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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第636回:ウルトラ肥満の経済学

更新日2019/11/28


先週、母が入院し、しばらく付き添っていました。そこで働いている看護婦さんたち、ほとんど皆が皆、太っているのにショックを受けました。それも、普通の太り方ではなく、病室のドアをどうやって通り抜けることができるのか心配になるほどのウルトラ・デブが多いのです。

私の身近にも、私の妹と義理の妹、二人の看護婦さんがいます。一人は相当なオーバーウェイト.、もう一人は完全にオビース(obese;超デブ)です。これはひょっとすると、看護婦さんの職業病ではないかと疑いたくなります。健康を司るシゴトに就いているのに、不健康なほど太っているのは、虫歯だらけの歯医者のようなものです。

もう“ダイエット(diet)”といえば、栄養、消化学やイギリスの議会のことではなく、痩せることの意味になってしまいました。“ウェイト.・ウォッチャー(weight watchers)”のような痩せるための産業、企業の売り上げは年間660億ドル(7兆2,000億円相当になるのでしょうか)の巨額に及んでいます。アメリカはBMI(Body Mass Index)が30以上のオオデブが人口の42%占める国ですから、ダイエット産業が大ウケにウケるわけです。ヤセ薬など発明、発見したら、一挙に億万長者になること請け合いです。

このプランに従えば必ず痩せるとばかり、使用前、使用後の劇的な痩せ方を宣伝しているダイエット産業、この器具を1日に15分間使うだけでこれだけ痩せると謳っています。ところが、一度オビース・レベル(ウルトラデブのカテゴリー)の女性が普通のレベル(BMIで20前後)になる可能性は0.8%しかないという、恐るべきかつ悲しい統計が出ています。ということは、いくらダイエットに励み、最新式の器具でエッチラ、オッチラ汗水流そうが、一旦超デブクラスになったら、痩せ型に戻る可能性はほとんどない、すべての努力は空しい…ということになります。

そこで、食べた栄養分が消化しないように、腸を短く切ってしまえ、胃袋に入る量を減らすために胃を小さくしてしまえ、食べたモノが胃に入らないように食道から胃袋への入口の通路に小さな輪をはめて狭くしてしまえ、という手術が大流行になったのです。私の周りにそのような手術(Bariatric Surgery;バリアトリック手術)と呼んでいます。おそらく日本では馴染みのない手術でしょうね)をした人が多いのに驚かされます。

そしてさらに驚くことですが、そんな手術をした後でも、一時的に体形は心持細くなったかなという程度に変わりますが、すぐに元に戻ることです。ジャンクフードを止め、少なく食べて、もっと動くだけが唯一の解決策であることを自覚しなければ、生活習慣を変えなければ、他力本願ではどんなことも成し遂げることはできないと知るべきなのです。

そして、この手術には2万5,000ドルもかかり、それが一番安い医療保険(私企業です)でも全額支払われるのです。デブ対策のために1,470億ドルから2,100億ドル(23兆円以上ですよ)に及び、アメリカの保険の中で一番大きな出費になっており、それが私たちが支払う保険料の値上がりに繋がっています。

医療保管会社に言わせれば、肥満が誘引する病気は、高血圧、脳溢血、糖尿病、関節炎、負荷がかかり過ぎて膝や股関節の病、13種類のガン、しいてはアルツハイマーになる可能性が高いとはっきり示されているので、この種のバリアトリック手術で、少しでも肥満を抑える方が、医療保険会社にとって、最終的には安上がりだということになるようです。

アメリカ人の体重は20年前に比べ、一人当たり平均で15ポンド(7.5キロ)も体重が増えています。BMI30以上の超デブ、オビースはアメリカ人成人の40%、20%の子供がそのカテゴリーに入ってしまいます。これをオーバーウェイト..(普通のデブ?)を加えると、日本で一時期、流行った言い方をマネすると、“アメリカ人2億、総デブ”ということになるのでしょうか…。

どうして特にアメリカでこんなにデブが多くなったのか、社会学者、栄養学者、心理学者が色々な意見を述べています。レストランでの一人前の量が1950年代の4倍にもなっているそうですが、今でも毎日レストランで食事をする人は少ないでしょうから、これが原因とは考えられません。

プロセスフード(食品会社が工場で作った食べ物、典型的なのはシリアル、コーンフレーク、ライスクリスピスのような朝ごはん用の、牛乳をぶっ掛けて食べるだけにしたもの)、それにポテトチップス、白いパンが家庭に侵入したのが、肥満大国を作った要因ではないかと言われています。また、子供の肥満は室内でのゲームをし、スマホばかりいじっていて、外で遊ばなくなったのが原因だとしています。

先進国の中では、日本はデブが最も少ない国の一つです。私の義理のお姉さん、日本では結構ご立派な体格の持ち主に分類されますが、私たちのところに来ると、「アメリカでは私は痩せて見える」とご満悦です。

どうにも、一度オビースになってしまった大人は手の施しようがないので、子供の時から肥満対策をしなければと、オランダのアムステルダムでは、肥満児は学校にいる看護婦さん、栄養士さんの元に送られ、その子の食生活と家庭での生活環境まで対応することで、2012年から2015年にかけて、肥満児が12%も減少しています。これはアメリカの肥満児対策にとって、大きな指針になると思います。 

子供たちの食生活から、なんとしてでも砂糖分とジャンクフードを取り除かなければなりません。前ニューヨーク市長マイク・ブルームバーグ(Mike Bloomberg)さんは、小中学校からソフトドリンク(コーラ、ファンタなど砂糖いっぱいのサイダー類)の自動販売機を撤廃しました。そんなものが校内にあること自体に驚きましたが…。フィラデルフェア市では、そのようなソフトドリンクに税金をかけたところ、売り上げが38%も落ちたそうでうです。

私自身、背も中くらい、老齢にしては痩せ型だと思います。ところが、衣料品、成人女性のS、SSサイズでも大き過ぎてダブダブなのです。衣料品メーカー、靴のメーカーがこぞって、デブサイズに傾き、標準サイズの上げ底をしているのです。一昔前のLサイズは、今のM、昔のMは今ではSなのです。ですから、私のようにいつもSかSSサイズの体型の人は、アメリカで身体に合った大人用の既製服を買うことができなくなってしまったのです。

私のサイズだとティーンエイジャー、少女ファッションになってしまうのです。まさか私のようなお婆さんが少女ファッションを身に着けるわけにもいきません。ですから、服は日本に行った時に買うことにしています。

不思議なのは、極小サイズの服も、布切れを3、4倍は使うウルトラデブサイズも同じ値段だということです。これは不公平だと思っていたら、最後に帳尻が合うようになっていました。オビース用の棺桶は普通サイズより3,000ドルも高いことを発見しました。死んだ後、遺された人に余計な出費を強いないためにも、せめて普通サイズの棺桶に収まる程度に痩せるのが、“飛ぶ鳥、後を濁さず”であり、礼儀というものでしょう。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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