第199回:日本とアメリカのタイガー
タイガーマスクの人気が上がっています。プロレスラーか何かだと思っていたら、こんど登場したタイガーマスクは、孤児院(児童養護施設と呼ばなければならないとダンナさんに指摘されました)へランドセルを配ったり、隠れて慈善事業をしている人のようです。
皇太子が誕生日の挨拶の中にでまで、"善意の人"とタイガーマスクに触れたほどですし、タイガーマスク現象についてのゼミナールや研究会が開かれたり、インターネットに「お願い、タイガーマスク」サイトが設けられ、サンタクロースにプレゼントのリクエストをするように、何々ちょうだいとリストを書き付けたり、タイガーマスクは日本ではちょっとしたブームになっているようですね。
彼につられるように、コピーキャット(すぐに真似をする人)が表れたそうですが、これは大いに歓迎するべき現象で、何万人ものコピーキャットが現れることを祈っています。
ウチのダンナさんによれば、トラの方が悪い意味で使われることが多いそうです。例えば、「トラ箱」といえば飲酒運転で捕まり、警察に一泊招待されて寝る留置所のことだそうですが、刑務所の「ブタ箱」と対比して実に面白い言い方です。
アメリカにトラはいませんが、高校や大学のシンボルマスコットとしてとてもポピュラーです。阪神のように、タイガーズというチームはアメリカ全土に何百とあります。
アメリカにタイガーママというのが現れ話題になっています。いつも酔っ払っている酒乱の母親のことではありません。超教育ママのことです。
中国系フィリピン人二世で、ハーバード大学の教授エイミー・チュアさんが『タイガーママ、戦いの賛歌』という本を書き、それがベストセラーになり、テレビや雑誌、新聞でスキャンダラスに報道され、賛否両論華やかに論戦を繰り広げているのです。
エイミー教授は48歳の小柄で痩せ型、とても美しい女性です。彼女には今、15歳と18歳になる二人の娘さんがおり、いかに我が娘を教育してきたかを本に書いたのです。
この猛烈教育ママは、自分の娘たちにテレビ、パソコンは一切ダメ、友達の家に泊まることは許さない、学業は学校で一番になる以外認めない、学校行事での演劇やクラブ活動も認めない、情操教育でもピアノ、ヴァイオリンの練習は一日最低3時間こなし、他の楽器は認めないという、ウルトラスパルタ教育なのです。
それはそれで、自分の娘をどんな風に育てようと本人の勝手だと、普通ならアメリカ人は鷹揚に構えているところなのですが、エイミー教授が、「アメリカの母親は中国人の母親より劣る」とぶちまけたものですから、懸命に母親業を努めていると思い込んでいたアメリカの母親たちはカチンときてしまったのです。
『ウォールストリート・ジャーナル』までが、「なぜ、中国の母親は優れているのか?」という記事を載せたり、雑誌『タイム』では、腕を組んだ母親の前で小さな5、6歳の女の子がヴァイオリンを構えている写真を表紙に載せ、「タイガーママの真実の姿」と特集を組んでいますし、エイミー教授はテレビで引っ張りだこの時の人になったのです。
戦後、アメリカの育児はスポック博士の本から絶大な影響を受けました。私の両親もスポック博士の育児書を聖書のように崇めていましたから、私も幾分スポック方式で育てられたのかもしれません。エイミー教授は子供の個性を伸ばそう、躾けなどに拘らず自由に育てようというスポック博士の遣り方に真っ向から反対し、才能のある子供は厳しい教育で潰れてしまうことはない、逆に個性や才能は厳しいトレーニング、スパルタ教育の中からこそ生まれてくるものだと主張し実践したのです。
教育界の片隅いる者として、毎日伸び切ったお餅のような生徒さんを相手にしていると、エイミー教授の意見は、「ウーン、ごもっとも!」と賛同したくなる部分がたくさんあります。アメリカの子供は学校で過ごす時間より、テレビ、パソコンの前で過ごす時間の方が長いという統計もあります。また、母親が子供と過ごす時間は、中国はアメリカの10倍だそうですから、母親の影響力に大きな違いが出てくるのは当然でしょう。
PISA(Program for International Student Assessmnet)の調査では、中国人学生は勤勉で長い時間集中して勉強すると明確に出ていますし、アメリカは自国語の読み書き能力で世界で7番目、科学、数学で23番目と、教育に莫大なお金をつぎ込んでいる割に全く成果が上がっていません。
一つの例外的な町"上海"とアメリカ全体を比べるのは公平ではありませんが、上海のレベルは読み書き、数学共に群を抜いて高く、かなり離れて下に第二グループとしてシンガポール、韓国、香港、そのグループからまたかなり落ちた第三グループの中に日本は位置しています。アメリカは第五グループくらいかしら、ヨーロッパの国々のお尻にやっと付いている位置にいます。上海での高校就学率も1994年には48%だったのが2010年には76%になりました。
国際特許を申請した数でも、中国はすでに長年トップだったアメリカを上回っています。 教育が国を作る事実が表れているといえます。
ただ、気になることは、教育はそんな天才、頭の良い人のためばかりではないことです。 頭はカッコいいヘアースタイルのための土台としてしか役に立っていないような学生でも、どうにか社会人として巣立っていくこともママありますし、突然変身したかのように学問に興味を抱き、集中力を発揮し出す生徒さんも例外的に出てきます。そんなとき、私の仕事も少しは無駄でなかったと救われた気持ちになります。
でも、学校でできる教育には限度があり、特に15、16歳以下では、家での生活態度、躾け、教育が大人になってからモノを言ってきます。厳しい幼年教育を説くタイガーママは、充分以上の正当な理由があると認めないわけにはいきません。
ウチのダンナさんとタイガーママのことを話していたところ、すぐにわが身に降りかかる問題なのでしょうか、「ウーム、エイミー教授はダンナに対してもそんなに厳しいのかなー、そうだとしたら、ダンナさんは可哀想だな、やってられないな…」と一挙に教育論から夫婦論にテーマが跳んでしまいました。
週刊誌的興味でエイミーさんのダンナさんのことを調べてみたところ、かなり高名なイエール大学の法学博士で教授でした。やっぱりウチの仙人的なダンナさんとは格が違いました。
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