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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第723回:アメリカ敗戦録

更新日2021/09/02


アメリカ軍がアフガニスタンに侵入してから20年が経ち、全く勝つ見込みどころか、肩入れしていたアフガニスタンの傀儡政権がいともアッサリ政権を投げ出し、我先に国外に逃亡し、バイデン大統領は全軍を引き上げるという大決断を下しました。

政権を取るタリバンは、元々1994年に当時の学生たちが、主にモスレムの教義をより深く勉強しようという至って大人しい神学グループだったようです。ですが、そこへソビエト、ロシアの侵入、軍事的な制圧があり、我こそは民主主義の守り神と自認するアメリカがタリバンに大量の武器を与えトレーニングを施し、ソビエト軍に対抗させました。ですから、タリバンのレジスタンス軍はアメリカが作ったのです。

ソビエト、ロシアが引き上げたとなると、その代わりにアメリカが居座り続けることになりました。もちろん、“アメリカ的民主主義”を植え付けるために! このジョージ・ブッシュ大統領が始めた戦争は初めから勝ち目はなく、ただニューヨークのワールド・トレード・センター・ビルへのテロの報復として、派手なショー的戦争をオッパジメる必要があったのでしょう。それにしても、アメリカの国威発揚のショーの対象にされたアフガニスタンの人々はたまったものではありません。

ワールド・トレード・センター・ビルへのテロはタリバンではなく、アルカイーダが実行したものですから、タリバンはとばっちりを受けたのです。結果、5万人以上のタリバン及びその関連者とみなされたアフガニスタン人が殺されています。巻き添えを食って亡くなった人の数は統計が出ないほど多く、その43%は女性と子供とみなされています。

ブッシュ大統領のマチガイが非難されることはありませんでした。第一、彼はアメリカが支援して生み出したタリバンとアルカイーダ、アイシス(ISIS)、ボカハラムの区別も付かなかったのではないかと思います。赤どころか薄いピンクでも共産主義、社会主義は悪者とみなされていたマッカーシー(ジョセフ・マッカーシー;赤狩りを推進)の時代ように、アラブのモスレムは皆テロリストと思っていたのでしょう。

今、こんな戦争を始めたブッシュ大統領のことは忘れられ、バイデン大統領のアフガニスタンからの撤退は大きな非難にさらされています。しかし、これもおかしな話で最悪といわれているベトナム戦争の敗戦、ベトナムからの米軍撤退を決めた時の共和党の大統領はフォードでした。その時、米軍撤退を非難する声は対立政党である民主党からでさえ起こりませんでした。アメリカ中がもう勝ち目のないベトナム戦争にウンザリしていたからでしょう。

考えてみれば、アメリカは第二次大戦以降、随分アッチコッチにチョッカイを出し、戦争を引き起こしていますが、勝った戦争は一つもありません。すべてが負け戦です。

一人勝ちしているのは、巨大になった軍事産業だけです。軍部と癒着し、巨大になり過ぎた軍事産業に警鐘を鳴らしたのは、第二次世界大戦のヒーローであり生粋の軍人上がりの大統領アイゼンハワーでした。彼は8年間(1953-1961)大統領でしたが、任期を終える時の演説で、このまま軍事産業が巨大になり、大きな圧力団体に成長していくとトンデモナイことになる、早く政治と軍事産業を切り離す必要がある…と、アメリカの将来を危惧しています。でも、それから更にアメリカの軍事産業は政治家の誰も触れることができないほど大きくなり、そんな弾薬、武器を消費するため、常にどこかで戦争をしていなければならない状況、構造に陥ってしまったのです。

2019年にアフガニスタンで、アメリカ政府が使ったお金は35ビリヨンドル(350億ドル;約3兆7千億円)になります。もちろん、すべてが私たちの税金で賄われているのですが…。その中に、アフガニスタンに2年いると貰える素晴らしい年金、褒章金も含まれています。出費の詳細リストを見ると、まるで関連企業が我もわれもと寄ってたかって利権をむさぼっているのに呆れてしまいます。

(Associated Press, New York Timesによると)例えば『Harris Corp』という電信器具のメンテナンスの会社は、2016年に1.7ビリヨンドル(17億ドル)も受け取っています。こんな関連会社が100社以上に及びます。アフガニスタンの戦争は軍事産業にとって、ダラダラ続いてくれる絶好の儲け処だったのです。

ベトナム戦争敗戦の時、アメリカ軍と南ベトナム軍のトップ、政治家は我先に逃げ、数百万人といわれる難民を生み出しました。戦争に負けるということは、負けた側の軍人が真っ先に逃げ、敗戦の捕虜になることを免れ、人民を捨て去ることのようなのです。少なくとも、アメリカ軍のように逃げ込める国がまだ存在している場合には、そのような図式で負け戦をカバーできます。ナポレオンがロシアに侵攻し、そこから撤退した時の悲惨な状況を想い起こせばいいでしょうか。

第二次大戦のように、日本、ドイツの軍人が戦争捕虜になり、勝ち組の裁判で裁かれることは、ベトナム、アフガニスタンではありえないのは不思議な気がします。アメリカ軍は負けて尻をまくって逃げたのです。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でボスニア人の一掃虐殺を図ったセルビア共和国の初代大統領、ミロシェビッチが、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所で、コソボ紛争でのアルバニア人住民に対するジェノサイドの責任者として有罪判決を受けたように、アメリカの歴代大統領、将軍たちも敗戦の将として裁判にかけられるべきだと思います。無差別に爆弾を落とし、住民を殺しまくった軍人も、“非人道的な犯罪”を犯したとして裁かれるべきだと思うのです。

言うことがイチイチ古く、前時代的なダンナさん、「超古い中国の隋が滅びたのは、朝鮮半島の北にあった小国、高句麗を占拠しようと3回に渡り大規模な侵略を企て、失敗したからだ。アメリカも増長して、あっちこっちで戦争を仕掛けていると、圧倒的に強力で大国だった隋が滅びたように、同じ運命を辿ることになるぞ…」とかゴタクを並べています。マア~、アフガニスタンでの失敗と1500~1600年前の中国の王朝を結び付けたのは、僅かながらユニークかもしれませんが…。

どうにも私の母国アメリカは、やたらに戦争好きで、しかも負け際が悪いという特徴があるようです。そして、私の同国人は“アメリカ的民主主義を守るため”と誰かが旗を振ると、スワッとばかりそちらに集まり、他の国の人たちが何を望んでいるのか見えなくなってしまう傾向が強いのです。

こんなアメリカを見るたびに、知るたびに、アメリカが平和国家になるという夢が遠のき、アメリカを逃げ出したくなります。たとえ非国民と罵られようが…。

-…つづく 

 

 

第724回:定番化する挨拶や献辞

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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