第24回:七人の侍、三たび
更新日2004/04/15
前々回のこのコラムで、バランタイン17年の「魔法の7柱」の話から映画「七人の侍」をもう一度じっくり観たいと書いたが、先日早速ビデオ屋さんから借りてきて観てみた。そして、またその面白さに圧倒されてしまった。「すごい映画だなあ」、その一言に尽きる。
あまりはっきりした記憶はないが、私はこの映画を観るのは確か3回目だと思う。最初は小学生の時に劇場で、2回目は三十代の初めの頃テレビ放映で観た。その度に面白い映画だと思ったのだが、その時どきによって、やはり観点は違うものなのだ。
まず、7人のうち心惹かれる侍が、観る年齢によって違う。島田勘兵衛(志村喬)は、いつの時でもかっこいいと思ってしまう。これは、3回とも変わらない。その他のもう一人が違うのだ。
小学生の時は、菊千代(三船敏郎)の特異なキャラクターが好きだった。奔放に大暴れするその姿は、子どもの目には楽しく映る。また、貧しい百姓の出身というのも、情緒的な部分を刺激していたのかも知れない。
三十代の初めに観た時は、久蔵(宮口精二)の姿勢に憧れた。怖しいほどの剣の達人、ニヒルな表情に隠された心優しさ。ただただかっこいいのである。これこそ侍、男はこうありたいと思った。
最近知ったことだが、宮口精二はこの映画を撮るまで、芝居の上でも刀というものを一度も持ったこともなく、当然殺陣の経験は皆無だったようだ。さらに身体がとても弱い方で、この映画が完成するまでは本当に苦労の連続だったそうである。それが、あの剃刀の切れ味のような役柄なのだ。その役者根性には、心から敬服する。
そして4回目の年男を迎えてしまった今回、強く心に残ったのが、五郎兵衛(稲葉義男)である。過去2回観たときまではそれほど大きな印象はなかったが、今の私にとっては理想の人物になってしまった。勘兵衛の参謀役、No.2としての役割を担う識見と、フックラできた人物(黒澤明の意図したところ)という、暖かい人柄。
今回映画を観たあと、「七人の侍」のファンのHPがあることを知り、読ませていただいた。いろいろな文献を丹念に調べており、きめの細かい素敵なページに仕上がっていて、このコラムを書く上でもいろいろと参考にさせていただいた。(先述の宮口精二の件もこのHPで知ったことだ)
作っているのは、私より若いようだが、それほど大きな年齢の差はない(間違っていたらごめんなさい)女性の方で、この方のハンドルネームが「五郎兵衛の月代」。名前の通り、彼の大ファンで、ページの中にも「茫莫たる風貌-稲葉義男の世界」という独立したコーナーを持っているほどだ。
その稲葉義男、はまり役を得て実に楽しそうに演じているように見えるのだが、彼女のHPの中の文献によると、彼は実に気の弱い方の役者で、役作りに苦しみ、いつも緊張して青くなっていたそうだ。黒澤監督にはいつも絞られていて、撮影の始まる「朝が怖い」と仲間にもらしていたという。わからないものだ。
このエピソードが「五郎兵衛の月代」さんをして、五郎兵衛をさらに魅力的にさせ、稲葉義男により興味を持つようになったと言わせているが、私もまったく同意見である。
映画のシーンの中では、勘兵衛がリクルートするのを承諾するときに五郎兵衛が、「お主が百姓のために立った気持ちも分からんではないが、儂はどちらかというとお主の人柄に惹かれてついてまいるのでな。いやぁ、人間、ひょんなことで知己を得るものでござるなぁ。」と笑顔で話す言葉と、それを聞いて照れる勘兵衛の表情がたまらなくいい。
私の店には、映画ファンのお客さんが実に多い。会話の中での映画の話題の割合は相当なものだと思う。(恥ずかしいことに、私はまったくと言っていいほど最近の作品の話題についていけないのだが)そうした中で、やはり「七人の侍」についての評価はダントツに高い。「私が今まで観た中で最も面白い映画だ」と言いきる方もいらっしゃるのだ。
みんなでこの映画に関するいろいろな話をした時、最後はたいがい「もう一度観てみたいな、また彼らに会いたいよ。でも観るんだったら、やっぱり映画館できちっと観たいよね」ということになる。
上映権か何かの関係でできないのだろうか、「七人の侍」が最後に劇場上映してからかなり久しくなる。やはりこのような映画は、5年か10年に一度でよいから、ぜひスクリーンで上映してもらいたい。ブラウン管や液晶の中でせせこましく動いているだけでは、彼らがかわいそうだ。大画面で大暴れさせてあげたい。
私は、この映画を四回目に観るのはいつのことだろう。DVDを購入していつでも家で観られるというのも、それはそれでよいのだろうが、どうも私の性に合わない。今までの間隔からして、次回はもう還暦を過ぎた頃だと思う。
十代初めは菊千代、三十代初めには久蔵、そして四十代の終盤では五郎兵衛と、心惹かれる人物が変わってきたのだが、さて次は誰のファンになるのだろうか。案外平八(千秋実)あたりかも知れない。あるいは七郎次(加藤大介)の姿勢に深く共鳴させられるか。
それは、多分にその時の自分の生き方を反映しているようで興味深く、今からとても楽しみにしている。
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