第870回:プラスティックの時代
石油化学製品が身の回りに溢れ始めてから、もうすでに半世紀以上になるでしょうか。ここではひとまとめにして“プラスティック”と呼ぶことにしますが、ナイロン、ポリエステル、プラスティックが世に現れた時、こんな素晴らしいモノがあったのかと誰しも大歓迎したものです。
破れやすく、すぐに穴の開く絹のストッキングに代わり登場したナイロンのパンティ・ストッキングは、デンセンしにくいだけでなく、いつまでもタイトな履きごごちを保ち、かつ絹とは比べものにならないほど丈夫で、ナイロンストッキングは女性のファッションにとって革命的なモノでした。
それからポリエステルが登場しました。アイロンを掛けなくても良い、パーマネントプレスのワイシャツ、ブラウスは画期的なものでした。今では化学繊維が含まれていない衣料品を探すのが困難なほどです。
今日の朝、ベッドを出てからどれだけプラスティックに触れていたかを思い起こしてみると、それは恐ろしいほどです。
まずベッドから足を下ろして最初に踏むのは小さな敷物です。一応毛織物ですが、縦横の丈夫な基礎になる太めの繊維は化学繊維です。そして室内履きにしているスリッパ、これは足に触れる部分こそ皮ですが、底は人工のゴムです。そしてトイレの電灯スイッチ、これは100%プラスティックです。
そして洗面所の石鹸入れ、歯ブラシ、いずれもプラスティックです。化粧品はすべてプラスティックの小瓶に入っています。そうそう、私の老眼のメガネのフレームもプラスティックです。顔を洗った後で拭く手拭い、さすがにそれはコットンですが、はっと気が付いて、タグ、製品の品質というのかしら、メーカーの名前や何%コットンとか“made in China” と印刷してある白い小さな布キレは丈夫なナイロン製でした。
私たちの家では流石にプラスティックの食器こそ使っていませんが、それらを洗う段になって、使う皿洗い用の洗剤はプラスティックの瓶に入っているし、洗濯をしようと思ったら、ブリーチも洗剤もプラスティックの容器に入っているのです。
プラスティックのゴミを出さないために、ペットボトルに入ったミネラルウォーターやソフトドリンクの類を一切買わないようにしていますが、牛乳やヨーグルトはプラスティック瓶、容器に入っているものしかなく、それらを購入しています。
アメリカのスーパーで買う肉類、魚、ハム、ソーセージなどは、いずれも軽くて丈夫なスタイロフォームの皿にサランラップに包んで売っていますので、それらを買うしかありません。
私自身、コットン愛好者ですが、最近コットン100%の製品を見つけるのが難しくなってきました。あってもエジプト綿100%とか銘打ってえらく高い値段を付けています。
冷蔵庫のハンドルもプラスティックですし、内部の仕切りもガラス枠、フレームにプラスティックを使っています。そういえば、電気のコードもプラスティックでカヴァーしてありますし、もちろんプラグ、差し込みもプラスティックです。
地球を汚さないため、再生が難しい石油製品をできるだけ使わないようにと心掛けていても、私たちはプラスティックに囲まれて生活しているのです。
プラスティックを作る側にしてみれば、ありとあらゆる形に容易にできるし、色も割に自在に付けることができる、何と言っても大量に作ることができるので、とてもガラスや鉄板では全く太刀打ちできない安値で作ることができるので、世にプラスティックが消える日はなかなかやって来ないのでしょうね。
さてはて、膨大なプラスティックのゴミ、リサイクルしようと思えばいくらでもできるのだそうですが、問題はそれにかかる費用が高くつき、新しく石油から作る方が安上がりなのだそうで、その辺に問題がありそうです。
2017年まで、中国が盛大にプラスティック・ゴミを引き取ってくれていましたが、流石に中国ももうゴミはいらないと言い出し、それまでプラスティック大国だった日本、アメリカはハタと困りました。自国で処理しなければならなくなったからです。
2017年に中国は58万1,000トンものプラスティック・ゴミを引き受けていたのが、2018年の2月には2万4,000トンにまで抑えています。それまでプラスティック・ゴミ大国のナンバーワンは日本で、アメリカ、ドイツ、タイ、インドネシアと続いていました。中国が引き取ってくれなくなってから、国が音頭をとって率先しているわけではないでしょうけど、違法に海に投げ捨てるプラスティックが増え、宇宙衛星からでも海に浮かんだプラスティックのゴミの帯が見えるほどです。
一旦汚れた海、プラスティックの瓶やビニールの袋が浮遊する海を一気にきれいにする方法はありません。そうと知りながら、私たちはプラスティックに取り囲まれ、それらを盛大に使い捨てる生活を続けているのです。
便利なものを有効に使えるのは素晴らしいことですが、原子力発電で使ったウラニュウムのゴミをどこにどのように捨てるのかが大問題になっているように、ペットボトルやナイロン製品、化学繊維も、作った時点で処理しきれない膨大なゴミになる可能性があるなんて誰も考えませんでした。
正確な統計ではありませんが、人が1年間に捨てるプラスティック製品は800点に及ぶとされています。『Life Without Plastic(プラスティックのない人生)』という本によれば、私たちが石油化学製品(主にプラスティックですが)を使わずに生活するのはほとんど不可能な時代になってしまったようなのです。しかし、身近な小さなモノから徐々にノー・プラスティックを進めていくことを注言しています。
私たちはその手始めとして、ペットボトルは使わない、何度でも洗って使えるアルミニュウムの水筒、一本槍にすることにしています。それがどれだけ地球に与えるダメージを少なくしているのか、思いを馳せると落ち込んでしまうのですが……。
第871回:集合住宅の奇怪な名前の件
|