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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第869回:バックパックとランドセル

更新日2024/10/03


アメリカの学校の新学期は、夏休みが終わった8月末か9月はじめです。
何でもかんでも理由をこじつけてでも物を売ろうとする逞しすぎる商魂から、新学期バーゲンセールが展開されます。

小中学生用のモノでは、最新流行のナイキ、ノースフェイス、アディダスなどのブランド運動靴でしょうか。2、3年も経てば子供たちの足は大きくなり、すぐにも買い換えなければならないのが分かり切っていても、他の生徒と競い合うように最新デザインの高価なものを履きたがり、親も無理をしてでもそんな靴を買い与えているようです。
 
それに加え、ファッション性の高いバックパックがあります。これは靴ほど高くはないのですが、色とりどりで形やデザインが豊富で、15インチのパソコンがピッタリと入るポケットや、取り出し易く、かつ落とさないように工夫されたスマホポケット付き、もちろん水筒を突っ込める横のポケット付きもあり、それはそれは華やかです。一つのクラスで同じバックパックを背負っている生徒はいないのではないかとさえ思わせます。

そう言えば、バックパックは市民権を得て、ビジネスマン、ウーマンもひと昔前なら皮のアタッシュケースを持ち歩いたような人物も、背広、ビジネススーツに便利そうなバックパックをヒョイと片腕だけ通して背負っている姿を見るのは珍しくなくなりました。

私たちもキャンプをする際、そこから日帰りのハイキングに出かける時は、デイパックとしてバックパックを愛用しています。化学繊維製ですが、やたらに丈夫にできていて、もうかれこれ同じものを15-6年は使っているので相当貫禄が付き、ということは汚れていることですが、チャックに至るまでどこも壊れないほど頑丈にできています。

しかも私のバックパックは、新学期セールが終わった後の売れ残りらしい小学生用の物ですし、ダンナさんのは安売りのウォルマートのブランドで、確か20ドル内外だったのではないかしら…。
 
日本では、小学校の新入生の100%は「ランドセル」という奇妙なバックパックを背負っているのではないかしら。「ランドセル」とカタカナ書きですから、当然英語だと思っているのでしょうか? あなたアメリカ人なのにランドセルを知らないの? という顔をよくされます。私は日本に行って初めてランドセルなるものを目にしました。

小学生の皆が皆背負っているので、制服好きな学校が、学生帽、制服、ランドセルを規定しているのかと思っていました。

にわか知識を仕入れたところ、ランドセルは元々オランダ語の“Ransel”が起源らしいのですが、現在、オランダにランドセルが存在するかは保証しません。江戸時代末期、西欧式に軍隊を長州も幕府も速成しましたが、その時兵隊さんに背負わせていた背嚢が起源のようなのです。

明治10年になって、学習院で制服制帽に加えて統一規格のランドセルなるものを持たせたのが始まりで、今の箱型で上の蓋がパタンとかぶさる仕様になったのは明治20年に、伊藤博文が大正天皇の学習院の入学祝いにプレゼントしたのが本家本元のランドセルで、それが黒い皮に決められたのが明治23年だと言うのです。

おまけに、学習院型は明治30年に大きさまで決められ、縦一尺一分、横一尺五分、幅二寸五分となり、それが高貴な方々の御子息、御令嬢とは縁のない下町の町人や百姓さんのガキどもにまで、まさにアットいう間に広がったのでした。
 
子供のサイズ、大きさ、成長の速さなどを無視して、ともかく何でも規制しようとする日本人の性向が現れているように思います。こんな小さい時から、皆と同じようにしなさい、学生服やセラー服のような規制服を着なければいけないと躾けられ、社会に出てからでも背広という規制服を抵抗なく着る慣習の下地を作っているように見えます。

保守的で伝統を守りたがる人は、とかくお上からの押し付けに弱いらしく、ランドセルは革で丈夫に作られているから、大事な教科書やノートを雨、風から守る、また子供が後ろ向けに転んだ時、ランドセルがクッションになって頭を保護する…と、まるでワケの判らない理屈をこねています。ランドセルメーカーから何らかのスポークスマン費用を貰っているとしか思えません。

大半というより、ほとんどの公立の学校ではランドセルを義務化していません。あれは全くの自己規制で、他の人と同じモノを我が子に持たせてやりたいという親心、老婆心、逆に言えば、我が子、我が孫に自己を持たせる、掴ませる自信のなさの表れに見えるのです。あれでは、年頃になった娘さん、猫も杓子も「ルイ・ヴィトン」を持つはずです。持ちたがるはずです。
 
そして、何よりも驚いたのは、その値段です。本物の革製のものですと、ほとんどが5、6万円、人工皮革でも4万円以上もするのです。最高級品になると20万円もの値が付いています。売れ筋は6万5,000円以上で、全体の33%を占めているそうです。

こんな高いモノを、そしてグングン成長して、すぐに身体に合わなくなるものを子供に買い与える、そうしなければならない親は大変で、それだけでも日本少子化の遠因になっているのではと思わせます。

ランドセルに限って言えば、もし子供にお爺ちゃん、お婆ちゃんがいれば、ランドセルを買うのはほとんど、お爺ちゃん、お婆ちゃんの義務になっているようです。孫が新品のランドセルを背負って通学する様子を目を細めて観ているのでしょうね。私も、今禿げ白髪の極みになっているウチのダンナさんのランドセル姿を覗いてみたいものですが…。

商魂逞しい、とりわけブランドに弱い上、購買力のある日本市場に、まだルイ・ヴィトンやプラダ、ロエベのランドセルが上陸していないのが不思議なくらいです。

はるかに軽くて使い手が良く、また身体にピタッと合わせることができるバックパックを、小学校の新入生の時から持たせようという親はいないのでしょうか? それとも、そんな優れ物があることを知らないだけなのかしら…。
 
日本には、外から見ると特異な習慣が多数ありますが、「ランドセル」という奇妙なモノもその一つです。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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