第443回:流行り歌に寄せて No.243 「今日でお別れ」~昭和42年(1967年)リリース 昭和44年(1969年)12月25日再リリース
今回のコラム、実は『愛のフィナーレ』について書くつもりで書き始めたのだが、「はて、何か忘れてはいませんか」と考えた末、「あれ、菅原さんの代表曲『今日でお別れ』についてまだ書いてなかったことに気づき、急遽、書き直している。
このコラムは原則、その曲のリリースされた順に書いてはいるが、時々微妙に前後することもある。それはご容赦いただいていると勝手に考えているが、今回のように大幅に時間がずれてしまったことも、どうか大目にみていただきたいと思います。
この『今日でお別れ』は、2回リリースされている。最初は昭和42年(1967年)で(今回、月日までは調べきれなかった)、編曲は早川博二が手掛けている。ところが、その前々年の昭和40年に発売していた『知りたくないの』が息の長いヒットを続けていたため、あまり注目されなかったという経緯もあり、ほとんどセールスがなかった。
ところが、昭和44年のクリスマスの日に、編曲者を森岡賢一郎に変えて最リリースしたところ、大ヒットとなり、翌昭和45年の第12回日本レコード大賞を受賞、同年の第21回NHK紅白歌合戦でも披露された。
今回、YouTubeで何回か検索を繰り返し、早川博二編曲バージョンを聴こうと努めてみたが、どうにも見つからなかった。
その後の菅原洋一の名曲『乳母車』や、ザ・キング・トーンズの『グッド・ナイト・ベイビー』、そして森田童子の、あの『さよなら ぼくの ともだち』の編曲者ということで、ぜひとも『今日でお別れ』の早川博二編曲バージョンは、聴いてみたいものである。
「今日でお別れ」 なかにし礼:作詞 宇井あきら:作曲 早川博二(昭和42年版)・
森岡賢一郎(昭和44年版):編曲 菅原洋一:歌
今日でお別れね もう逢えない
涙を見せずに いたいけれど
信じられないの そのひとこと
あの甘い言葉を ささやいたあなたが
突然さよなら 言えるなんて
最後のタバコに 火をつけましょう
曲がったネクタイ なおさせてね
貴方の背広や 身のまわりに
やさしく気を配る 胸はずむ仕事は
これからどなたが するのかしら
今日でお別れね もう逢えない
あなたも涙を 見せてほしい
何も云わないで 気安めなど
こみおあげる涙は こみ上げる涙は
言葉にならない さようなら
さようなら
菅原洋一の歌唱は「情感」そのものである、と私は思う。その見事に情感を表現する力を作家たちは信頼し、曲を作り上げてゆく。
シャンソン歌手であった宇井あきらは、シャンソンをはじめ歌謡曲、テレビの主題歌など、多くの作曲を手掛けているが、この『今日であ別れ』は、自身では最高ヒット曲となった。
後進のシャンソン歌手の育成を手掛けたり、チャリティー・コンサートなどを催して、積極的に音楽活動を続けてきたが、平成21年(2009年)、肺炎により88歳で亡くなっている。
なかにし礼は、生涯を通じての菅原洋一のパートナーであり、男性歌手に女心を歌わせるという意味では、最強のコンビだったと思う。
今回、この詞を読み返してみて、女性の「情念」というものをつくづく感じさせる内容である。そして、今の感覚でいえば少し古風な女性であるようにも感じた。
何十年か前のドラマを見ていれば、女性がスッと男性の後ろに立ち寄り、背広を着させているシーンを見かけるが、今こんなことをしている男女などあるのだろうか。銀座の高級クラブあたりでコートの着脱ぐらいはしているのだろうが。
「背広や身のまわりに気を配る」のが「胸はずむ仕事」と言い切れるのは、価値観の問題ではなく、やはり少し古風な感じがする。こういうことに、憧れの気持ちを抱いている男性は、確かに今もいるが。
さて、本来今回書く予定であった『愛のフィナーレ』の詞も、併せて下に載せておこうと思う。昭和45年8月1日リリースの曲である。こちらは、相棒なかにし礼の詞に、宮川泰メロディー独特の、流麗な曲のついた名曲である。
元々は、ザ・ピーナッツの昭和43年2月発売の『恋のオフェリア』のB面曲だった『愛のフィナーレ』(こちらは編曲も宮川泰)を菅原洋一がカヴァーしたものだった。ザ・ピーナッツの哀愁を帯びたデュエットも最高だが、菅原洋一の熱唱も、実に聴くものを魅了する。
「愛のフィナーレ」 なかにし礼:作詞 宮川泰:作曲 小野崎孝輔:作曲 菅原洋一:歌
恋の終わりは 涙じゃないの
それは思い出の はじまりなのよ
知っていました 別れはくると
だからいいのよ いいわけなんか
誰にも負けずに 貴方を愛した 私なの
今ではひたすら 貴方の幸せ 祈るだけ
恋は消えても 残る思い出
指でかぞえて 私は生きる
思えばはかなく 短い月日の 恋でした
くやんでないから 私は言えるの さよならを
愛の思い出 貴方がくれた
ひとりぼっちの 私のために
私のために 私のために
同じなかにし礼の詞であり、別れる時の女心を歌っていても、こちらは『今日であ別れ』に比べると、もう少し前向きというか、二人の恋模様を「思い出」にまで昇華させようという健気な思いが表されているように感じる。
ただ、一方どこかから「そんな前向きとか昇華とか、的外れなことばかり言って、あなたは女の気持ちがちっともわかってないのよ」と言う声が聞こえくるようで、少し身構えてしまうのである。
第444回:流行り歌に寄せて No.244 「雨がやんだら」~昭和45年(1970年)10月21日リリース
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