第99回:おとり大作戦
更新日2009/02/19
私たちのところへ、時々お客さん、と言っても親戚ですが、遊びに来ます。ダンナさんのお姉さんや姪が日本からきてくれることもあれば、私の両親や兄弟、甥っ子が来たりします。
彼らが帰るときに、何か小さな手土産でも渡したいといつも思うのですが、アメリカ中西部の澄んだ空気と山の景色だけが取り得のこんな田舎町になんにも名産、名物、銘菓がないので、いつも困ってしまいます。
アメリカ全体に言えることですが、本当に気の効いたお土産もの、名産品、銘菓がないのです。町の名前が入ったTシャツと野球帽だけはどこに行ってもありますが、もちろん中国製です。
強いて言えば、中西部を旅行する人に購買意欲を注ぐ唯一のものは骨董品かもしれません。 街道筋に骨董品屋さんがありますし、人口が1,000人くらいのお百姓さんの小さな村にも何件もの骨董品屋さんが軒を並べていたりします。
骨董品と言いましたが、英語で言えばアンティークです。アンティークと言えば聞こえはいいのですが、田舎町や街道筋にあるアンティークショップに置いてある物の大半は、ガラクタ、古道具の類いで、近所の農家で要らなくなった道具や家具類をタダで貰ってきて並べただけです。各人のそのモノに対する思い入れの程度によって左右されますから、アンティークと古道具の間に線を引くことはできない相談ですが。
そんなアメリカ的ガラクタ・アンティークの中で、常に高い値段がつけられ、沢山のコレクターがいるのは、古い銃、ピストルの類いとカモやガンのデコイです。精巧に作られた木製のカモやガンは飾り物として面白いですし、色が剥げ、いかにも年季の入った荒削りで素朴な造りの模型はいつも高い値段で取引されています。
カモやガンの模型、デコイはもともと実用的なものでした。如何に空から沢山のカモやガンを欺き、呼び寄せるか、実物に似せて造るだけでなく、湖水に浮かべた時、川に流した時、本当のカモやガンのように揺れ動くかに腐心したのでしょう。
このデコイに引き寄せられたカモやガンが一体何羽いたのでしょう、そのうち何羽が鉄砲で撃たれたのでしょう。散弾が撃ち込まれたデコイをみることは珍しくありません。でも、こんな不細工なデコイに騙されるカモやガンが一体本当にいたのかしらと思わせるような酷い造りのものもありますが。
私たちも経験するところですが、知らない町に行って、どこかレストランに入ろうとするとき、お客さんが誰もいない店に、最初の客として席に着くのはなかなか勇気のいることです。やはり賑わっているレストランの方へ足が向いてしまいます。この時点で人間もカモもあまり違いがなさそうです。
大阪の御堂筋にあるマクドナルドが、新製品の販売を目論んだところ、長蛇の列ができ、その日の売り上げが1,002万円という新記録を作り、行列は1,500人にものぼり、新製品販売は大成功だったとインターネットのニュースにありました。
ところが、行列を作った1,500人のうち1,000人は客寄せのためのサクラ・デコイだったというのです。随分沢山のデコイ、アルバイトを雇ったものですが、中にはそれは素晴らしくファッショナブルな女性、実はコンパニオンガールも含まれており、テレビのインタビューに答えていたのも、受け答えの修練を積んだデコイ・アルバイトだったそうです。
旧ソビエト時代、人々はよく行列を作りました。しまいには、モスクワで「行列を見たらすぐ並べ!」が合言葉になったほどです。でも、これはデコイではなく必要が生んだ習慣だったのでしょう。
どうにも人間族は自分で判断を下す作業に疲れ、常に誰かのお尻につく習性が強くなってしまったようです。デコイに弱いのはカモやガンばかりではないようです。まだ、自分の嗅覚に頼る犬族、常に独歩の道を行く猫族の方が、自己を持った生き方をしているのでしょうか。
第100回:バンザイとガッツポーズ

