最終回:カタチって大事です。
売れる文章はどうあるべきでしょうか。書きたいことではなく、読ませたいことを書く。正しい日本語を使う。文字数や表記方法などのクライアントの条件を守る。これらの基本を踏まえた上で、さらに配慮すべきポイントがあります。それは、“文章のカタチ”です。雑誌や雑誌の記事、カタログ、Web上のコラムなどで、文章は情報を伝えるだけではなく、デザインの一部になります。文章が読みやすいだけではなく、カタチも美しくあるべきです。
“文章の配置を考える”という仕事は、書き手の担当ではありません。編集者やデザイナーの仕事です。しかし、文章はレイアウトされた場所に置かれます。書き手にとって、レイアウトへの配慮も大切です。レイアウトも“読みやすさ”と密接に関わります。読みやすい文章と読みやすいレイアウトが組み合わされて、理解しやすいページになります。
たとえば、旅客機のパイロットは操縦技術だけを知っていればいいでしょうか。違います。パイロットも整備や機内サービスについて把握すれば、整備士や客室乗務員が働きやすいように飛べるでしょう。その結果、乗客は単純に“移動”するだけではなく、“安心で快適に移動”できるわけです。
同じように、書き手にレイアウトや編集の知識があれば、レイアウターや編集者も働きやすくなります。その結果、読者にとって文章が読みやすくなります。逆に、どんなに文章がよくても、レイアウトが読みにくければ、読者は読もうとしません。レイアウトは文章と同じくらい大切です。
レイアウトと文章の連携は、大きく分けてふたつの手順があります。“先割り”と“後割り”です。“割り”とは“割り付け”の略です。つまり“先割り”は、先にレイアウトを決めておき、指定された文字数に合わせて文章を書きます。これに対して、“後割り”は、先に文章を書いて、その分量に合わせてレイアウトを作ります。
“先割り”の場合は、デザイナーがレイアウトを作る前に、ライターや編集者がラフレイアウトを作ります。ここで写真の使用枚数、説明に必要な文章量、見だしの大きさなどを決めます。この指示を元にレイアウトを作ると、文章に必要な文字数が確定します。ライターはこの指定文字数を守って、なるべくピッタリの文字数で原稿を書きます。ほとんどの雑誌やカタログは“先割り”を使います。ページ全体のデザインを重視しているからです。
“後割り”の場合は、おおよその文字数でライターが先に書きます。規定文字数の制約がないので、ライターが文章全体の構成を自由に決めていいわけです。レイアウトの過程で文字数を微調整する場合もあります。書籍や新聞、雑誌の中でもコラムやエッセイ、連載小説のページは“後割り”になります。これは文章を重視している手法だといえます。
“後割り”はライターにとって文字数にとらわれずに原稿を書ける方法です。ただし、デザインへの配慮が不要というわけではありません。デザイナーが自由に文字数を調整できる書き方があります。重要なことを先に書き、重要度の高い順に補足説明を書き足していきます。デザインの段階で“文章が長いな”と思ったら、文章の終わりから段落単位で切り捨てます。これは新聞や雑誌の速報記事に見られるパターンです。始めの段落で、いつ、どこで、だれが、なにを、どうした、という基本部分を先に書きます。このあとに場所の追加説明、人物の追加説明、用語解説、有識者のコメント、という順に追加していきます。新聞記事には起承転結やオチはありません。何かを伝える、という役目を追求すると、文章はとても簡潔になりますね。
これらの方法は、“売る文章”だけではなく、Web上の日記やコラム、学校に提出するレポートやビジネス文書にも使えます。レイアウトと文章の両方をひとりで担当するため、どこから手を付けるべきか悩むことがありますね。そんなときに
“先割り” と “後割り” の考え方で整理しましょう。
24回にわたって“売れる文章”についてエッセイを書きました。文章にはいろいろな書き方があります。24回の文章作法は私の考え方、つまり“杉山流”の書き方です。ぜひみなさんも“読みやすい文章”や“売れる文章”の書き方を研究してみてください。そのときにこのエッセイが参考になれば嬉しいです。私自身もこの連載のおかげで、自分の書き方を再確認できました。書くという作業は自分の考えをまとめるための良い方法です。
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