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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第439回:またまた大量殺人が……進展のない銃規制

更新日2015/11/12



また、オレゴン州の田舎町、ローゼンベルグの短期大学で大量殺人事件が起こってしまいました。先生一人、生徒さん7人が殺され、それに犯人が自殺。二十数人が負傷し、病院に運ばれました。

そんなにたくさん弾の出るピストルがあるのか…思っていたところ、犯人は6丁のピストルを携えて教室に入り、先生、生徒を撃ち始めたというのです。なお、彼の自宅には他にピストル1丁、散弾銃とライフル6丁、大量の銃弾が見つかりましたから、余程のガンマニアだったのでしょう。

彼はすべての銃を"合法的"に購入しています。でも、ピストルはウォルマートなどのスーパーマーケットで、釣り竿と一緒に並べて売っていますから、"合法的"もあまり意味がありません。簡単な経歴と病歴チェックだけで、それもお店が代行してくれますから、誰でも買えます。

今回の大学キャンパスでの大量殺人の事件で驚かされたのは、事件後2日も経つと、マスコミ、新聞、テレビでどこも追跡調査のニュースなどを流さず、事件のことなどあっさりと忘れられたことです。銃器での大量殺人は、それほど日常茶飯事になってしまったのでしょう。

私が働いている大学では、今回の事件が多少は話題になりました。もっとも先生たちの間で、そんな怪しげな、危なっかしい精神状態の生徒がいるとか、いないとか、先生たちのコーヒータイム・ゴシップにはなりましたが…。

銃を持った人が教室やカフェテリアに闖入してきても、全く打つ手はありません。どこからでも大学構内に誰でも入ることができますし、どのビルディングにも金属感知器などはありません。精神的に超不安定な生徒さんは、いつも幾人かはいるものです。でも、コレばかりは、疑わしきをブラックリストに載せ、罰するわけにはいかないのです。事件が起きるまで何もできない…というのが現状です。

サンディー・フックの小学校での大量殺人以降、平均すると毎週1回、学校(小、中、高、大学)で銃が撃たれています。これではニュースの価値もなくなるというものです。ちっとも珍しい事件でなくなってしまったのです。

アメリカでは、野放しの銃による事件が当たり前のことになってしまいました。毎日、銃火器で30人が殺され、銃を使って自殺する人は毎日60人います。ですから、アメリカ国内でピストル、ライフル、散弾銃、機関銃などで命を落とす人は毎日90人に上ります。2013年のデータですが、アメリカ全土で銃で死んだ人は3万3,636人ですから、これはアフガニスタン、イラクの戦場で命を落とした人よりはるかに多いのです。

いったいアメリカにどのくらいの銃火器が出回っているか、推定ですが3兆丁だと言われ、国民一人当たり、1.5丁の銃があるのです。小さな国の軍隊が持っている銃火器よりはるかに多いでしょうね。

オバマ大統領や民主党の一部の代議員は、何度も銃規制の法案を通そうと試みていますが、いつも潰されるか、骨抜きにされてしまいます。共和党が多数を占める今の議会では打つ手なしの状態です。

銃規制そのものが合法的に認可を受けた銃砲店で銃を購入する場合だけに限られ、それですらザル法(うまい表現ですね、ダンナさんの入れ知恵です)で、前科何犯で、その州で銃を使った犯罪で実刑を受けていない限り、銃を購入できるのですが、それ以外の方法で購入した銃が出回っており、大半を占めているのです。そのような経歴調査は意味がないと、止めてしまった州も数多くあります。

たとえば、どこの町でも年に何度も開かれているガンショー(銃火器見本市)などでは、たくさんの中古の銃のディーラーが出展していて、彼等から誰でも経歴調査なしに中古の銃を買うことができるのです。また、メールオーダーでも購入できますから、"合法的に購入"というのは意味がありません。その上、年に25万丁の銃が盗まれ、市場に出回っており、銃は最も儲けの多い、かつ売るのが易しい盗品なのです。新聞の"売りたし、買いたし"の欄で幅を利かせているのも"銃"です。

どこの国にもキチガイはいます。でも、日本に行って、どこでも安心して歩けるのは素晴らしいことです。銃と麻薬の規制がとても厳しいことに感謝したくなります。痴漢が多いのはチト迷惑ですが…。 

"私たちはなぜ戦争をするのか"Why We Fight2005年;Eugene Jarecki監督、是非ご覧ください。)というドキュメンタリー映画で知ったのですが、軍人上がりの大統領アイゼンハワーが職を離れる時の演説で、大きな警鐘を鳴らしています。

軍事費は兵器メーカー、戦車、爆撃機、銃火器などに占有され、それらの企業が軍事全体を左右し、果ては外交政策まで牛耳っていると言っています。第二次大戦以降、アメリカが関わってきた戦争はすべて軍事産業が起こしたと言っていいでしょう。

アメリカ国内で銃火器の自由化、銃を持つ権利を強く打ち出しているのは悪名高いNRA(ナショナル・ライフル・アソシエーション)です。NRAは大量の政治献金を主に共和党にばら撒き、アメリカ最大の圧力団体になっています。

銃規制法案が持ち上がるたびに、憲法を盾に盛大な銃規制反対運動を展開し、"悪いのは銃ではない、それを使う人間だ"という一見もっともらしい、奇妙な理論を振り回し、ガンオーナーの共感を集めています。今年のNRAの総会はナッシュヴィル、テネシーで開かれましたが、同時に催された展示即売会は例年以上の大盛況だったそうです。

アメリカでは、自国内で抱えた戦争で、アメリカ人同士が殺し合っているのです。

 

 

第440回:NHKとオレオレ詐欺

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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