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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第586回:パラサイト学生と苦学生

更新日2018/11/15



思いがけなく卒業生、それも10年以上前に私の授業をとった学生さんが、フラッと私の事務所に立ち寄ることがあります。それはとても嬉しいことで、思わず長話になります。彼らの歩んでいる人生を聞くのはとても楽しく、大きく成長していく若者を見て、誇らしく思ったりします。

私自身には、彼らを特別に扱ったという記憶はないのですが、教職にあるものとして、卒業生が社会人となり、それなりの道を歩み始めてからも、わざわざ私を訪ねて来てくれるのは、特別な御褒美のような気がします。それだけが教職冥利で、見返りだと言い切ってもいいかもしれません。

卒業後に私に会いに来てくれる学生さんの100%が在学中、親元を離れ、アルバイトをし、生活していた“苦学生”でした。この苦学生って古臭い言葉ですが、今でも日本にはこんな表現があるのでしょうか? どうやら元苦学生だったらしいダンナさんに訊いたところ、現在の基準で計るなら、彼の時代の国公立大学、彼曰く、貧乏人のための大学の学生の80%くらいは苦学生になるのではないかと言っています。

ベイズ君は今受けに受けているコンピューターサイエンスの専攻で、どうしてなのか日本がとても好きで、まったく専門外の日本語を初級から上級まで取り、いつもトップクラスの成績で通しました。その後、日本熱が嵩じて、日本で1年間、交換留学生として過ごしました。

元々漢字が得意で、ウチのダンナさんがあきれるくらい難しい漢字を知っていました。会話の方も達者で、どこでそんなにスムーズで素早く対応できる日本語を習ったのと訊いたところ、日本のコンビニでバイトをしていたと言うのです。コンビニは最高の日本語学校だった、日本の大学の日本語講座は全然役に立たない、読み書きは日本語のポルノ小説が最高のテキストだったと言っていました。

彼は在学中、夏休み、冬休みだけでなく、学期の最中も、最低賃金しか貰えないウォルマートでアルバイトをしていました。時々、相当疲れ切った青い顔をして授業に出てくることがあって、どうしたのと訊くと、「イヤー、徹夜でバイトして、昨日の夜はまったく寝ていなんです。でも、ピンチヒッターで夜間勤務をすると賃金が1.5倍になるから…」と言うのです。

私の授業には、私が日本語の“先輩”と読んでいるアシスタント、すでに日本語上級コースを終えた生徒さんが初めて日本語を習う生徒さんをマンツーマンで助けるために、いつも5人から8人くらい出てきてくれます。ベイズ君は欠かさず“先輩”として授業に出てきてくれ、初級クラスの生徒さんの会話の相手をしてくれるのでした。

彼はボストンのハイテック会社に招聘され、私よりはるかに高い初任給で迎えられました。そんなベイズ君が、私の事務所に来てくれたのですから、長話になろうというものです。

もう一人、ニック君がいます。
彼はビジネスの専攻ですが、音楽が好きで、自分でコンピュータを駆使し、作曲し、かつ最新の音楽に詳しいので、結婚式の音楽担当係としてかなり高給のアルバイトをしていました。

自分で作曲した音楽がボチボチ売れ出し、それで学費を賄えると、恥ずかしそうに言っていました。卒業後、元々がビジネス専攻ですから、自分の音楽配給会社を設立し、結婚式やパーティーの……(なんと言うのかしら?)、音楽編集、挨拶、スピーチを録音する担当者として、ここ中西部の他の町、デンバー、ガニソン、ソルトレイクシティーなどへ忙しく飛び回っています。

彼も時々、思い出したように私の事務所に顔を出してくれます。
この二人だけではありませんが、はっきりと苦学した学生さんは、全般に優秀な成績だし、卒業後も私のところにやってきてくれます。

反対に親元から通い、親が授業料、生活費、果てはお小遣いまで、すべて払っている学生さんはマジメに勉強せず、単位を落とし、落第する傾向があることに気が付きました。これはむしろ唖然とするくらいハッキリと分かれています。必ずしも彼らの親がお金持ちというのではなく、子供がべったりと親に甘え、独立心がなく、親がそれを無限に許しているのです。

私の3人の甥っ子の内、一人はやっと30歳を過ぎてから安定した職を得て、自立し始めましたが、まだ親の近くに住み、ことある毎に親のところに行き、傍で見ていると、なんだか乳離れしていない子供のように見えます。もっとも、親の方が子離れしていないのかもしれませんが…。よく言えば、親子の関係がとても親密だと言えなくもないのですが…。

問題はあとの二人の甥っ子で、一人は31歳、もう一人は27歳ですが、何度も専攻を変え、転校し、どうにか大学を終えてはいるのですが、仕事を探そうともせずに、親と同居しているのです。これぞパラサイト(寄生虫)と呼ばずに何と言ったらいいのでしょうか。

二人ともとても聡明な(と思うのですが…)で、優しく、思いやりがある子なのです。ですが、一つの仕事を続けることができないし、初めからガマンの要る、繰り返しが多い仕事に就こうともしません。親が面倒をみてくれるのなら、どうして働かなければならないの…と言わんばかりの態度で、独立して生活しようという気持ちが全くないのです。

親がすべて面倒を見ている生徒さんは、いつも流行の先端をいくオシャレな服装で身を飾り、お小遣いも豊富なのでしょう、週末にはディスコ、映画、レストラン、と優雅に過ごし、夏休みには親と一緒にバカンスに出かけます。

そして成績はいつも落第スレスレを低迷し、私が単位を与えず落とすと、決まって文句、愚痴、しまいには学部長、学長に訴えるなどと恐喝じみたことを言ってくるのも、決まってパラサイト学生です。

人生は自分自身で切り拓いて行くしかない、という当たり前のことが分かっていないのです。いつも誰かが、それまで親がすべてやってくれたように、これからも誰かがレールを敷いてくれるのを待っているのでしょうね…。

私の生徒さんの一人はとても犬が好きで、学生の時から、自分で犬のシャンプー、カットをアルバイトでしていましたが、とても儲かるので、卒業後、町外れにお犬様のエステサロンを開店しました。私が行くような、安いヘアサロンの何倍かの料金をペットのために(喜んで?)払う飼い主がたくさんいるのだそうです。

一番大変なのは、飼い主への対応で、まるで精神科のお医者さんか、コンサルタントのように飼主の“心”の問題を扱わなければならない、それだけはウンザリすると、コボシていました。

自分のペットだけバカ可愛がる心理は、パラサイト学生の親たちと共通するところがあります。自分のペット、子供のこと、それに何よりも自分のことしか考えていないようなのです。

苦学生とパラサイト学生の格差はこれからも拡がっていくでしょう。創造的でハングリー・スピリッツを持った学生がドンドン伸びるのに比べ、パラサイト学生はマスマス閉ざされた箱庭の中だけで、親を巻き込み、自滅して行くことになるのでしょう。

そうなる前に、高校生の時から自分の銀行口座を持たせ、クレジットカードなどもその彼、彼女自身の口座から支払わせてはどうでしょうか?

毎月のお小遣いを渡すのは構いませんが、その範囲でやりなさい…と条件を付けるのです。そして、車を持ち、運転する歳になったら、必ずガソリン代と保険は自分で払わせるようにすることです。学費はともかく、遊ぶお金は自分で働いて稼げ…と強いラインを引くのです。

パラサイト大学生になってからでは、もう手遅れで、付ける薬はありませんから、できるだけ早いウチに突き放すくらいに扱い、独立心を持たせるようにするしか方策はないと思うのです。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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