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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第296回:日本式お風呂とハダカ考

更新日2013/01/31



私は日本の温泉がとても好きです。広々した湯船、お風呂から眺める景色を初めから勘定に入れて設計したのでしょう、湯に浸かりながら、チョット人まねをしてタオルを頭の上に乗せたりして、見る山や湖、海の景色は最高です。

アメリカ、ヨーロッパにも温泉があることにはありますが、サナトリュウムであったり、温水プールであったりして、水着を着て入るのが基本です。日本のように素裸で、ノビノビとお湯に浸かる喜びはとても、とても望めません。

初めてお風呂屋さんに行ったとき、他人の前で、たとえ同性の前でも素裸になるのは、多少抵抗がありました。おまけに日本人の中に一人の西洋人が紛れ込んだのですから、きっと外人ヌードをジロジロ見られるのではないかと…、マー、私も21-22歳の若さでしたから、オジケついたのです。

ですが、慎ましい日本人(お風呂場の日本人)は私を見つめることもなく、私は大いに開放感を味わい、何かというとすぐにプライバシーを盾に取る西洋の影響から脱皮し、裸を享受することを学んだと思います。

大昔、かれこれ半世紀はチョット言い過ぎですが、感覚的にはそのくらい昔、地中海の島で暮したことがあります。その島は夏のバカンスを過ごす北欧、ドイツ、イギリスからの人たちでにぎわうリゾートでした。

その島ではサンサンと降り注ぐ太陽を全身に受け、吸収しようというのでしょう、老若男女、おじいちゃん、おばあちゃんから孫まで、大半の人たちがビキニも着けない素裸で日光浴をするのが当たり前のところでした。

当時、私のダンナさんはまだ仙人の境地に至っていませんでしたから、大いにハダカの女性に興味を示し、観賞していたはずです。そして、半ば強制するように、「ここじゃ、お前、身体を布で隠すのは、身体障害者だけだぞ」と宣言し、日本の風呂屋さんと同じだと言うのです。そこで若かった私は……、後はご想像におまかせします。

逆に、年中初夏のようなカリブの島では、子供たちを含めた女性は水着の上にティーシャツを必ず着ていました。年中強い紫外線から肌を守るためと言えなくもありませんが、男の子は水泳パンツだけで泳ぎ、上半身裸で街中を闊歩していましたから、カリブの女性たちが案外肌を出さないのは、昔から宣教師たちが懸命になって服を着せたがった名残かなと思ったりもします。

今どき、太陽の下で肌をさらさないのは、マイケル・ジャクソンと修道院の尼さんだけなのですから。

ダンナさんによると、彼が育った北海道では、一昔前、混浴は当たり前だったそうです。その意味では、今は少し退化したのかもしれません。

儒教が徳川幕府のモラル指標になる前の日本人は、随分裸になりたがる傾向があったようです。ほとんどフリーセックスの気配さえ感じられます。お伊勢参りは、まるで全盛期のヒッピー集団が顔負けするほどフリーセックスがお盛んでしたし、夜這いの習慣、また、高野聖に宿かすな!と言われたほどですから、乞食同様の聖(ヒジリ)たちは泊めてもらい、ご馳走になるだけでなく、性のはけ口まで提供して?もらっていたようです。

儒教はどうも、人間というのはやたら裸になりたがる傾向があり、放っておくと原始、ピテカントロップス、北京原人に戻ってしまう、ここらでグッと締め付け、正しい服を着て、すべてに"礼"を尽くさなければならない…というところから始まっているのでしょうか、暑ければ裸になる…、風呂に入るときは、大衆の面前で素肌を見せるのは、野蛮人のすることだ…と教えているようです。

ここコロラドに住んでいる中国人、韓国人はすでにアメリカナイズされていますが、一世のお爺さん、お婆さんに彼らが育ったとき、お国で目上の人の前で裸になりましたかと、脈絡のない質問をしたところ、100%とんでもない、そんなことは想像もできない、不可能なことだと言いますし、それどころか、両親や祖父母の前でタバコを吸うことさえ許されなかった…と言うのです。

そういえば、孔子の弟子で血の気の多い子路だったと思うのですが、かなり記憶があいまいですみません、まあどの弟子でもかまわないのですが、戦争の最中に自分の帽子が、きっと烏帽子でしょうか、はじき飛ばされ、ナマの頭を見せるのは恥であり、礼に適っていない、どうか帽子を被せてくれと頼み、友軍の誰かが帽子を被せてあげ、安らかに死んだといいます。

バッハの肖像画に見られる、あの馬鹿馬鹿しい白いカツラ、西欧の裁判官がほんの150年くらい前まで被っていたカツラの伝統は、一体どこからきたのでしょうか。

あのカツラはウールというか羊の毛そのものでできていて、夏には恐ろしく暑苦しく、しかもかなり重いものです。どうしてあんなものを頭に載せて権威や威光を示そうとしたのかしら。裁判官が判決文を読み上げている最中にカツラがズレたり、落ちたりしたら、瀕死の子鹿と同じような反応をするでしょうね。帽子、カツラを取ることはハダカになり、無防備になり、権威を失うことと同じだったのでしょう。

西欧では、クスチャニズムの影響で、ルネサンスまでハダカになるのは不埒なものとして禁じらていました。 ところが、ギリシャ、ローマの精神に帰れとばかり、ルネッサンス、人間性解放以後の絵画、彫刻は、どの美術館へ行ってもお分かりのように、ハダカ万歳、肉体オンパレードです。

温泉の良さ、素晴らしさは、どこの国のどんな民族でもすぐに理解され、絶賛するでしょう。なんせ日本ではお猿さんや鹿まで温泉に入るのですから。

日本に行くと必ず温泉に行きますが、ここ10年くらいでしょうか、韓国人、中国人も大勢見かけるようになりました。一体、儒教の教え、礼はどこへ行ってしまったのだといいたくなるほど、日本人的に小さなタオルで前を隠すこともせず、おおらかに人前で素裸になり、賑やかに温泉、裸を楽しんでいるのに出くわします。

儒教的モラルを勇気を持って崩すのは、オバサンたちのパワーなのでしょうね。

 

 

第297回:日本で相手をなんと呼ぶかが問題だ!

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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