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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第871回:集合住宅の奇怪な名前の件

更新日2024/10/17


ひと月ばかり日本で過ごしました。義理のお姉さんが住む札幌市郊外の琴似に居候を決め込んだのです。私の日課は、ここコロラドにいる時とあまり変わらず、朝食前に長い散歩に出かけます。

琴似界隈は札幌への通勤、通学に便利なのでしょう、巨大なマンション地域になっています。中には高層ビルに八方塞がりのように囲まれて古い個人の家が断固とした決断を見せるように残っていますが、それが高層建築にとって変わられるのは時間の問題でしょう。

そして、それらの集合住宅の名前です。50年も前、大阪郊外の吹田市に住んでいた時、マンション全盛の時代で、木造モルタルの二階建てで、鉄の外付け階段があるアパートに“~~マンション”と書いてあるのが滑稽に思えましたが、今では“マンション”は影をひそめ、フランス語、イタリア語、スペイン語らしき名前にとって変わられています。

日本語で“マンション”は何と言うのでしょう? 物知りらしきウチのダンナさんに訊いても、「ウーム、そんな建物自体、存在しなかったからな~、無理に言えば西洋長屋かな、強いて言えば~~荘かな…」と頼りありません。でも、誰が今時“西洋長屋”なんて言うもんですか…。

その彼が学生時代横浜で住んでいたボロアパートの“聚楽荘”に私も行きましたが、あれはドヤ、ゲットー(ユダヤ人の隔離居住)で、とても“聚楽”と呼べない、“荘”でした。“荘”も死語なら、“アパート”もほとんど使われていません。

札幌郊外の琴似界隈を毎日散歩しただけですが、~~アパートと言うのは一軒もありませんでした。“荘”や“マンション”と名付けられた集合住宅は、決まって古く、ボロボロで前世紀の遺物の様相です。“スカイ・マンション”とハゲたペンキで銘打っているのは、鉄の外付け階段がある壊れかかった二階建てでした。
 
英語は劣勢ですが“サン・コート” “ウエスト・ヒル・コート” “ダイヤ・パレス” “サン・コーポ” “リラ・コート”などが残っているにしろ、いずれも相当古い建物です。和洋折衷の“ニュー緑台” “さいわいハウス” “コーポ畠山“というのもあります。
 
このところ流行っているのはフランス語、スペイン語のようで、“シャンボール” “ル・ソレイユ” “グラン・ソレイユ” “メゾン~~”、余程印象派の絵が好きなオーナーなのでしょうか“セザンヌ”というのがありました。ウイーン郊外のシェーンブル宮殿とは似ても似つかない木造モルタルの長屋に、かっこいいレタリングで“シェーンブル”と書き込んでいる建物もありました。

そう言えば “ヴェルサイユ” “コンコルド” “ストラスブール”などがあり、結構 “シャトー~~”ってのもかなりありました。もちろん、シャトー、お城、宮殿とは似ても似つかないアパートでしたが…。

イタリア語の方は、人気歌手のアンドレア・ボチェッリ(Andrea Bocelli)のレコードのタイトルのように“Vivere琴似”とか “Aste R” “Vivace” “Alegro” “Andante” と音楽の記号が並んでいます。

新しい集合住宅、マンションはかっこいいけど読み難いレタリングで、西洋文字だけで表示されている傾向があるようです。曰く “Blanenoir” “Zero Grande” “Step One” “Harelu” “Grande Moe” “Queens Paranode” “Life Fort” “La casa Felice” “Vivace” “Progress” “Exceed 24” “Amenities” など、それぞれ嗜好を凝らした建築で入口はまるで五つ星のホテルのようなものまであります。

日本の集合住宅の名前は犬、猫、ペットの名前と同じで、何でもありの世界のようなのです。

それにしても、なぜ日本古来の名前を使わないのでしょうか? 宮殿、離宮、院、堂、館、殿、城、鄭、邸宅、閣、庵、何重の塔などなど、面白い日本の呼び方を思いつくままに上げてみました。まさか~~寺とは命名しないでしょうけど。でも、このような日本的な名前はどこか近代的なコンクリートの高層建築には相応しくないイメージがあるのかもしれませんね。

アメリカでは、平屋も高層ビルアパート群も、すべてコンドミニアム、コンドーと呼んでいます。

日本の新築集合住宅は一つひとつ取り上げて見ると、なかなかカッコいいのですが、向こう三軒両隣を眺めると、テンでバラバラで、“Jewel Kotoni”(琴似の宝石) “Precious Time(貴重な時間)” という超モダンな建物の隣に、汚れ切った今にも潰れそうな古い二階建ての”たむら荘“だったりで、とても街全体、いやその一角だけでも全体の調和を考慮しているとは思えません。一体、日本人の美意識はどこへ行ったのだろうと思わせます。
 
そこに現実に住む人が満足しているなら、ヨソの目など気にする必要がないことは承知の上で言うのですが、西欧的便利さを追求しすぎると、ヘンテコリンな名前の付いた、周囲と全く調和していない住宅に住まなけれらばならない運命にあるのでしょうね。

 

 

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modoru


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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