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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第823回:持てる国と持たざる国

更新日2023/10/19


私がまだウラ若き乙女であった時(今では、私にそんな時代があったことがチョット信じられませんが…)、大阪の郊外吹田市に住んでいたことがあります。今ほど、日本ブームに沸いていない頃、まだ西洋人が比較的珍しい時代でした。手っ取り早く生活費を稼ぐ方便で、英語、英会話を学校と個人に教えていました。

その時、授業が終わってから、生徒さんと連れ立って喫茶店、スナック、バーなどによく行ったものです。そして、生徒さん、主にサラリーマン、ウーマンは、いつも“日本人特殊論?”、日本の国自体が特別な国だと耳にタコができるほど聞かされました。彼らは若くモノを知らない外国人(私のことです)に、ジャポニカを宣伝したかっただけなのでしょう。

第一、彼らは他の国のことなどよく知らずに、日本は特別だ!とやっていたのですから…。日本が特別の国であるのは、アナタが日本人だからで、カメルーン、ニジェール、ブータンもそこに住む人にとって、自分の国は特別な存在だということに“日本人特殊論者”は気がついていないようなのです。
 
よく聞かされたことですが、日本には鉱山地下資源がほとんどない、よって原材料を輸入し、一生懸命働き加工し、それを輸出することで国を成り立たせている…と言うのです。確かにそれは半分くらい当たっているでしょう。日本製はモノが良い、優れているという評価は、長い年月をかけて築いてきた成果であることは間違いありません。

しかし、地下資源、鉱物、原油がフンダンある国の方が珍しく、そんなモノが全くない国の方が圧倒的に多いのです。そして、人類の大いなる皮肉なのでしょうか、資源の豊かな国の方が政治が混乱し、争いが絶えず、挙句殺し合い、住民も不幸になる傾向があるように見えます。 
 
今、アメリカにやって来るメキシコとの国境を越えようとしている難民団の80%はベネズエラ人です。
昔、ヨットでカリブ海クルージングをしていた時、二度ベネズエラに行き、総計で9ヵ月も滞在しました。半世紀以上前のことですが、物価が想像を絶するほど安く、石油は瓶詰めのミネラルウォーターより安いのにショックを受けたほどです。

彼の国には石油は湧き出てくるし、農業、牧畜に適した広大な平野はあるし、風光明媚な観光資源にも事欠かないし、オリノコ川と大西洋、カリブ海からの水産資源もあるし、おそらく世界で最も天然資源に恵まれた国です。それでいながら、今年に入ってから70万人もの難民がアメリカに入国しています。

ベネズエラからアメリカの国境に辿り着くには、まずお隣のコロンビアに逃げ、それから北上してパナマ、ニカラグア、ホンジュラス、グアテマラそしてやっとメキシコに入ってからもアメリカとの国境のリオグランデまで直線距離で1,300キロあり、ベネズエラ国境からですと2,800キロ、実際にはそれよりもっともっと長いでしょうけど、そんな距離をバスや汽車、あるいは難民を食い物にしている運び屋のトラック、コンテナに詰め込まれ、乗り継ぎ、かつまた徒歩でやってくるのです。
 
その長い移動の途中でどれだけの人が死に、あるいは殺され、脱落しているか計り知れません。彼らが舐めた苦難の旅に比べると、旧約聖書にあるユダヤ人がエジプトから脱出したオハナシが童話のように聞こえます。

ベネズエラみたいな、あんな豊かな国からどうして大量の難民が出るのでしょう。答えはハッキリしています。政治が悪いからです。自分の利益しか考えない政治家たち、企業家たちが、反対勢力を困窮に陥れるだけでなく、個人の資産と生命までを奪おうとしているからです。大量の難民を出している国の国民が幸せだ、良い国だとは決して言えません。そんな国は潰れるか、革命的な政変を起こし、脱皮するしかないのです。
 
ほんの70-80年前まで食うや食わずの地域で部族の集団のような中東の国々に突然油田が見つかり、世界史上稀にみる新興超大金持ちになったアラブの国々に闘争が絶えず、原油の出る国は、周りの原油の全く出ない国々にハバを効かせ、コントロールしようとしています。もちろん、原油が欲しくてたまらない国々は、産油国に取り入るためにありとあらゆることをやっています。原油を得るためなら膨大な量の武器を供給さえしています。そんな中東アラブの持てる国からも、大量の難民が西ヨーロッパの国々やアメリカに入って来ます。国は大金持ちでも、一般の住民は非常に貧しいのでしょう。

一時期、日本に大量に入ってきたイラン人たちは、時の日本政府が原油欲しさに、交換条件で彼の国の人に大量の日本在住ビサを発行した結果です。

簡単な公式ですが、貴方が、私たちがそこへ行って住んでみたい、私たちの場合は、老後をその国で過ごしたいと思わせる国は、持たざる国の方が圧倒的に多いと思います。たとえば、日本人で中東アラブ産油国で老後を過ごしたいと思う人は余程中東の古代史に興味を持つ人以外殆どいないでしょう。逆に、持たざる国の筆頭スイスやギリシャ、イタリアそしてネパール、ブータン、ニュージーランドや環礁の小さな国々に人気が集まると想像しています。これは多分に、それ以上に私の個人的な志向、偏見なのは承知の上ですが…。

国のあり方を個人のレベルで計ることはできませんが、やはりそこに住む人の幸せ度がその国を魅力ある国にしているのではないかと思います。持てる国の筆頭格ベネズエラには多少の思い入れがありますが、彼の国で老後を過ごそうとはツユほども思いません。国民が生命の危険を感じることなく、暮らせる国になってもらいたいと云う、他所者が抱く無責任な感情を抱いてはいるのですが…。

 

 

第824回:持たざる国、スイス

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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