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第398回:流行り歌に寄せて No.198 「ブルー・ライト・ヨコハマ」~昭和43年(1968年)

更新日2020/06/25




新幹線、下りのこだま号の車内。名古屋駅に到着して出口に向かう、両親と、私、妹の4人。
今から半世紀以上前のことだが、私が『ブルー・ライト・ヨコハマ』を耳にする時、必ず脳裏に浮かんでくる光景なのである。なぜだかは、あまりよく分からない。

その頃、この曲がヒットしていたことは間違いない。そして、当時、静岡に叔父家族が住んでいて、そこに家族で遊びに行った時の帰路のことだと思う。

新幹線には吊り広告は設置されていないから、乗客の誰かが座席に残していった『サンデー毎日』か『週刊朝日』の表紙でいしだあゆみが微笑んでいたのかもわからない。

あるいは、ひかり号はそれ以前に乗車したことがあったが、こだま号に乗ったのは初めてだったので、停車駅の「新横浜」という名前を聞いたのが印象に残っていたのか。当時は新幹線と言えば東海道新幹線しかなく、現在のような多様な停車スタイルもなくて、ひかり号は東京を出れば、名古屋、京都、大阪にしか停車せず、こだま号は各駅停車だった。

とにかく、私の『ブルー・ライト・ヨコハマ』は、常に4人家族の旅の姿とカップリングになって、私の記憶に残っている。

私が当時住んでいたのは名古屋市の港区だったが、この曲のようなお洒落な男女の風景が似合う場所とはほど遠かった。ほとんどが貨物船の停泊港で、華やかな客船が停泊していることは数えるほどしかない。

港のそばの繁華街には、船乗り相手のバーやキャバレーが立ち並び、いつもホステスと客のひそひそ声のあとの哄笑が、約束事のように繰り返されていた。親からは、立ち入ってはならない場所だと何回も聞かされた。

そんな港しか知らない私にとって、この曲に歌われている港町横浜は、強い憧れの地となった。実際に、港の見える公園を歩いたのは、その時から6年以上先の昭和50年のことだったが、その夜景の美しさに触れて、うっとりとした思いになったことを覚えている。

 

「ブルー・ライト・ヨコハマ」  橋本淳:作詞  筒美京平:作・編曲  いしだあゆみ:歌

 
街の灯りが とてもきれいね

ヨコハマ ブルー・ライト・ヨコハマ

あなたとふたり 幸せよ

 

いつものように 愛の言葉を

ヨコハマ ブルー・ライト・ヨコハマ

私にください あなたから

 

歩いても歩いても 小舟のように

私はゆれて ゆれてあなたの腕の中

 

足音だけが ついて来るのよ

ヨコハマ ブルー・ライト・ヨコハマ

やさしいくちづけ もう一度

 

歩いても歩いても 小舟のように

私はゆれて ゆれてあなたの腕の中

 

あなたの好きな タバコの香り

ヨコハマ ブルー・ライト・ヨコハマ

二人の世界 いつまでも

 

いしだあゆみと言えば、まずこの『ブルー・ライト・ヨコハマ』の印象がかなり強いが、意外なことに、彼女にとってはこの曲が26作目のシングルなのである。

昭和37年に上京し、いずみたくの指導を受けて歌手となり、最初は、本名の「石田良子」名義で洋楽のカヴァー『夢みる恋』をソノシートで出した。

昭和39年には「いしだあゆみ」という芸名をもらって『ネェ、聞いてよママ』という曲をビクターレコードから出しデビューを果たす。その後、少女歌手として何枚もレコードを出したり、TBSの人気ドラマ『七人の孫』で女優としても活躍した。

20歳になった昭和43年に、レコード会社を日本コロムビアに変え、歌手業に専念し始める。そして、橋本淳、筒美京平コンビと出会い『太陽は泣いている』をリリースし、ヒットチャート18位にランクされた。うっすらと記憶にあったが、今改めて聴いてみると、中村晃子の『虹色の湖』や黛ジュンの『恋のハレルヤ』のような、乗りのいい、いわゆる一人GS調の曲になっている。

そして、この年の暮れも押し迫ったクリスマスの日に、同じコンビから『ブルー・ライト・ヨコハマ』を提供されて発売し、翌年の昭和44年年始から大ヒットとなる。いしだあゆみは、この曲で「第20回NHK紅白歌合戦」への初出場を果たした。

筒美京平も、同曲で「第11回日本レコード大賞」作曲賞を受賞し、その後、彼は夥しい数の受賞歴を持つが、これが自身最初の受賞曲となった。

橋本、筒美コンビによる、前回ご紹介した『スワンの涙』が昭和43年の12月10日発売、『ブルー・ライト・ヨコハマ』はわずか15日後の12月25日発売と、二人は立て続けにヒット曲を生んでいく。しかも、全く違う曲調なのである。

今回調べてみると、このコンビによる提供曲は550曲もあるということだった。その中でも『ブルー・ライト・ヨコハマ』はその売上数は他を圧倒しており、150万枚を超えている。

さて、私の中では、いしだあゆみは、美人であるということと、抑揚を抑えた「ノン・ビブラート唱法」という点で、西田佐知子に近い系譜を持っている歌手だと思っており、二人の「大の字がいくつもつくような」ファンである。


-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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