のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第820回:コロラド、キャンプ事情

更新日2023/09/28


先週、9月の第1週目にマッターホルン(アメリカのです。様相がスイスの本家に似ているところから名前を借りたことのようです)に行ってきました。登ったと言えないのが苦しいところで、聳え立つ岩の麓、それでも4,200メートル地点まで登り、サンドイッチを食べ、ため息をつき、雄大な景色に感動し、おとなしくテントに帰ってきたのです。
 
アメリカ国内、混んでいる東部は別でしょうけど、テントを張るキャンプは国有林の中、どこでもOKです。大雑把な規制で、林道、郡道から10メートル以上離れることだけが条件といえば条件です。そして、期限は2週間以内と決められていますが、狩猟シーズンになると、大型のキャンピングカー、トレーラーを運び込み、持ち込み、何台もでキャンプファイヤーを囲むように大きなキャンプ地を作り、かなり長期滞在しているグループがいます。この最長期間は自主的な規制のようなものでしょうね。
 
国立公園、州立公園内にはもちろん、水場、トイレのある、立派なキャンプ場が何箇所もあります。最近の傾向としては、そんな管理されたキャンプ場はRV、キャンピングカーに占領され、人気のあるキャンプ場では、各キャンプサイトに水道、電気、おまけに汚水パイプまで接続できるようになっており、あんたがた、そんなに電気、水道の文化、文明が欲しいなら、自分の家に引っ込んでいるべきじゃないの…と言いたくなります。中には、超豪華なキャンピングカー(私たちの家より大きい)がジープやトラックを引いて居座っているのです。団地の家をそのまま持ち込んでいるようなものです。
 
ウチのダンナさんは年寄りですから、もうかれこれ10年ほど前から、アメリカ国立公園の老人パスを持っています。したがって、どこの国立公園も無料で入れますし、公園内のキャンプ場も半額の老人メンバー割引が適応されます。立派級、湖畔の豪華なキャンプサイトで20~30ドルのところ、半額の10ドル内外で利用できるのです。それでいて、私たちはメッタに国立、州立公園内のキャンプ場に行かなくなりました。

第一、テント用の場所が著しく少なくなってしまい、キャンピングカー専用になってしまったこともありますが、いかに国立公園内のキャンプ場が広々としているといっても、お隣さん、お向かいさんのキャンピングカーが視野に入りますし、発電機などの騒音も耳に飛び込んできます。トイレの不便さを考慮しても、それより森の中の林道、山道、川辺など、他のキャンパーが周囲何キロに渡って誰もいないところにテントを張った方が良い、となります。
 
森の静かさ、木立の間から見える景色、夜空の星などなど山の林、森に入り込んでキャンプをする喜びはつきません。 チョット、心配というか怖いのはクマです。 先々週の山歩きで、珍しく一人の若者に出会いました。 彼は弓で狩猟するボーハンターでしたが、その前日クマを仕留めたと興奮気味に語っていました。弓矢でくまを殺すことができるのもすごいことですが、この界隈にクマが出る、仕留められたクマの親兄弟が徘徊しているのではないかと心配になりました。 その地点から、私たちのテントまで私たちの足で3−4時間離れていると言っても、クマさんの足なら、ホンの15分位の距離でしょうから。
 
ですが、この20年ほど山歩きをしていて、クマさんと対面したのは二度だけですし、荒らされたテントを見た(私たちのではありませんが)のは一度だけですから、確率にすると随分低い、クマにやられる可能性はとても低いと言って良いと思います。でも、我々人間、確率統計の世界に生きているわけではなく、当たる確率がほとんどゼロの宝くじを何百万人もの人が買うように、その逆に一度でもクマに襲われたら、それで一巻の終わり、宝くじは当たらなくても、クマに食べられる可能性はあると……心理が働きます。

ダンナさん、「何もすべてのクマが腹をすかした人喰いクマじゃないだろうし、たくさんのクマは平和主義者だと思うよ…」と、例によってノンキなことを言っています。それでも、実際にクマに出会った時のため、一応、小さなポケットナイフ、それに笛を持ち歩いていますが、「こりゃ、住吉神社のお札みたいなもんだ」と言っています。まさか、あんな小さなポケットナイフでクマと格闘するつもりではないとは思いますが…。 
 
ハイキングをする人のための心得として、必ずクマ避けスプレー(催涙スプレー)を持ち歩くこと、とありますが、国立公園内の人気銀座コースでスプレーの缶を腰に下げているお年寄りを見かけますが、チョット奥に入り、山登り、もしくは長距離のハイキングの人が、クマ避けスプレーを持ち歩いているのを見たことがありません。

あれはなんと言っても大き過ぎ、重すぎるのです。小さめの消火器ほどもあり、余程風のない、理想的な条件の下では10メートルくらい水鉄砲のように飛びますが、至近距離になると、クマに吹き付けているのか、自分にかけているのか分からなくなります。スプレーを使用し、逆にクマさんを激情させ、咬み殺された例も報告されています。
 
山、森の中で出会う人はとても少なく、私たちが人気コースを避けているからでしょうけど、圧倒的に若者、それも一人で山歩きをしているヒトがとても多い印象です。そして、その半分以上が若い女性なのです。一人歩きの女性も男性も、とても逞しく、大きくて、重そうなバックパックを背負っていながら、我々より確かな足取り、スピードで山道を闊歩しているのです。ホンの2、3分の立ち話を交わすだけですが、皆さん今日は20キロ、昨日は28キロ歩いたと当たり前のことのように言うのです。最近の若者は立派です。強いです。豪華なキャンピングカーの中でエアコンを効かせ、テレビを見ている中年夫婦とは根本的に異質の人種のようなのです。

彼ら(若者たちの方です)を見ると、最近の若者たちの中には、まだまだ大きな可能性を持ったのがいると安心し、嬉しくなります。「オイ、俺たち老人組もまだまだ頑張っているぞ」とダンナさんはつぶやいています。でも、彼、先週、緩斜面で転び、尻餅をついてから、「ウーム、お年寄りがバランスを失い、転び谷底へ…と言うことが実感として迫ってきたな~」とナーンかえらく自尊心を喪失したようです。 
 
そういえば、ウチのダンナさんほどの年寄りに山で会ったことがないような気がします。もう少し頑張ればギネスブックで最年長の山歩きに登録されるかもしれませんよ。

 

 

第821回:モノ書きの道具、鉛筆

このコラムの感想を書く

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで
第451回~第500回まで

第501回~第550回まで
第551回~第600回まで
第601回~第650回まで
第651回~第700回まで
第701回~第750回まで
第751回~第800回まで

第801回:黒人の懲役者を白人女性が釈放した話
第802回:18歳のティーンエージャー市長さん
第803回:一番便利な家電は何か?
第804回:スキャンダルは票稼ぎ?

第805回:森の生活
第806回:スマートな人? スマホ?
第807回:アメリカン・ダイエット
第808回:マリファナの次はマジック・マッシュルーム?
第809回:洞窟に住んでいたラウラ叔母さん
第810回:退役軍人“ベテラン”のこと
第811回:『ロスアンジェルス・タイムズ』を買った外科医
第812回:偶然、大統領になってしまった男
第813回:天災は忘れた頃にやって来る?!
第814回:地震、雷、火事、親父…
第815回:年金暮らしとオバマケア
第816回:アニメと日本庭園
第817回:アメリカの御犬様文化
第818回:“I love you!”
第819回:400年記念と“アメリカに黒人奴隷はいなかった?”

■更新予定日:毎週木曜日