第640回:家元制の怪 2
日本の伝統的な芸能、舞踊、歌舞伎、延いては落語に至るまで、代々同じ名前を引き継ぎ伝統芸を守ろうしています。お弟子さんの中でもとりわけ一芸に優れた人が跡取りという形で、家名を引き継ぐのであれば理解できます。
それが、歌舞伎役者のように、長男(時折次男のこともあるにしろ)が同じ芸名を授けられ(襲名というのですね)第一人者になるというのはおかしな話で、その息子、長男坊にそれだけの才能、技量があればいいのですが、人類の歴史の中で二代目、三代目がその道を切り開き、基礎を築いた創始者ほどの人物であることは皆無に近いことははっきりしています。
マア~、血を受けているというだけで総統できる程度の芸なのかもしれませんが…。
それに、血統、血筋を重んじることは、才能のある他の人を潰してしまうことになり兼ねません。どこに、ベートーベンやミケランジェロの息子が初代と同じように、親父さんの家元を引き継ぎ、優れた芸術家になることなどあるわけがないでしょう…。オッと、これは悪い冗談で、ベートーベンもミケランジェロも生涯独身で子供はいませんでしたが…。
競馬馬はオス、メスの掛け合わせの妙が生まれてくる馬にはっきり現れるそうです。それでも何パーセントかは期待したほどの馬が生まれてこなかったりします。このように、血筋を固定させることに異常な情熱と根気を示すイギリス人が、アラブ馬からサラブレッドを作り出しました。犬の血統、品種の固定も、イギリス人が主役です。イギリス人自体がどうしようもない雑種だから、あのように動物に対して純血を求めるのだ…と言う人もいますが…。
ダンナさんの解説によれば、日本の家元制、血統を重んじる習慣は江戸時代に始まり、広がり、ガッチリ日本人の心に浸み込んだことのようです。なんせ、家の跡継ぎがいなければお百姓さんだけでなく、大名でも「お家、取り潰し」になる法令が厳として履行されていたというのです。でも、そこは養子を貰ったり、娘に婿さんを貰い、家名を継がせたりで、純血主義の血統ではなかったようです。しかし、養子縁組は江戸の徳川さんにお伺いを立てなければならかったと言いますから、お家を守るのは結構、大仕事だったんですね。そこに儒教が結びつき、ご先祖様を敬う傾向が強くなり、さらに本来の仏教とは無関係の葬式仏教が拍車をかけたとはダンナさんの弁です。
お家の大事が大いに詠われた江戸時代に大変流行った商売は「家系屋」でした。少しばかり財を成すと、自分をアリガターイ由緒のある家柄の出である…とやりたがるのは世の常で、大枚をはたいて“家系図”を作って貰うのです。そんなものを必要としない土着の古い家系もあるにはあるでしょうけど、ほとんどというか南北朝時代まで遡り天皇家に結び付けている家系は100%近く捏造でしょうね。
それに、第一、天皇家の血統ですら、相当曖昧で、跡継ぎがいなくて、コジツケのように裏日本に住んでいたかすかな縁戚であるらしい人物を継体天皇として呼んだりしています。この(携帯ではなく継体です)天皇、なかなか賢い人だったようで、いきなり「バンザーイ、天皇の地位が転がり込んできた~」と京都に駆けつけるようなことはせず、じっと北国から京都の動向を探り、10年もかけて魑魅魍魎、嫉妬と政略が渦巻く京都に入っています。
血統を重んじる感覚は、それでもマア~どうにか理解できないことはありませんが、それが長男、男だけに引き継がれるものだ、となると全く別の話です。今の天皇に息子さんが生まれず、娘さんが一人だけですから、彼女が女帝として天皇家を引き継ぐのが当たり前と思っていたところ、そうでもないらしいのですね。
そんなに日本の歴史に詳しくない私でも、インターネットで日本の女帝を数えることができます。今まで十人もの女帝が存在しているのです。ですから、男でなきゃダメという人は、歴代の天皇(女帝ですが)を無視、軽視していることになります。
平成天皇は自分の意思で退位しました。天皇の仕事は傍で見ていても気苦労の多い、大変な仕事、緊張の連続で、おまけに常にマスコミの目に晒されている役割だと思います。アメリカ人の目から見て、ローヤルファミリーほど奇妙に映る制度はありません。ただ、その家に生まれたというだけで、その人の人生から自由を奪ってしまい、ヤルコトが決められてしまうのは、御当人にとって辛いことでしょうし、第一そのような王朝の存在を許すことは民主主義の根源に反することのように思えます。
日本の場合、今生天皇と皇后、娘さんに本音を言って貰ってはどうでしょうか。天皇家の一員をやめて、中くらいの市民として、普通の生活をしたいかどうか打ち明けてもらうのです。本当のところ、田舎で静かに暮らしたいと…思っているのではないでしょうか…。
大戦後、マッカーサーが戦後の混乱を避けるために、天皇を利用したことは広く知れ渡っています。昭和天皇は戦犯裁判にさえ掛けられていません。これは歴史の不思議で、天皇陛下バンザーイと叫び兵役に取られ、死んでいった若者、さらにその兵隊が殺した現地の人たちはどうなるでしょう…。
現行の日本憲法もアメリカ進駐軍の指導で書かれた事実は動かせません。でも、それ自体が良いものなら、誰がどのように書いたかは問題ではありせん。
血筋というだけで天皇制を継続するかどうか、皇族の人たちの本音を聞いて、もっと胸を開いて公に話し合っても良いような気がします。
私には、天皇のご家族が窮屈そうな伝統に囚われて生きなければならないのは、とて可哀想に見えるし、もっと彼らが望むような生き方をさせてあげても良いと思うのですが…。
-…つづく
第641回:年頭から暗い話題ですが…
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