第98回:雪の朝の楽しみ
更新日2009/02/12
いつもなら目覚まし時計を怨むようにベッドからしぶしぶ出るのですが、冬休みに入り、朝早く起きなくてもよい状況になると、不思議なことに、いつもより早く起きるようになりました。
大きな理由は、夜中にどれだけ雪が積もったかを見るのが楽しみなのと、歩くスキーやカンジキを履いて新雪の中を散歩する誘惑がとても強いからです。朝早い新雪には動物たちの足跡がたくさん残されています。近所の人たちに教えてもらい、最近ようやく足跡を見分けられるようになってきました。まだ時々誰のものかわからない大きな足跡を見ることはありますが。
一番多いのはウサギの足跡です。ここのウサギはのんびりしているのか、私がウサギと友達になろうとしていることを知っているのか逃げません。足跡をたどると口をもぐもぐ動かしながら木の下にチョコンと座っていたりします。
次に多いのは鹿の足跡です。シカもここを自分の庭だとでも思っているのでしょう、子鹿を交えて悠然と歩いているのを見ることができます。ダンナさんは密かに鹿に近づいて、鹿のお尻をピンと叩く遊びに夢中になっていますが、いくらなんでもウチダンナさんにお尻を叩かれるほど鹿族はニブクありません。
コヨーテはめったに姿を見せませんが、夜中に盛んに活躍しているのでしょう、家のすぐ近くまで来た証拠の足跡や糞が残っていたりします。
マウンテンライオンと熊は足跡だけは何度も見ていますが、まだ実物とご対面したことはありません。新雪に残された動物たちの足跡を見るのは、雪の朝の楽しみになってしまいました。
私が育ったミズーリー州の田舎で何度か狼を見たことがあります。しかし、アメリカ西部から狼がいなくなってから久しくなります。1910年代には狼は『赤頭巾ちゃん』の物語のように人間を食べる悪のシンボルのように扱われ、狼狩りが奨励されていたほどです。
カナダには1万匹も生き残っているのに、アメリカではほとんど絶滅してしまったのです。
そこで、カナダ生まれの狼を中西部、ワイオミング州、モンタナ州、コロラド州、アイダホ州などに移住させました。もともと適応力が抜群なうえ、賢い狼たちは順調に増え続け、アイダホ州では年に100匹以上増え続けています。天敵がおらず増えすぎた鹿害を狼にコントロールしてもらおうという狙いもあります。
ところが、あまりに順調に増え続ける狼が、近隣の牧場まで食卓の場を広げてきたのです。 牧場に出向けば鹿狩りをするより簡単に食べ物が手に入ることを学んだのです。自分が条例で保護されていることを知っているのでしょうか、狼が羊や子牛、小屋の中で飼っている鶏やブタまで襲い出したのです。牧場主は保護されている狼をライフルで撃ち殺すこともできず、あまり効果のない炸裂音だけの花火で対応していますが、狼の方はすぐにそんな脅かしを見抜き、豪華な晩餐を繰り広げているのが現状です。
自然の動物界に人間が割り込み、バランスを取ろうとするのは曲芸に似ています。人間が入り込んだ時点で、自然界はすでに大きな変化を強いられているのですから、それを元の状態に戻すのは人間がそこから出て行かない限り至難の業です。一度絶滅した狼をアメリカに移住させるのがエコシステムに良いことなのか、すでに自然界を切り崩すように、あらゆるところに住み込んだ私たち人間族に居住権が移ってしまったと断言して良いものなのか分かりません。
でも、雪の朝、狼の足跡を見つけることができたら、どんなにこの山が生き生きと輝いて見えることでしょう。 直接のご対面は遠慮しますが。
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