第436回:流行り歌に寄せて No.236 「四つのお願い」~昭和45年(1970年)
ちあきなおみのデビュー曲の『雨に濡れた慕情』、2曲目の『朝が来る前に』は、吉田旺(当時は本名である吉田央のクレジット)作詞、鈴木淳作曲のしっとりと情感を持って歌われる曲だった。
3曲目は同じコンビでありながら、アップテンポで明るい曲調の『モア・モア・ラヴ』という曲を歌わせた。これは、昭和45年(1970年)の3月25日に発売されたものだった。
ところが、不思議なことに、その僅か半月後の4月10日に、今回の『四つのお願い』をリリースしたのである。作曲は鈴久淳のままだが、作詞は白鳥朝詠に変わっている。
通常、どんなに売れている歌手でも、シングルと次のシングルが出される間隔は、1ヵ月半はあるものだが、何かの事情があったのか、極端に短いスパンでの発売になった。『モア・モア・ラヴ』は、今では彼女のファンでもない限り、あまり記憶にない曲であり、『四つのお願い』とは、知名度に大きな差がある。
それでもこの2曲は、路線としては同じテイストの、明るく、色気を前面に押し出した曲作りになっていた。
ちあきなおみ本人は『雨に濡れた慕情』でデビューした時は、良い曲に恵まれたと喜んでいたのだが、『四つのお願い』を受け取った時には「ああ、もうダメだ。この曲で私は終わりだと思いました。私は根が暗いのか、ああいう明るい曲は苦手なんですよ」と後日語っていたという。
けれども、本人の意向とは裏腹に、『四つのお願い』はオリコン週間チャート第4位まで上り、37万枚を売り上げた。彼女にとっては、今までのところ後の『喝采』に次ぐ大ヒット曲となり、この曲で、同年の第21回NHK紅白歌合戦への初出場を果たしている。
「四つのお願い」 白鳥朝詠:作詞 鈴木淳:作曲 小谷充:編曲 ちあきなおみ:歌
たとえば私が 恋を 恋をするなら
四つのお願い 聞いて 聞いてほしいの
一つ やさしく 愛して
二つ わがまま 言わせて
三つ さみしく させないで
四つ 誰にも 秘密にしてね
四つのお願い 聞いて 聞いてくれたら
あなたに私は 夢中 恋をしちゃうわ
それからあなたが 恋を 恋をするなら
四つのお願い 聞いて 聞いてほしいの
一つ やさしく キスして
二つ こっそり 教えて
三つ あなたの 好きなこと
四つ そのあと わたしにしてネ
四つのお願い 聞いて 聞いてくれたら
あなたに私は 夢中 恋をしちゃうわ
一つ やさしく いつでも
二つ ふたりは しあわせ
三つ いつしか 結ばれて
四つ あなたと わたしは一つ
四つのお願い 聞いて 聞いてくれたら
あなたに私は 夢中 恋をしちゃうわ
この曲が出た時、中学3年生になったばかりだった私たちは、多感そのものの年頃で、歌詞の内容に、異常なほどの興味を覚えた。
以前『雨に消えた慕情』をご紹介した時に触れたが、当時の私は、彼女の二の腕に残る疱瘡の痕が醸し出す色気にすっかり翻弄されていたので、当然その話題に加わっていた。
「『こっそり教えて あなたの好きなこと その後わたしにしてね』って、何い、何のことだ?」
「たーけー、そんなん決まっとるがや。あれしかねえに決まっとるだろう」
「とれえ(助平だ)なあ、そんなん歌っていいんか」
こんなたわいもない会話に興じていたのである。
一方、歌謡曲を低俗なものと決めつけ、自らを理論的な思考の持ち主であると任じていたインテリくんは、
「『四つのお願い』と言ったって、本当に四つ挙げとるのは1番の歌詞だけで、2番は三つしかあらせんし、最後はもうお願いでも何でもなくなっとるがや。だで、歌謡曲つうのはええ加減だでいかんて。」と宣っていた。
ごもっともです。あんたが大将!!
その中3生を虜にさせた詞を書いた白鳥朝詠、この人は、この曲の後に『X+Y=LOVE』『別れたあとで』『しのび逢う恋』の詞を、ちあきなおみに提供している。
その他に、都はるみに『好きになった人』ほか数曲を、また懐かしいところでは、アニメ『がんばれ! マリンキッド』のテーマの詞も手掛けている。「鉄よりかたい真っ赤なスーツ、ファイト ファイト ゴーゴーマリン」という歌詞、1950年代生まれには覚えてる方も多いと思う。
作曲の鈴木淳は、ひと月ほど前の昨年(2021年)12月9日に虚血性心不全で他界された。多くの名曲を残された素晴らしい作曲家だった。ご冥福を祈りたい。
編曲の小谷充は、高田恭子の『みんな夢の中』の項でも触れたが、歌を聴くことのできる喜びを、間違いなく増幅させてくれるような編曲家である。それぞれの歌の持つ世界へ誘(いざな)うのが、実にスムーズでおしゃれだと思う。
さて、昔話をはじめ「三つの願いごと」という話は古今東西かなりの数あり、何かをしてくれたお礼に、それを叶えましょうというのがほとんどである。それにプラスひとつ、欲張ってお願いを四つにしたところが、この曲の妙味と言えるのかもしれない。
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