第344回:旅の楽しみは口から始まる
余程の探検、冒険、文化人類学的調査団でもなければ、食べ物は旅の大きな楽しみの一つです。それどころか、食べ歩きという言葉があるように、どこそこのナニナニを食べるために遠いところまで足を運び、旅する人が沢山います。
日本政策投資銀行というイカメシイ名前のところが、行きたい国はどこ? という調査をしました。対象になったのは韓国、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアと、東南アジアの経済力のある国の人々で、旅行通、旅行好きで過去に自国から出たことがある人4,000人を対象にアンケート調査したところ、日本が2年連続で1位になったというのです。
元々、調査機関が日本のお役所的な金融機関のことではあるし、対象になった国々で、出稼ぎ以外で海外旅行ができる階層は、ずば抜けた裕福層でしょう。誰でも彼でもバカンスに出かけるドイツ、北欧の人を対象に今年のバカンスはどこに行くつもり? とか、今までバカンスを過ごした国のなかでどこが一番? という調査とは全く異なりますし、これが民間の旅行会社が行った調査なら、また違った結果になるでしょうね。
というような…政治的配慮はともかく、日本に行きたい理由の第一番目が"日本食"、第二が"温泉"というのです。私の日本好きの理由とピッタリ一致し、やはり日本食と温泉、これだけは特別だ、どんな人でも感激、感動するものだと改めて感心しました。日本が安全で、人々がとても親切だから、という理由がないのはチョットがっかりしましたが…。
ユネスコは、世界遺産とか無形文化財とか、様々なブームを仕掛けてきます。今度、日本食とキムチが無形文化財に指定されたとか、される見込みだというニュースを見て、一体、今さら何のためと思ったのは私だけではないでしょう。
私自身、日本食が大好きで、大学の仲間にもそのおいしさ、健康食品としても、いかに優れているかなどなど、30パーセントくらい割り増しして、大げさに吹聴しています。私の日本語の授業を取っている生徒さんも、学期末には、この町で日本家庭料理を出しているレストラン(食堂という雰囲気ですが)に全員連れて行きます。
その生徒さんのうち、日本のモノなら何でも来いという、日本キチガイ、納豆をごっそりと日本から持ち帰ったような人もいますが、半数は初めて日本の家庭料理、お味噌汁、漬物、焼き魚、魚の煮付け、カレー、トンカツ、串かつ、豚肉のしょうが炒めなどを試すことになります。その中で三分の一ほどの学生さんは拒絶反応に近い形で、頭から日本食を受け付けません。
でも、食べ物は所詮嗜好と習慣の問題ですから、そのくらいアンチ日本食派がいるのは当然でしょう。逆に、日本食にある程度のハードルを設けておき、それを乗り越えてきた人だけが、強烈な日本食のファンになるのが、むしろ自然なような気がします。日本食がただ名前、看板、商品名だけで買われる、カスピ海産のキャビアとかプロバンス産のトリュフのようにはなってもらいたくありません。
もう一つの温泉の方ですが、私たちが住むコロラド州、隣のユタ州、それにワイオミング州にも温泉があります。しかし、これは日本の温泉とは似て非なるものです。さすがに、西欧でも温泉イコール、サナトリュムの図式は崩れましたが、大半が水着を着なければならず、しかも浴槽ではなく、セメントで固めたプールです。それに第一、水温がぬるいのです。湯上りにゆっくりとくつろぐスペースもなければ、お決まり、お仕着せでも結構美味しい温泉料理もありません。
日本の観光業者さん、ホテル業界の方、アメリカに日本的な大きな温泉ホテル、旅館を開いてくれないかしら。大成功することは保障します。それとも、温泉も垣根を越えて、日本まで出かけるからこそ価値が出てくるのかもしれませんね。
第345回:飛行機の中での嫌われ者
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