第468回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 閉幕~南アフリカのことを、少し
ニュージーランド 対 南アフリカ。今までのラグビーW杯決勝史上最高、という評価も多い素晴らしい戦いだった。もう、限りなく多くの人に語られているし、個人個人の胸に刻まれたゲームなので、ここで私が、何もコメントすることはない。
だから、ここでは南アフリカについて、少し触れたいと思う。
クオーター・ファイナル 対 フランス 29−28
セミ・ファイナル 対 イングランド 16−15
ファイナル 対 ニュージーランド 12−11
決勝トーナメントに入っての3試合をすべて1点差での勝利、南アフリカは、実にタフなチームである。
そして、不思議なことに、決勝ではほとんどトライに縁がない。前回の日本大会の決勝では、マカゾレ・マビンビ、チェリズン・コルビの両WTBが、それぞれ1本ずつ鮮やかにトライを決めたが、今回も含め(すべて勝利している)4回の決勝のうち3回は、ノー・トライでキックによる得点のみなのである。
南アフリカは、最近の上記の二人の他に、以前は、W杯最初の黒人WTBチェスター・ウイリアムスをはじめ、ブライアン・ハバナ、JPピーターセンなど、お馴染みの強力なトライ・ゲッターを生んでいる。
そして、南アフリカの競技場が高地にあり、ボールがよく飛ぶ影響もあると思うが、スーパー・ブーツと呼ばれる、超一流のキッカーも実に多く輩出している。
南アフリカが国際舞台に復帰した頃活躍した、ナース・ボタ。第3回W杯決勝の延長戦でDGで勝敗を決した、ジョエル・ストランスキー。それから、パーシー・モンゴメリー、モルネ・ステインなどの名前が並ぶ。
そして、2015年のイングランド大会から登場し、今回は3回目のW杯となったハンドレ・ポラード。彼がいなかったら、今回の南アフリカの優勝はなかった、と言っても過言ではない。
最初、ふくらはぎの負傷により今大会の欠場が報じられた時は、大変に驚いてしまった。ところが、HOのマルコム・マークスが怪我で出られなくなった、その代替選手として、ポラードが追加招集された。
自分自身は、複雑な気持ちであった。ポラードの復帰は実に心強いが、マークスはFWの要である。その選手を欠くことは、本当に痛い。しかし、それは杞憂に終わった。HOのポジションをマークスの代わりをボンギ・ボナンビが身体を張って務める。そして、どちらかと言えば本職はFLであるデオン・フーリーが、その交代要因としてしっかり機能していた。
ポラードの代役を務めるはずのマニー・リボックは、今大会残念ながら、最後まで調子の波に乗れなかった。もちろん、ポラードが本当に出られなかったら、彼のパフォーマンスも変わったものになったかも分からない。
今大会に限って言えることだが、マークスの代わりがいて、ポラードの代わりはいなかったので、状況的に南アフリカは、大変幸運だったと言える。
赤毛のPR、スティーヴン・キッツォフの直向きなプレー、実に好感が持てる。
喧嘩屋LOのエベン・エツベスは3回目のW杯だが、過去2回と比べてずいぶん大人になった印象、プレーにも磨きがかかった。
その相棒のLO、フランコ・モスタートの堅実な動きは、これぞ職人と思わせるシーンが随所にあった。
決勝で、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたピーター=ステフ・デュトイ、こういうFLがいてくれたら、どれだけ他の選手が助かるかというプレーヤーだと思う。
日本のファンの数がもっとも多いであろうSHのファフ・デクラーク。今大会も期待を上回る動きで、FWとBKを生かし切った。準決勝で劣勢の中での冷静な判断は、心動かされるものがあった。
CTBのジェシー・クリエル。この人の顔を見ると、あの「ブライトンの奇跡」と呼ばれたジャパンに敗戦したゲーム後の苦渋の表情を思い出す。あのゲームには、デゥトイもエツベスもコリシもポラードも出ているのだが、クリエルの表情が最も印象的だった。それが、今回は実に晴れやかな顔をしていた。
WTBのチェズリン・コルビ。フランス戦での相手FBトマ・ラモスのコンヴァージョン・キックをチャージしてしまったのには、本当に驚いた。今までのラグビーの常識では考えられないプレーだったからだ。
もう一つ、この人で驚いたことは、決勝戦の73分、インテンショナル・ノック・オンでイエローカードをもらってしまった後の彼の姿である。あまりの後悔に、ジャージですっぽりと頭を隠してしまった。ゲームが見られないのである。あれだけ、ハイボールでは30センチ以上身長差のある相手と競り合ったり、恐れを知らないようなタックルを繰り返す、豪胆な男の、想像できなかった一面を見たのである。
そして、何よりキャプテンのFL、シヤ・コリシである。前回大会の前に130年近く続くスプリングボクスの第61代主将に、黒人として初めて選ばれる。そして、優勝。今回はニュージーランドのリッチー・マコウに次いで、二人目の2大会連続優勝キャプテンとなった。
表彰式で、彼が高々とエリス・カップを衝き上げたとき、私は胸を打たれた。それは、彼を見ていると「よき選手」であるとともに「よき人」であることが、こちらにひしひしと伝わってくるからだ。こういう人が世界一のキャプテンになるのは、本当にうれしい。
さて、すでに4年後の第11回オーストラリア大会への準備を、各チームは始めていることだろう。次回から出場国も増えて、大会の形式も変わるようだ。ジャパンも、しっかりと強化を図り、再びベスト8以上を狙えるチームになって欲しい。そのためには、各企業も、人気にあやかってにわかスポンサーになるのではなく、じっくりとジャパンというチームをサポートして行って欲しい。
そして、各種マスコミも、事前に必要以上に持ち上げたり、敗れると手のひらを返すように批判記事を書くような愚かな報道姿勢をとるのは、厳に慎んで欲しい。そして、しっかりと現状の戦力分析をして、この国全体がスポーツを観る目を養えるような、そんな大人の報道をして欲しいと願っている。
最後に、前回の予想、3位決定戦は外してしまった。イングランドのモチベーションが落ちると考えたのが誤りだった。この試合も、大変意義深いものだったと思う。
-…つづく
※編集部より初心者向けのオマケ
「ラグビー・ポジション解説」
https://www.jsports.co.jp/rugby/about/guide_position/
第469回:流行り歌に寄せて No.264 「子連れ狼」~昭和46年(1971年)12月25日リリース
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