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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第637回:旨いモノと動物愛護

更新日2019/12/05


私たちは、というよりウチのダンナさんは、誕生日、結婚記念日、アメリカの年中行事のイースター、クリスマス、サンクスギビングなどを祝うという感覚が抜け落ちているようです。彼に感化され、私の方も、彼の誕生日、私の誕生日、結婚記念日などすっかり忘れ、二人でお祝いをした記憶がありません。

その割りに、「オイ、今夜の月はとても綺麗だから、テラスに出てワインでも飲みながら、お月見でもするか…」とか、新月のもの凄い星空の下、がっちり着込んで“星観み”をしたり、彼の聖地、我家の裏の小さな丘ですが、そこで朝日が昇るのを観ながらコーヒーを飲んだりするのは好きなのです。

ところが珍しいことに、私の引退祝いとして、少し高級なフレンチレストランに行こうということになったのでした。

ダンナさんは全くグルメではなく、美味しいモノを求めてアチラコチラのレストラン、肉屋、魚屋を彷徨うタイプではありません。目の前にあるモノをただモクモクと食べるタイプです。そうは言っても、昔、彼の仕事上、ヨーロッパで相当高級、有名なレストランで食べた経験もあり、ワイナリー巡りなどもしていますから、一家言を持っても良さそうなものですが、「あんな気取ったところで、商売がらみの接待で食うより、気の合った仲間とラーメンでも啜った方がよっぽどいい…」と言うのです。

ある時、私の大学の先生たちのパーティーで、お遊びの“利き酒”をやったところ、10種類はあったワインを全部当てたのはウチのダンナさんだけでした。「俺、酒飲みじゃないから、凡そのところ、高級ワインはこんな香り、フランス、イタリア、スペインはこんな感じと、だいたい知っているからね、見当を付けやすいだけで、それに対して大金を払うかどうかは別の問題だよ…」と言うのです。先生たちの中にグルメはたくさんいましたが、全滅でした。

どうも味というのは、“お袋の味”と言われるように、ノスタルジックな記憶に左右されるもののようです。その私たちが行ったフレンチレストランで、ダンナさん、前菜として“フォアグラ”を注文しました。彼はスペイン時代の郷愁でしょうけど、生ハムとフォアグラが好きで、アンチグルメとしては珍しいことに、生ハム、フォアグラにワインを思い起こしただけで生唾が出るとまで言っています。

ヨーロッパで素焼きの壷に入った本物のフォアグラは、市場、雑貨屋で買えばそれほど値の張るものではなく(もちろん、缶詰の何倍かしますが…)、特別な機会にチョイチョイと口にしていました。私にしても、決してグルメではありませんが、中トロはイメージするだけで口の中がジーンとしてきて、唾が湧き出てきて困ってしまうのですが…。

そのレストランで出されたフォアグラなるものは、ただのレバーペイストで、フォアグラとは似て非なるものでした。どうにも、コニャックはフランスのコニャック地方のもの、シャンペンはシャンパーニュ地方のものだけをそのように呼ぶことができるという規制がないらしく、どこ産のものでも、果ては豚や牛のレバーペイストでも、一般の名称として“フォアグラ”と呼んでも差し支えないようなのです。

ダンナさん、滅多にというか、私は初めて目にしたのですが、少し気取ったウエイターを呼びつけ、本物のフォアグラはないのかと問い質したのです。何事にでもすぐにディフェンシブ(自分を守ろうとし、言い訳をする)になる傾向のあるアメリカ人は、“このフォアグラに問題があるのか”と、まるで個人的な攻撃でも受けたように対応したのです。そして、コックさんを私たちの席に連れてきました。

その若いコックさんの方が事情をよく知っていて、「イヤ~、ごもっともなことで、アメリカではフランスのフォアグラが輸入禁止になって20年にもなりますけど、それは馬鹿な動物愛護協会が、フランスではガチョウの肝臓を肥大させるために、無理矢理、エサを口に突っ込んでいる映像が出回り、それが残酷で動物虐待になると、輸入反対運動を展開した結果、そうなってしまい、私ももう長いこと本物を口したことがないんですよ…」と言うのでした。

もし、動物愛護協会がそこまで言うなら、一切の肉、牛、豚、鶏を殺して食べることにどうして反対しないのでしょうか。アメリカの牛肉がヨーロッパで輸入禁止になっているのは、動物愛護、虐待とは全く関係なく、大量のホルモン、それに抗生物質を与えて育て、結果、肉にホルモン、抗生物質が残留し、それが人体に悪いからです。

牛の飼料に大量のホルモンを加え、早く太らせ、肉になる歩留まりを良くするのと、漏斗を使ってガチョウに食べさせるのと、基本的な違いはないはずです。フォアグラのアメリカ輸入禁止は、了見の狭いアメリカ気質の表れでしょうね。ヨーロッパでアメリカ産の肉を禁止するなら、対応策として、フランス産のフォアグラを禁止してやれというわけです。

フォアグラの主な産地、南フランスの農家では、別にアメリカに買って貰わなくても結構、どうせ彼らにこの味は分かりゃしないのだから、それだけ自分たちが食べる分が増えるというものだと、至ってノンキに構えているようです。

そして、フランスのフォアグラ生産業者の長であるマリーピエール・ペさん(Marie-Pierre Pe)は、「どうにも私たちはアメリカ人の動物、ペットを自分と同じ人間のように思い込む独善的態度、ガチョウと人間と同じレベルで考える人たちを相手にしているようだ」と、アメリカさんとは論理的な対話が成り立たないと諦めムードです。

アメリカ産の牛肉、フランス産のフォアグラ、その両方を輸入している日本ですが、フォアグラなど毎日食べる人は少ないでしょうけど、牛肉の方、アメリカ産にはご注意を! ホルモンたっぷりの牛肉を食べていると、男性はオッパイが膨らんできますよ。残念ながら、女性の方に影響、効果は見られないそうですが……。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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