなんて誰も信じていなかった、あれは軍部が勝手に作り上げた神話で、天皇の名を利用しただけだと言うのです。
確かに日本の長い歴史で、天皇を神様扱いした時期は全くないようです。明治維新の時、革命を動かした尊皇攘夷をお題目のように唱えた人物でも、誰も天皇は神だなんて思っていなかったでしょう。天皇はどちらかというと政争に絡んだりせず、巻き込まれてもどうにか殺されずに、生かされていた期間の方が長かったように思えます。神どころか実権もなく、ただ儀式用に飼われていたようにさえ思えます。
日本の文化に深い理解を持ち、近松門左衛門の戯曲や現代では三島由紀夫、川端康成、安部公房を西欧に広めたドナルド・キーンさんが、安部公房が中学校時代、仲間の生徒で天皇を神だなんて思っていた生徒は一人もおらず、そんなことを言ったら気狂い扱いされただろうと述べているのは、信じられないことだ、それはきっと安倍公房が日本国内ではなく、満州の学校に行ったからだろうと書いているのです。
軍部、主に陸軍が日露戦争後に言い出しっぺで、天皇=神様をプロパガンダとして唱え出し、それが日本を朝鮮、台湾、中国本土へ狂気の侵略に駆り立て、国を滅ぼすことになったと、ウチのダンナさんは言うのです。付け加えて、日本の軍部が天皇=神様を盾にきて、横暴、弾圧、他国に侵攻したのは、期間にすると長い日本の歴史の中で、昭和のほんの35~37年間だけではなかったかな~と付け加えています。
第二次世界大戦に負けて、マッカーサーが乗り込んできて、辣腕を振るい始め、昭和天皇が正装でマッカーサーの政庁を訪れ、マッカーサーと並んで撮った写真がマスコミに盛大に流れました。御真影などというものではなく、ノッポのマッカサーは正規の制服でさえない略服で、だらしない姿勢で立ち、チビの天皇がこれ以上あり得ないほどの儀式用の立派な正装で緊張の面持ちで並んでいる写真は、まるでアメリカのテレビコメディーのコマーシャルのようです。
そして、“天皇の人間宣言”という奇妙なラジオ放送がありました。初めから天皇を人間だとしか思っていない日本人が大半で、軍部の抑圧を恐れて右へ倣えをしていただけのようですから、何を今更…の感を持ったことでしょう。この天皇=人間宣言はあの滑稽な天皇とマッカーサーの写真のダメ押しをするため、マッカーサーが天皇に言わせたものではないかと思っています。
ということは、マッカーサー自身、日本人の大半は天皇は神であると信じていると、信じていたのでしょう。そして、そんな考え方をしているアメリカ人、西欧人が圧倒的多数を占めていたし、今でも日本人はどこか狂信的に天皇を崇め、奉るところがあると思い込んでいる西欧人が結構いるのです。
天皇制を自分の都合で利用した軍人たちは、天皇をツンボ桟敷に置き、天皇の人格、意向を全く無視して、犯罪的な行為を繰り返していたと言っていいでしょう。それを、軍部のプロパガンダを西欧人は日本人全体に当てはめていたと思います。
それは西欧の多くの国の人々は一神教、キリスト教に洗脳されていますから、自分自身を日本人の天皇観に当て嵌めたのでしょう。早く言えば、天皇=神が西欧人にとって最も簡単で分かりやすいからです。日本の普通の家の中に、神棚と仏壇が同居している現実を理解していないのです。そして神棚、祭壇に祭り上げられている“神”は地域によって多種多様で、必ずしも現時点での天皇と関わりが薄いか、全くないことを知らないのでしょうか。
『菊と刀』を書いたルース・ベネディクト(Ruth Benedict)は、日本人の天皇制感をどう観ていたのかしら。
イギリス人の皇室好きは特に有名ですが、それに感化されアメリカ人でもイギリス王室のニュース、ゴシップがマスコミを賑わせます。王室専門のレポーターを送っている放送局があるくらいです。それに応えるように、イギリス王室も定期的に?スキャンダルをばら撒き、マスコミを飽きさせません。
日本の皇室はゴシップ、スキャンダルの製造元としてはとてもイギリス王室に敵いませんが、主に女性週刊誌やお昼のテレビの番組で、他にもっと大事なニュースがあると思うのですが、皇室ニュースを誰々さまが、どこを訪問されたと盛んに報じています。今時、天皇は神様だと思っている人はいないでしょうけど、あの皇室好き、皇室ファンはアメリカ人の私から観ると奇妙なくらい異常に写ります。そして何かキマリでもあるのでしょうか、皇室の子女がまだ赤ちゃんの時から“さま”付けで呼び、決して愛子ちゃん、佳子ちゃん、それどころか“さん”とも呼びません。必ず“さま”なのです。あれは何なんでしょう? 尊敬の押し付けなのかしら…。
でも、王室、皇室はゴシップの種になる程度の存在でいることが平和なのでしょうね。

Macarthur & Hirohito
-…つづく
第918回:抹茶狂想曲
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