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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第440回:NHKとオレオレ詐欺

更新日2015/11/19



私たちがハイキングや山登り、山スキーに出かけるのは、当然のことですが、土日とか祭日になります。秋から冬にかけてのアウトドア活動に出かけて、奇妙なことに気がつきました。

これはウチのダンナさんが指摘し、注意してみると、本当にその通りだったのですが、アウトドア活動で女性が70~80パーセントを占めているのです。若い女性からお年寄りまで、圧倒的に女性軍優勢なのです。

これは秋にはアメリカンフットボールの試合が始まり、おまけに野球の大詰め、そしてワールドシリーズがありますから、男どもはビールを飲みながら、テレビにかじりついているのでしょう。フットボール、野球未亡人となった女性は、うるさいスポーツの実況中継(どうしてスポーツのアナウサーはああまで叫ぶのでしょう?)を逃れ、アウトドアに奔る図式になってしまいます。皆月極めの受信料を払って、ケーブルかサテライトでスポーツの実況を観ているのでしょう。

私たちが棲む山まではテレビの地上電波が届きませんから、テレビはレンタルのビデオやDVDを見るためだけに使っています。ところが先週、シアトルに住む妹夫婦の家に行って驚きました。どのような仕掛けになっているのか、世界中のすべてとは言いませんが、ヨーロッパ諸国、日本、韓国、中国などのテレビまで見ることができるのです。妹の旦那さんはハイテック関係の人ですから、そのように受信できるシステムを持ち、プロバイダーと契約して、受信料を払っているのでしょう。ともかく、800チャンネルという想像外の番組を見ることができるのです。

ハイテック音痴の私から見れば、まるで未来、スペースエイジのことのようでした。料金が高い有線テレビやサテライトテレビを見る、見ないは、サービス会社と個人の契約の上に成り立っています。見なければ払わない自由があります。

ところが、NHK受信料は奇妙な方式です。受信料といえば、昨年、日本で私たちが借りていた公団アパートにNHKの集金人がやってきました。ダンナさん、払いませんよ、契約書なども受け取りません、一切サインもしないし、印鑑も押しませんよ、お引取りください…と追い返していました。

外国人にとって、日本での奇妙なこと、マカ不思議なことは沢山ありますが、NHKの受信料は日本人がお上に弱く、お上の言うことに従う性向をよく示した例でしょう。電波を送っているから受信機を持っている人は、月々相当な受信料を払わなければならない…という理屈を鵜呑み、もしくは理解し素直に払う外国人、とりわけ西欧人はいないでしょう。たとえば、日本国内で基地の外に住むアメリカ人家族は相当数に上りますが、誰もNHK受信料など払っていないことでしょう。

イギリスのBBC、アメリカのPBSでも、受信料など一銭も取っていません。もし、国が公的放送を必要とするなら、税金でまかなうべきスジのものなのです。実際には、BBCもPBSも台所は火の車で、チャリティーを大きな企業や個人から募っています。でも、それは義務というようなものではありません。

NHK受信料を法律で義務化しようとしていますが、NHK経営委員会会長の浜田健一郎さんでさえ、「国民に理解されない型で、法案を通すのは難しい」と言っていますし、千葉県松戸市の男性がNHKに18万円の受信料滞納で訴えられましたが、簡易裁判所の江上裁判官はNHKの訴えを棄却しています。

オレオレ詐欺に引っかかり易い県、地域、引っかかり難い地方はずいぶんはっきりしています。NHK受信料も日本全国平均で75.6%の世帯がきちんと払っている(この数字も驚きです)ようですが、一番払わない県は沖縄で44.3%です。これにはいつも沖縄が日本の犠牲、ツケを払わせられている立場だということもあるでしょう。次に低いのが大阪で59.7%ですが、さもありなん、さすが大阪人、理屈の通らないお金は1円でも払わない精神を反映しているように見えます。

素直にハイハイと受信料を払っている県は、秋田県がトップで97%、90%以上の県は島根、鳥取、山形と農村地帯の県です。これは、オレオレ詐欺に引っかかり易い地域と見事に一致しています。また、大阪はオレオレ詐欺の最も少ない、引っかからない県のようです。

理由のないお金を取るという観点では、どうにも、NHK受信料はオレオレ詐欺の国家版と言えそうです。

 

 

第441回:生き物としての言語~変化する日本語

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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