阿武隈急行を槻木駅まで乗り通し、東北本線を各駅停車で北上する。四つ目の名取から分岐する仙台空港鉄道が、今日の旅の最後の目的である。仙台空港までは7.1キロ。所要時間は10分。もともと仙台駅と仙台空港を結ぶ目的で作られたため、すべての列車は東北本線に乗り入れている。名取駅のホームに立ち、南を向くと、仙台空港鉄道の高架線へ通じる上り勾配があった。壁のコンクリートが白く輝いている。開業してから1年しか経っていない新しい路線である。
私が乗ってきた電車は3番線に到着した。階段を上がって1番線が仙台空港行きのホームである。しかし私は1番線ホームには行かず、いったん橋上駅の改札口を出た。仙台空港線はJR東日本の土日きっぷでは乗車できないので、自動販売機で切符を買いなおす。3つ先の仙台空港駅までは400円だった。飯坂電車のフリーきっぷが500円だったから、片道400円を高いと感じてしまう。しかし、正規運賃200円、新線建設の加算運賃が200円だと考えれば妥当な値段かもしれない。
仙台空港線の起点は名取駅。
あらためて1番ホームに立つ。仙台方向を見るとサッポロビールの工場がある。ビール園の看板もある。私は酒が飲めないが、ビール好きには誘惑の多い駅だろう。3番線を出発した仙台方面行きの電車を見送り、振り返ると2番線に空港鉄道の仙台行きが到着した。私のホームにも案内放送があって、仙台からの空港行き電車がやってきた。2両編成のワンマン運転で、飯坂電車の乗車中に見かけた新しい電車である。721系という形式で、車内はセミクロスシート。ドアの横がロングシートで、大きな窓のある場所が向かい合わせのクロスシートになっている。クロスシートに乗りたいが、車内は大混雑であった。座れないなら一番前に行きたいが、そこも混んでいる。
大盛況、まことに結構。人々の頭の隙間から前方を眺めた。名取を出た電車はポイントを渡って勾配を上り、仙台空港鉄道の高架線を走り始めた。新しい電車の走行音はとても静かで、乗客の話し声の合間に風切り音が聞こえてくる。地上の見晴らしがよく、空が広くなった。東京は晴れ、福島は雪模様、阿武隈川は曇り空。夕刻の仙台は快晴である。旅の締めくくりにふさわしい天気だ。紫外線カットガラスの色味の向こうに、どこまでも透き通った青が続いている。
ほぼ全線が高架区間で見晴らしがいい。
仙台空港鉄道は単線である。仙台空港の発着回数と飛行機の大きさを考慮して、単線で充分と判断されたらしい。それでも各駅で列車交換をすれば運行頻度は高くできる。次の杜せきのした駅は島式ホームになっており、線路は1本しかないが、将来はすれ違いができるように配慮されている。ホームも6両程度に対応できる長さがある。2両から6両にすれば輸送量は3倍、すれ違い設備を作れば運行頻度は倍になる勘定だから、輸送力はかなり大きいと言える。
杜せきのしたでごっそりと乗客が降りていく。全員が空港に行くと思っていた私は拍子抜けである。窓の外を見ると大型ショッピングセンターがあった。なるほど、この電車は空港利用者だけではなく、家族で買い物や外食に出かける人が大勢乗っていたというわけだ。電車はまっすぐな高架線を走って美田園駅に着いた。野球のユニフォームを着ている子供たちが慌てて降りていく。おしゃべりに夢中になって乗り越してしまったようだ。日が暮れて空気が冷えている。あの子たちはこのまま列車に乗って空港で折り返したほうが良かったのではないかと思う。この駅も島式ホームで上り線にも線路がある。しかしこの時間は対向列車が来ないようで、空港行きは対向列車とすれ違うことなく発車した。
空港駅直前で飛行場を見渡せる。
美田園は住宅開発予定地といった様子で、民家が点在するほかは田畑ばかりである。この駅を出るといよいよ次は仙台空港駅。線路はゆるやかに右にカーブした。遠くの空を注視していると、銀色の機体が降りてきた。赤い尾翼の日本航空である。飛行機が下りるところに空港がある。しかし整然と並んだ木々に遮られてしまった。杜の都の防風林である。線路は下り勾配になり、電車も飛行機に合わせるかのように高度を下げていく。そして地平に着陸……と思ったら、そのまま地下トンネルに入った。ターミナルビルは滑走路の向こう側にある。
トンネルから顔を出すと再び高度を上げて高架線路へ。右手に飛行機の駐機場が見えて、やがて波のような屋根を持つ仙台空港ターミナルビルが現れた。ガラス張りの未来的なデザインだ。そのガラスに夕陽が映り、鉄道の車窓としては稀に見る未来感である。列車は高架線路を走ったまま、仙台空港駅に到着した。そこはもう駅と言うよりは空港のデザインだ。飛行機に乗らない私でさえ気持ちが高ぶってくる。
左が駅。右が空港。
仙台空港駅はターミナルビルと正対しており、ブリッジウォークで出発ターミナルに直行できる。雰囲気に呑まれ、ここから飛び立ちたいと思うけれど、幸か不幸か仙台から羽田に行く便はない。それでも空港の雰囲気が好きだから展望デッキに行ってみた。ところが仙台空港の展望デッキは屋内で、窓ガラスはロビー階の吹き抜けの向こうである。滑走路を見渡せるけれど、無数の柱が視界を邪魔する。この建物を設計した人は、乗り物好きの気持ちが理解できなかったらしい。私はジェット機の着陸を2本だけ見届けて駅に戻った。
展望デッキは少々不満。
今日の旅はここまで。この後は仙台に行き、常磐線の特急「スーパーひたち」で東京に帰る。仙台発18時16分、上野着22時36分。東北新幹線なら2時間半で帰れるところへ、4時間20分かけて帰る。酔狂だが、往復とも新幹線では面白くない。「ひたち」系統の特急に乗ったことがないし、4時間はひと眠りするにはちょうど良い時間である。睡眠不足気味だったので、走り始めてすぐに眠れた。途中、何度か目覚めると、隣にトンボ眼鏡の美女が座っており、私に顔を向けて眠っていた。
帰路は「スーパーひたち」。
第235回以降の行程図
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2008年2月17日の新規乗車線区
JR:00.0Km
私鉄:49.1Km
累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):17,314.4Km (76.56%)
私鉄: 4,770.0Km (70.48%))
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