第920回:メタと呼ばれる麻薬
私がオレゴン州の父が同居している弟夫妻の家にいる間に、義理の妹、メリーが急にポートランドへ行かなければならない事態が発生しました。メリーの親友の息子さんが急死したのです。34歳でした。死因は“メタ”、スピードと呼ばれている覚醒剤のオーバードースでした。
俗称メタは“Methamphetamine(メタンフェタミン)”の略で、中枢神経刺激薬として古くから、と言っても第ニ次世界大戦中から使われていた、一種の興奮剤、眠気覚ましに使われてきた薬品です。
ナチスドイツが電撃作戦のため24時間ぶっ通しの進撃の時に使ったとか、遠距離爆撃の際に目的地までパイロットを眠らせないために多量に摂取させたとか言われています。日本軍も“ヒロポン”の薬名で特攻隊などに投与したと言われています。24時間体制の軍需工場でも、増産のため工員を酷使する目的で使われていたと言われています。
そして戦後、大量に作り過ぎたヒロポンが格安で市場に出回り、疲労回復、やる気が出る、眠気覚ましにと、お酒やタバコと同じように消費されていたようです。戦後、お酒が手に入りにくい時でも、10本の注射用アンプルが100円以下で販売されていたといいますから、芸人、タレント、小説家に愛好家が急増し、社会問題になり始め、加えて、ヒロポンの常習性が心身に危険であることにやっと気付き、1951年に医療目的以外の使用、販売は禁止されています。
スポーツ界で興奮剤の服用が大きな問題になっていますが、大なり小なりこのメタを含んだ薬品か、1936年のベルリン・オリンピックでアメリカのオリンピック選手団が使い始め注目を浴びた“ベンゼドリン”がほとんどのようです。
ナチスドイツはメタンフェタミンを大量に使い、24時間不眠で進撃し、電撃作戦を成功させたと言われていますし、ゲシュタポ、SS特務隊員は全員メタを習慣的に摂取していた、それどころか、ヒットラーもメタを呑んでいたとさえ言われています。
ヒロポンは大日本製薬の商品名で、ギリシャ語の“ピロポノス(労働を愛する)”から来ています。
アメリカでメタンフェタミンが急速に広がったのは、かれこれ20年程前からではないかしら。コカイン、ヘロインは密輸で未だにアメリカに入って来ていますが、年々、値上がりが激しく、若者の手に入りにくくなり、かと言って、公認されているマリファナではパンチが足りない、そこで、比較的安く手に入りやすい、メタ、スピード、クリスタルとあだ名、俗称は異なるけど、中身は同じメタンフェタミンが広がったことのようです。
メタンフェタミンは鎮痛剤、風邪薬などにも少量含まれていますから、薬局を周り、それらの薬を買い集め、化学的知識がなくても、簡単にメタンフェタミンを抽出、精製できるのだそうです。
私が働いていた人口12万人ばかりの大学町でも、週に一度はメタンフェタミン製造工場、と言ってもガレージか普通の家の地下室程度のものですが、摘発を受けています。いくら安価だと言っても麻薬扱いですから、売買に危険が伴うし、製造元、販売する売子は手っ取り早く大儲けができる仕組みになっているようなのです。
ですから、原料になる誰でも処方箋なしで買うことができるメタを含んだ鎮痛剤、風邪薬など、一人1回2箱に制限する動きがあります。現在、コロラド州ではメタンフェタミンが含まれている風邪薬、鎮痛剤などを買う時、21歳以上であることを証明する必要があります。
コカイン、ヘロインがダメなら、メタがあるとばかりに、海外、主にお隣のメキシコや中南米、はたまた中国製のメタンフェタミンまで、税関の目を潜って大量にアメリカに持ち込まれているのが現状です。
どうにも、メタはその使用者と捜査官とのイタチごっこが続いているようで、ニュースでは車で輸送していた何十キロのメタ錠剤を見つけたとか、メタの製造所を摘発したとのニュースが流れてきますが、絶滅には程遠いようです。
私が以前、陪審員として関与した殺人事件も、このメタンフェタミン中毒に絡んだ事件でした。
次々と発売される薬、効果テキメン、霊験あらたかに効く薬が市場に出回っていますが、一歩その使用法を間違えば、とんでもないことになるケースが多く、両刃のカミソリのようなものなのです。
-…つづく
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