第469回:流行り歌に寄せて No.264 「子連れ狼」~昭和46年(1971年)12月25日リリース
若山富三郎、萬屋錦之介、田村正和、髙橋英樹、北大路欣也。歴代、映画、テレビで拝一刀(おがみいっとう)を演じた役者たちである。豪華な、時代劇のトップ・スターばかりだと言える。
この曲を歌った橋幸夫は、舞台で拝一刀を何回も演じているが、これは歌謡ショーとカップリングで行なわれたものがほとんどだと思う。私のイメージでは、この人は潮来の伊太郎とか沓掛時次郎とか、爽やかな股旅物はよく似合うが、刺客という雰囲気は持ち合わせていない気がするのだ。
よく知られている通り『子連れ狼』は、小池一夫・原作、小島剛夕・画で、双葉社発行の『漫画アクション』に昭和45年(1970年)9月から、昭和51年(1976年)4月まで連載された時代劇漫画(劇画)である。
「柳生烈堂が率いる柳生一族の手により、妻の命と職を失った、水鴎流剣術の達人で、胴太貫という刀を携える元公儀介錯人、拝一刀と、その息子大五郎の、さすらいと復讐の旅物語」と資料には書かれてある。
最初に映像化されたのは、若山富三郎主演の映画だった。これは、若山が原作漫画の大ファンで、本人が原作の小池一夫に直談判に行き、目の前でその殺陣を披露して役を得たものだという。
この映画はシーリーズ化され、昭和47年(1972年)1月から、昭和49年(1974年)4月の間に第6作まで作られた。海外にも紹介され、たいへん評判となった。実写版の初代大五郎役は富川晶宏という子役である。
第3作目の『死に向かう乳母車』で主題歌『子連れ狼』が登場しているが、橋の歌唱とは別の曲で、作詞は同じく小池一夫だが、作曲はかまやつひろしの手によるもので、若山富三郎本人が歌っている。但し、同映画の中では、今回ご紹介する曲がインストゥルメンタル版で挿入されている。
次の映像化が萬屋錦之介によるものである。これは昭和48年(1973年)4月から昭和51年(1976年)9月の間、2回の中断を挟んで、第3部まで、日本テレビ系で放映された。
第1部、第2部の主題歌は、バーブ佐竹の歌唱、コロムビアゆりかご会のコーラスによる『ててご橋』。小池一夫:作詞 渡辺岳夫:作曲。歌詞の内容は原作漫画の33話『一石橋』から考え出されたものである。
第3部になって初めて、今回ご紹介する曲である『子連れ狼』が登場する。こちらは原作漫画の22話『別れ霜』からとられたものらしい。
あの「ちゃん!」の呼び声で人気を博した大五郎役の西川和孝は第1部、第2部に出演。第3部からは佐藤たくみに変わっているから、今回の橋版の主題歌と西川くんとは同時にはなっていないのだが、なぜかオーバーラップしてしまうのである。
「宿命の子・大五郎」と当時評された西川くんの演技、というより表情が素晴らしかった。今でもしっかりと、その印象が残っている。
それにしても、「箱車」という乳母車、水陸両用で、橇にもなる。刃物が飛び出してきたり、機関銃が備わっていたり、こんな物騒なものに三歳児を乗せるなど、今では到底映像化は無理だろう。
「子連れ狼」 小池一夫:作詞 吉田正:作・編曲 橋幸夫 若草児童合唱団:歌
(台詞)
「小高い丘の城跡のくずれかけた東屋で、その子は父を待っていた。その日の朝には帰るはずの父であった。それが三ッ目の朝となり四ッ目の夜が来て、五ッ目の朝が雨だった」
しとしとぴっちゃん・しとぴっちゃん・しとぴっちゃん
哀しく冷たい 雨すだれ
おさない心を 凍てつかせ
帰らぬ 父(ちゃん)を待っている
ちゃんの仕事は 刺客ぞな
しとしとぴっちゃん・しとぴっちゃん…
涙かくして 人を斬る
帰りゃあいいが 帰りゃんときゃあ
この子も雨ン中 骨になる
このこも雨ン中 骨になる
ああ……大五郎 まだ三才(みっつ)
しとしとぴっちゃん・しとぴっちゃん…
ひょうひょうしゅるる・ひょうしゅるる・ひょうしゅるる
さびしくひもじい 北風
こけし頭を なでていく
帰らぬ 父(ちゃん)は今どこに
ちゃんの仕事は 刺客ぞな
ひょうひょうしゅるる・ひょうしゅるる…
帰りゃあいいが 帰りゃんときゃあ
この子も風ン中 土になる
このこも風ン中 土になる
ああ……大五郎 まだ三才(みっつ)
ひょうひょうしゅるる・ひょうしゅるる…
ルルルルル・ルルルルル…
(台詞)
「六ッ目の朝、霜が降りた。季節の変わり目をつげる別れ霜が…」
ぱきぱきぴきんこ・ぱきぴんこ・ぱきぴんこ
雨風凍って 別れ霜
霜ふむ足が かじかんで
父(ちゃん)をさがしに出ていく子
ちゃんの仕事は 刺客ぞな
ぱきぱきぴきんこ・ぱきぴんこ…
帰りゃあいいが 帰りゃんときゃあ
この子も霜ン中 凍え死ぬ
この子も霜ン中 凍え死ぬ
ああ……大五郎 まだ三才(みっつ)
ぱきぱきぴきんこ・ぱきぴんこ・ぱきぴんこ ……
一聴して、擬音と言うか、オノマトペがとにかく目立つ歌詞である。それは、まさに小池一夫が日本の劇画原作者の第一人者ということを示している。「ダーッ」「バサッ」「カキン」「ドバッ」「ズキューン」などの擬音は、劇画の中では頻繁に使われる。
しとしとぴっちゃん・しとぴっちゃん… 哀しく冷たい雨すだれの音
ひょうひょうしゅるる・ひょうしゅるる… さびしくひもじい北風の音
ぱきぱきぴきんこ・ぱきぴんこ…雨風凍った霜を踏む音
絶妙な表現だと思う。そして、これらの音はそのまま、小島剛夕の原画を思い出させる。彼のGペンを使わず、筆を用いて執筆した、あの独特の画風は、その後の漫画の世界に、たいへん大きな影響を与えた。
大御所である吉田正の、作・編曲も、まさに本当のプロの仕事である。詞の内容がよりダイナミックに表現されるメロディを紡ぎ上げた。
萬屋錦之介版の『子連れ狼』第1部、第2部の主題歌『ててご橋』でも使われているが、コーラスに児童合唱団を持ってくるのは、情感を表す上でとても効果的なのだろう。
『ててご橋』はコロムビアゆりかご会だが、橋版『子連れ狼』は、若草児童合唱団である。
若草児童合唱団は『やぎさんゆうびん』『せいくらべ』『うれしいひなまつり』などの童謡を中心に歌っている合唱団だ。
それが、「この子も雨ン中 骨になる」「この子も風ン中 土になる」「この子も霜ン中 凍え死ぬ」という歌詞の中の「骨になる」「土になる」「凍え死ぬ」という残酷な部分を橋幸夫と斉唱しているのである。これも、今の世の中ではできないことかも知れない。
橋幸夫は、昭和47年(1972年)の第23回NHK紅白歌合戦に13回目の出場を果たし、この『子連れ狼』を披露しているが、そのバックコーラスを務めたのが、デビュー前(翌年デビュー)のキャンディーズだったという。
-…つづく
第470回:流行り歌に寄せて No.265 「終着駅」~昭和46年(1971年)12月25日リリース
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