第534回:消えゆく地上有線電話
私の高校時代の友達が引退し、泊りがけで遊びにきました。あらかじめ、ここではiPhone も携帯電話も使えないと言ってあったのですが、彼女は持ってきたタブレットとiPhoneを盛んに操作し、「ホントだ! 今時、アメリカに電波の届かない、携帯が全く使えない地域があるんだ」と、それなくして一体どうやって生活しているの…と言わんばかりに呆れながら感心していました。
私たちの住んでいる山まで携帯電話の電波が届きません。この高原台地に住む人たちは皆、普通の電話線を家まで引っ張り込んだ電話を使っています。もっとも、それしかないのですから、選択の余地がないのですが…。
私の兄弟、姉妹、親類、それに友達で、未だに電話線に頼る電話を使っている人がほとんどいなくなってしまいました。携帯の電話料金がドンドン安くなり、おまけにアメリカ全土、長距離電話扱いでなく、掛け放題なのに比べ、地上有線電話は逆に利用者が少なくなるにつれ、基本料金は上がる一方で、市内以外どこへかけるにも高い長距離料金がついて回るのです。
今時、個人で地上有線電話に頼っているのは、時代に取り残された私たちみたいな人か余程の年寄り、それでなければ仕事、商売だけになってしまったようなのです。
電話帳には携帯電話の記載はありませんから、地上有線電話の個人へのテレフォンマーケティング(早く言えば、電話の押し売りです)、宣伝、寄付、それに日本から技術指導を得たようなオレオレ詐欺の電話が集中することになります。
余に始終電話のベルが鳴るので、そのようなコマーシャル電話をカットする契約(ノーコールレジスター)を電話会社としました。これでモノ売りの電話はかかってこなくなりましたが、しばらくすると、敵もさる者で、アンケート調査と衣換えして、最初はもっともらしいアンケートで始め、それから商品を売るという新手で対応してきたのです。
それも、アメリカの電信電話を管理しているFCC(合衆国コミュニケーション・コミッティー)が重い腰を上げ、やっと禁止になり、ヤレヤレと思っていたら、ただ同然になったインターネット電話を使い、アメリカの法律の及ばない外国、英語を使っている国はたくさんありますから、そこからセールスの電話がかかってくるようになったのです。中にはすざましい訛りで一体何語なのか分からない英語でまくし立ててくることもあります。
コーラー・アイディ(Caller ID:相手の電話番号が表示される)で誰からの電話か一応分かるようにはなっているのですが、どこをどう操作してか、偽のアメリカ国内の電話番号が表示されるのです。オヤ、これは一体誰かなと思って受話器をとると、はるかかなたのインド、バングラディッシュ、セイシェルを通じてアメリカの会社が詐欺的な押し売り、健康保険や薬、旅行、海外の土地の販売などを仕掛けてくるのです。この偽のコーラー・アイディのシステムを作り上げ、売っていたマイアミの会社が告発され、130億円相当の罰金が言い渡されました。
通信手段が便利になり発達すれば、それに対応した新種のショーバイが生まれ、ハイテックを駆使した詐欺まがいのシゴトが増えていくものだと感心させられました。
日本での電話セールスや電話を通じての詐欺は“日本語”というかなり高いハードルがあるので、想像ですが、まず日本国内から電話しているでしょう。ところが英語となると、国語にしている国が多い上、流暢に話す人が世界中にいますから、電話詐欺も国際的になってきました。
日本で大成功を収めている『オレオレ詐欺』もアメリカへの進出を果たしています。あらゆるセールスマン、バーゲン、宣伝に弱い私の父はスーパーの試供品を必ず一回り試食し、おまけに試食したものは買わなければならないと信じ、大量に買ってしまうタイプですから、電話セールス、詐欺にイトモ簡単に引っかかってしまいます。すでにバケーションパッケージとか、お風呂のリフォーム、腰痛の怪しげな治療器具と次々と呆れるくらいお金をばら撒いています。
今回は、弁護士からの電話で、父の孫、マックスがドミニカ共和国で交通事故を起こしたので、即座に7,000ドルを送金せよ…というものでした。父はすぐに銀行に出向き、送金しようとした時、父の家に住み込んでいる看護婦さんと偶然会い、彼女が、まずマックスの親、父にとっては息子のトムに電話し、マックスがどこにいるのか確認した方がよい…と、ゴクゴク当たり前の忠告をしてくれたので、オレオレ詐欺に引っかからなくて済みましたが、本当にタッチの差で救われました。マックスはオレゴン州の家にいたのです。孫のマックスがその時点でどこにいるか確認するという常識以前の思考回路が働かなくなっているのでしょうね。
以後、父に携帯電話(ガラパゴス系ですが)を持たせ、それにもっぱら頼っています。携帯電話を落としたり、置き忘れて失くしたり、雨で濡らして動かなくなったりで、もう4、5回買い換えなければなりませんでしたが、地上固定電話で詐欺まがいの攻勢に晒されるより、安心だし安上がりなのです。父の携帯電話の番号を知っている人は親類、友人だけに、狭く限られていますから、ドミニカ共和国のオレオレ詐欺本部が彼の携帯番号と家族構成を知るまで猶予があると願っているのですが…。
でも、手を変え品を変え、ハイテックを駆使した新手の詐欺が生まれてくるのでしようね。
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