のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
 

第445回:流行り歌に寄せて No.245 「或る日突然」~昭和44年(1969年)5月10日リリース

更新日2022/10/13


また時間を戻してしまった。今回は『誰もいない海』をご紹介するつもりが、「あれ、トワ・エ・モアと言えば?」と思い出し、今回の曲になったのである。なぜ、この曲をその時点で思い出せなかったのだろう?

もう言い訳を繰り返すのも、大変申し訳ないので、改めて申し上げます。「これからも、何度かこういうことがあるかも知れませんが、どうかご容赦ください」

この曲を最初に聴いた時(中学二年生になって間もなくだったが)、“何か、とてもお洒落で、洗練された曲だな”と感じた。もちろん、中二の私にはそんな言葉の言い回しはできなかったので、今現在その当時の気持ちを言語化している。

そして、この曲をとても好きになった。いつか、こんな関係になる人が出てくるのだろうか、という憧れの気持ちを抱きながら。

今聴いてみても、最初のイメージは少しも変わらない。デュエットなのだが、1番から4番まで、独唱、斉唱を織り交ぜながら、清澄な歌声で淡々と穏やかに歌い継がれてゆく。聴き終わった後、ふっと安堵感を覚えるのである。

白鳥英美子は、昭和25年(1950年)3月16日、神奈川県横須賀市の生まれ。一方の芥川澄夫は、昭和23年1月30日、愛媛県西条市の生まれ。

歌手を志し、渡辺プロに所属して、ライブハウス、西銀座メイツ(渡辺プロ経営)で歌っていた芥川澄夫と、同じく渡辺プロ所属でスクールメイツで活動していた白鳥英美子。この二人によるデュエット・グループは、渡辺プロにより作られたユニットであり、そのデビュー曲が、今回の『或る日突然』であった。

さすがに、エンターテイメントのプロ集団である。「或る日突然に人為的に作成された」というイメージを抱かさず、何か友だち同士が、いつの間にかグループを作ったかのような印象でのデビューだった。

そして、グループ名の「トワ・エ・モア」 “Toi et Moi” 、フランス語で「あなたと私」と言う意味で、お洒落で瑞々しい雰囲気を醸し出している。

 

「或る日突然」  山上路夫:作詞  村井邦彦:作曲  小谷充:編曲  トワ・エ・モア:歌

 
或る日突然 二人だまるの

あんなにおしゃべり していたけれど

いつか そんな 時が 来ると

私には わかっていたの

 

或る日じっと 見つめ合うのよ

二人はたがいの 瞳の奥を

そこに 何が あるか 急に

知りたくて おたがいを見る

 

或る日そっと 近寄る二人

二人をへだてた 壁をこえるの

そして 二人 すぐに 知るの

さがしてた 愛があるのよ

 

或る日突然 愛し合うのよ

ただの友だちが その時かわる

いつか 知らず 胸の中で

育ってた 二人の愛

 

この曲のタイトルを「ある日突然」ではなく「或る日突然」としたところに、山上路夫のリリシズムのようなものを感じる。芥川龍之介の『或阿呆の一生』、有島武郎の『或る女』などの古典で使われているものを持ってきた。

抒情生のある『港が見える丘』『君待てども』などを作詞・作曲した父、東辰三の才能が、しっかり受け継がれているようだ。

先ほど第一印象を“お洒落で洗練された曲”と書いたが、それもそのはずで、作曲家の村井邦彦とのコンビは、そういうイメージの曲を作らせたら右に出る者はいないと思われるほどの実力あるコンビである。

この二人による作品は、平成29年(2017年)12月に発売された三枚組のCD『「翼をください」を作った男たち~山上路夫・村井邦彦作品集』でたっぷりと聴くことができる。

編曲は、聴くものにイントロを聴いただけでそのイメージを思い抱かせ、歌の世界へふわりと誘(いざな)ってくれる名手の中の名手、小谷充。トワ・エ・モアの曲では、この他に『空よ』『虹と雪のバラード』などで、その素晴らしい手腕を発揮している。

さて、トワ・エ・モアの二人、最初はそれぞれソロで活動していたところを、渡辺プロから半ば強制的にデュオにさせられたことに難色を示していたようだ。

デュオでの活動により、二人世間に広く注目されたわけだが、どのような思いで続けていたのだろう。活動期間4年半ほどで、昭和48年6月には解散をした。

その12年後の昭和60年、ある音楽番組限定で再結成したことがあるが、その時はその番組のみだった。

そして、『虹と雪のバラード』がオフィシャル・ソングだった札幌オリンピックから26年後の平成10年、長野オリンピック記念イベントに出演したのをきっかけに、それぞれのソロ活動と並行して、トワ・エ・モアとしての活動を本格的に再開し、その活動は現在も続いている。

 


第446回:流行り歌に寄せて No.246 「誰もいない海」~昭和45年(1970年)11月05日リリース


このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー


第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー


第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)~
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13~
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61~
第300回:流行り歌に寄せて No.105
までのバックナンバー


第301回:流行り歌に寄せて No.106~
第350回:流行り歌に寄せて No.155
までのバックナンバー

第351回:流行り歌に寄せて No.156~
第400回:流行り歌に寄せて No.200
までのバックナンバー


第401回:流行り歌に寄せて No.201
「白いブランコ」~昭和44年(1969年)

第402回:流行り歌に寄せて No.202
「時には母のない子のように」~昭和44年(1969年)

第403回:流行り歌に寄せて No.203
「長崎は今日も雨だった」~昭和44年(1969年)

第404回:流行り歌に寄せて No.204
「みんな夢の中」~昭和44年(1969年)

第405回:流行り歌に寄せて No.205
「夜明けのスキャット」~昭和44年(1969年)
第406回:流行り歌に寄せて No.206
「港町ブルース」~昭和44年(1969年)
第407回:流行り歌に寄せて No.207
「フランシーヌの場合」~昭和44年(1969年)

第408回:流行り歌に寄せて No.208
「雨に濡れた慕情」~昭和44年(1969年)

第409回:流行り歌に寄せて No.209
「恋の奴隷」~昭和44年(1969年)

第410回:流行り歌に寄せて No.210
「世界は二人のために」~昭和42年(1967年)
「いいじゃないの幸せならば」~昭和44年(1969年)

第411回:流行り歌に寄せて No.211
「人形の家」~昭和44年(1969年)

第412回:流行り歌に寄せて No.212
「池袋の夜」~昭和44年(1969年)

第413回:流行り歌に寄せて No.213
「悲しみは駆け足でやってくる」~昭和44年(1969年)

第414回:流行り歌に寄せて No.214
「別れのサンバ」~昭和44年(1969年)

第415回:流行り歌に寄せて No.215
「真夜中のギター」~昭和44年(1969年)

第416回:流行り歌に寄せて No.216
「あなたの心に」~昭和44年(1969年)

第417回:流行り歌に寄せて No.217
「黒ネコのタンゴ」~昭和44年(1969年)

第418回:流行り歌に寄せて No.218
「昭和ブルース」~昭和44年(1969年)

第419回:流行り歌に寄せて No.219
「新宿の女」~昭和44年(1969年)

第420回:流行り歌に寄せて No.220
「三百六十五歩のマーチ」~昭和43年(1968年)
「真実一路のマーチ」~昭和44年(1969年)

第421回:流行り歌に寄せて No.221
「ひとり寝の子守唄」~昭和44年(1969年)

第422回:流行り歌に寄せて No.222
「白い色は恋人の色」~昭和44年(1969年)

第423回:流行り歌に寄せて No.223
「夜と朝のあいだに」~昭和44年(1969年)

第424回:流行り歌に寄せて No.224
「サインはV」「アタックNo.1」~昭和44年(1969年)

第425回:流行り歌に寄せて No.225
「白い蝶のサンバ」~昭和45年(1970年)

第426回:流行り歌に寄せて No.226
「老人と子供のポルカ」~昭和45年(1970年)

第427回:流行り歌に寄せて No.227
「長崎の夜はむらさき」~昭和45年(1970年)

第428回:流行り歌に寄せて No.228
「しあわせの涙」「幸せってなに?」~昭和45年(1970年)

第429回:流行り歌に寄せて No.229
「圭子の夢は夜ひらく」~昭和45年(1970年)
第431回:流行り歌に寄せて No.231
「経験」~昭和45年(1970年)

第432回:流行り歌に寄せて No.232
「ちっちゃな恋人」~昭和45年(1970年)

第434回:流行り歌に寄せて No.234
「京都の恋」~昭和45年(1970年)

第435回:流行り歌に寄せて No.235
「笑って許して」~昭和45年(1970年)

第436回:流行り歌に寄せて No.236
「四つのお願い」~昭和45年(1970年)

第437回:流行り歌に寄せて No.237
「男と女のお話」~昭和45年(1970年)

第438回:流行り歌に寄せて No.238
「一度だけなら」~昭和45年(1970年)

第439回:流行り歌に寄せて No.239
「手紙」~昭和45年(1970年)7月5日リリース

第440回:流行り歌に寄せて No.240
「噂の女」~昭和45年(1970年)7月5日リリース

第441回:流行り歌に寄せて No.241
「走れコウタロー」~昭和45年(1970年)7月5日リリース

第442回:流行り歌に寄せて No.242
「X+Y=LOVE」~昭和45年(1970年)8月10日リリース

第443回:流行り歌に寄せて No.243
「今日でお別れ」~昭和42年(1967年)リリース
昭和44年(1969年)12月25日再リリース

第444回:流行り歌に寄せて No.244
「雨がやんだら」~昭和45年(1970年)10月21日リリース


■更新予定日:隔週木曜日