第918回:抹茶狂想曲
コーヒーの値段ことは以前書きましたが、ここに来てブームの抹茶が品不足で、かつ猛烈に値上がりしています。
一番下の妹はトレンドに敏感で、健康志向が強く、4、5年前にコーヒーをスッパリと止め、抹茶に切り替えています。会うたびに抹茶の方が身体に良いよ、おまけに抗酸化作用があるから歳を取らず、若々しい肌を保てるんだよ…と、年相応に皺だらけになった私を見てご教授してくれるのです。
先週、テレビの全米ニュースで、“Matcya Madness(抹茶狂い)”と題した特集が報道されました。私たちは、アメリカで抹茶を買ったことありませんが、スターバックスで抹茶ラテがカフェラテに迫る売れ行きなんだそうです。日本の独特の抹茶とイタリア語の牛乳を意味するラテを組み合わせたあたり、何ともカリフォルニア的だな~と思っていたところ、元祖抹茶専門店はやはり、サンフランシスコでした。否、ウチの方が古いぞというロスの喫茶店オーナーが出てきましたが、マー、どちらが元祖でも、全米に広がったことに変わりはありません。
相当昔から、第二次世界大戦後、日本に進駐したアメリカ兵たちが、盛大に日本文化を吸収しアメリカに持ち帰りました。その時は主に日本の武道で、柔道、空手、合気道、剣道などで、あとは日本食のすき焼き、天ぷら、寿司、刺身でした。
私自身、茶道は外国では決して広がらないだろうと思っていました。第一、茶道は茶室がなければ成り立たず、おまけに正座なんて椅子文化に侵された西欧人には全く不可能です。しかも、どこが美味しいのか不明な、ぬるくて苦いだけの抹茶をほんの少し呑むだけのために、あんな仰々しい作法を踏まなければならない…とは、あんなものは欧米で流行るわけがないと思い込んでいたのです。
ウチのダンナさんの叔父さんが、茶道の大家、先生で、結婚したばかりの時、初釜に招待してくれました。私は義理のお姉さんの着物を借用し、それなりに身なりを整え、席に臨みました。もちろん、立派な茶室で、叔父さんと彼の娘さん(ダンナさんの従姉妹、彼女も裏千家の先生です)それに何人かお茶の生徒さんが着物を着て列席していました。
ウチのダンナさんはジャケットに普通のズボン姿でしたが、おそらくというより確実に、何十年も正座なんかしたことがない様相で、まるで拷問されているかのように、しかめ面をして堪えているのです。私の方は、それ以前にお琴を習っていて、一応正座に慣れていましたが…。ダンナさん「茶道というのは拷問に近いな…」と痺れた足先や脚をさすりながらのたまっていました。
一般の日本人でも、茶道を習っている人以外、まず日常的に抹茶を喫する習慣はない、と言って良いでしょう。お茶といえば煎茶、緑茶、番茶などで、「ちょっとお茶しない?」と言えば、喫茶店に行こうか、コーヒーでも飲もうかという意味になっているようです。
そこへ来て、アメリカ、西欧、特にドイツの抹茶ブームはどうなっているのかと言えば、日本の抹茶とは似て非なるモノなのです。茶道とは全く関係なく、単なる健康志向の流行りの呑みモノなのです。
まず、砂糖をどっぷり入れて甘くする。コカコーラなどの清涼飲料水の甘さで鍛えられていますから、何でも甘くなくては飲めないのです。砂糖でなければ、人工甘味料で、これでもかというほど甘くします。そして、抹茶ラテが売れ筋なら、最近トミに悪役になってしまった牛乳、クリームとは別に、豆乳、アーモンドミルクで、最近のトレンドはココナッツミルク入りの抹茶だと言います。バニラ抹茶もイケるそうです。また、カフェインを抜いたディカフェ抹茶も登場し、人気になりそうだとのことです。加えて、抹茶アイスクリーム、ゴテゴテのチョコレートパフェに抹茶をかけるとグンと美味しさが引き立つのだそうです。
他の商品、抹茶シャンプー、抹茶石鹸、ローション、ヘアートリートメント、ボディークリームなどなど、抹茶関連商品、主に美容、化粧品が並びます。
インターネット・ショッピングのサイトを覗いてみて、驚いてしまいました。抹茶セットなるものが大変なバリエーションで売り出されているのです。セットは茶器、茶筅、帛紗それに抹茶も上中下のようにカテゴリーに分けて、茶器は何々焼き、茶筅も80から120まで(竹の細いヒゲの数で)もちろん抹茶を入れる木彫りの器、茶杓(スプーン)、中には南部鉄の茶釜まで加えているセットが売り出されているのです。そのうちに、3日で誰にでも建てることができる茶室キット、お宅の裏庭に一軒どうですか、なんてのも現れるかも知れません。
日本ブームはどこまで広がるのでしょうか。抹茶ブームは健康志向が引き金になっているのでしょうけど、抹茶から日本の味、文化に近づくならそれで良いと思うのですが、でも、今のアメリカ流抹茶ファンが、茶道に繋がる可能性はないでしょうね。
あまりに大衆化されたジャポニカ、富士山、芸者、金閣寺、銀閣寺は、本来の日本文化、生活から遠く、観光、旅行会社が作り出した日本のイメージだけに終わってしまうのではないかと少し不安です。
でも、ウチのダンナさんは、「それでも良いんじゃないか、そのうちの何人かは、日本は、日本の文化は富士山、芸者以外のところにあると気が付き、旧来の日本の伝統を知ろう、学ぼうとするだろうから…」と、あまりの日本ブームに、日本が嫌いになりそうな私に諭すのです。
-…つづく
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