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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第537回:人間狩り~ラスベガス大量虐殺事件

更新日2017/11/09




狩猟シーズンが開幕になり、この高原台地に銃声が響き渡り、郡道を行き交うトラックの荷台に鹿やエルクの大きなツノが突き出ているのが見受けられる季節になりました。

私たちの散歩も、間違って撃たれたり、流れ弾を避けるため、この季節だけは森や山に分け入らず、広めの郡道だけ、しかもオレンジ色の防護ジャケットを着込んでのルートと地域限定になってしまいます。

ウチの仙人は、「エルクや鹿にもオレンジ色の防護布を被せたらいいのにな…」と野生動物には同情的な割りに、隣のハンターが仕留めたエルクや鹿の肉のお裾分けを大いに堪能しているのですが…。

狩猟の究極は、マンハント=人間狩りだと言われ、昔からミステリー、スリラーじみた話の題材になり、何本もの映画にもなっています。大金持ちのハンターが猛獣狩りを卒業して、人間狩りをやるようなオハナシです。狩られる人間の方が人知を尽くして逃げ切るか、逆にハンターを殺す結末になります。

ラスベガスでの大量殺人は、毎日、アメリカのどこかで起こっている銃撃殺人には慣れっこになっているはずの私たちにとってさえも衝撃的でした。まるでギネスブックの記録に挑戦するかのように、一人のガンマンが58人を射殺し、527人を負傷させたのですから、戦後のアメリカ国内での銃殺事件としては最多をマークしました。

フロリダ州オークランドのナイトクラブで49人(2016年)、 ヴァージニア工科大学での32人(2007年)、コネチカット州の小学校で26人(2012年)、カルフォルニア州の福祉施設で14人(2015年) サウスカロライナの黒人教会で9人(2015年)、コロラド州デンヴァーの映画館で12人(2012年)とまるで年中行事のように大量殺人事件が起こっています。

1年間に3万3,000人が銃で殺されるか銃を使って自殺している国なのです(2016年のデーター)。1日平均で90人以上が銃で命を落としている勘定になります。現在、アメリカで公式的に販売が許可され、出回っている(個人所有)ライフル、散弾銃、機関銃、ピストルなど銃火器は2億6,500万丁に及びます(ハヴァード大学調べ)。この他に、ギャングやドラッグディーラーが裏口から入手した銃が同じくらいあると言われていますから、まさにとんでもない数の、ほとんど天文学的な数の凶器がアメリカに流布していることになります。

アメリカは合衆国(人間が集まった国)ではなく、合州国(州が寄り集まった国)だと言われます。銃規制も州ごとに大きく異なり、マリファナのように8州(2017年3月末現在)で全く合法なのに、州境を越すとほんの少し持っていただけでも逮捕されたります。ラスベガスはネヴァダ州にありますが、ネヴァダ州はテキサス州と並んで銃規制が最も緩い州なのです。 

今回の事件で私が驚いたのは、一体そんなにたくさん弾の撃てるライフル、自動小銃があるのかということでした。犯人、スティーヴ・パッドックが撃った弾は800発以上、1,000発近くになるそうですから、戦争映画の機関銃のように長いベルトに弾が並んでいる武器を使ったとしてもとても一人で撃てるものではないと思ったのです。ところが犯人は10丁ものセミオートマチック小銃を改造し、セミではなくフルオートマチックの機関銃にしたものを使ったというのです。銃の改造キット、大型の弾艙(マガジン)などはネヴァダ州では合法なのです。

それにしても、なのです。犯人が宿泊していたホテル『マンダレイ・ベイ』の32階から、カントリーミュージック・フェスティバルが開かれていた会場まで広い大通りを挟んで350~360メートルの距離がありましたから、一体全体そんなに離れたところから、撃って当たるものなのか、第一、鉄砲の弾がそんなに飛び、殺傷力を失わないものなのか不思議でした。

350メートルといえば、人間は芥子粒以下の大きさにしか見えない距離です。でも、標的は一人ひとりではなく、会場に居合わせた2万4,000人の大観衆に向けられていましたから、メクラ滅法の乱射で、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる式の射撃だったのでしょう。

もう何度も繰り返されてたことですが、銃規制を強めよう、銃を購入する際に買主の前科、病歴(精神病)をチェックする法律を強化しようと、合衆国政府、各州単位で議論されますが、法規制は全く効果をあげていません。NRA(ナショナル・ライフル・アソシエーション;銃火器メーカーのお抱え圧力団体)が豊富な資金に物言わせて、銃規制を憲法で保障された個人の自由を武器で守る権利に置き換えてしまうからです。

今回もまた銃規制の問題が浮上してきました。ところが、銃規制が強まる可能性があるかもしれない…となると、銃マニア、コレクターはこれは大変とばかり買いに走り、私の住む田舎町ですら、銃弾は品切れで、ハンターたちが銃弾の購入に四苦八苦しているニュースが新聞を賑わしていました。スーパーマーケット(地元のウォルマートですが)の銃弾の棚は確かに空っぽで、次の入荷はいつ、予約を受け付けると張り紙がしてありました。

今まで、大売出し、大バーゲンセールはクリスマスや新年、イースター、父の日、母の日、ヴェテラン(退役軍人)の日などでしたが、ラスベガス大量虐殺記念大バーゲンセールが起こっているのです。銃器、弾薬メーカーはこんな集団殺人事件が起こるたびにブームになり、たっぷり儲けているのでしょうね。

アメリカに対するテロの恐怖が増大していると政府、マスコミは盛んに警告を発していますが、一番の恐怖はアメリカが国内に持っている、放置している膨大な武器だと思うのですが……。

 

  

第538回:冤罪と闘う“イノセンス・プロジェクト”

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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