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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第298回:プラスティックカードの世界

更新日2013/02/14



日本は世界でも珍しい、国民IDカードのない国です。アメリカでは社会保障番号というのがあり、その番号が運転免許を申請したり、銀行の口座を開く時、税金を払う時など、社会生活に常に付いて回ります。

ですから、アメリカに国民皆が持たなければならない合衆国政府が発行するIDカードというのはありませんが、背番号はあり、その番号がなければ取ることのできない運転免許証が国民IDカードの代役を務めています。

もう一つ、マトモなアメリカ人なら必ず持つべきプラスティックカードはクレジットカードです。16歳以上のアメリカ人なら運転免許証とクレジットカードは必ず持たなければならないものなのです。

どちらか一方でも持たない人は、世捨て人かベテランのホームレス、精神異常者だけで、両方を持たない人は、希少価値が出てくるほどでしょうし、社会人として認めてもらないのです。今では、100ドル以上の買い物をキャッシュで払うアメリカ人はドラッグディーラーか日本人観光客だけです。

と偉そうなことを書きましたが、実は私たちもヨーロッパから漂い続け、カリブを回り、プエルトリコに着いた時、お金が底を突き、働かなければならい状態でした。幸い、私は地元の大学に職を得て、さてクレジットカードなるものを持たなければどうにも不便だし、第一やたら犯罪の多いこの島で現金を持ち歩くのも不安だし、というわけで、クレジットカードを申し込んだのですが、これが驚いたことに、ビサ、マスターズ、アメックスとすべてのカード会社に見事に断られたのです。色々と調べたところ、私たちにクレジットの記録がないので、カード会社では私たちを信用できない人種と見なしたようなのです。

確かに、私たちは銀行からお金を借りたこともないし、それ以前にクレジットカードを持ったこともありませんでした。カード会社が個人情報を調査する機関を通して私たちの前歴を調べても、良いも悪いも、何の記録もなかったのだろうと想像しています。

アメリカで家を買ったり、車を買ったりする時には、現金で買う人はまずいませんから、銀行ローンを組んでもらいます。その銀行ローンやカードの支払いを滞りなく返済しているかの記録で、クレジット・レコードと呼んでいますが、これが余程アメリカ社会を渡り歩く上に大切なことだと…初めて体験させられたのです。

しょうがなく、私の両親と連名で、親の住所を使い、生まれて始めてのカードをめでたく手に入れ、その後、独立した私たちのクレジットカードを持つことができたのです。ところが、一旦、ビサカードを持つと、いろんな会社がクレジットカードを郵送してくるはくるは、何十枚ものカードを持つのは朝飯前なのです。

クレジットカード会社はとても儲かる、素晴らしい仕事なのか、次々と老舗のカード会社を押しのけるように、ディスカバー、ダイナーズ、キャピタルワンと新興勢力が参入してきました。それはそうでしょう、アメリカ人が買い物をする時、まずガソリンから生鮮食料品をスーパーで買うのも、何から何までカードで支払います。

カード会社はその買い物総額の2~4%もの手数料をお店から取っているのですから、それはそれは大変な金額になるはずです。それだけ余計な消費税を払っているようなものです。私たちが買い物をするたびに、カードで支払うと2~4%高い買い物をしていることになります。

以前は、お店で『50ドル、100ドル紙幣を受け取りません』と掲示してあることが珍しくありませんでした。それを見て、ウチの仙人、あれは完全に違法行為だ、政府が発行している金券の流通を拒否し、営利企業であるクレジットカード会社が発行するプラスティックカードだけを受け入れるのは犯罪だと、息巻いていました。

確かに、アメリカでは運転免許証(これもプラスティックのカードです)とクレジットカードの二つのプラスティックカードが、ナマの人間より大切になってきました。 本人とは似ても似つかない写真が張ってあっても、ともかくこの二つのカードが一致していれば、アメリカで何でもできる……ようになってしまいました。

ところが、最近、主に小さな個人営業のお店で、クレジットカード会社の手数料が高すぎると反逆に出て、価格をはっきりと2段階に分け、現金支払いとクレジットカード支払いで値段を表示するようになってきました。ガソリンスタンドでも、キャッシュ価格いくらと大きな看板を出すようになりました。

考えて見るまでもなく、これは当然の処置でしょう。今まで知らずに2~4%高い買い物をしていたことに気が付かない私たちが愚かだった…とも言えますが…。

 

 

第299回:新学期の日本語の授業風景

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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