第149回:私の蘇格蘭紀行(10)
更新日2009/08/27
■グラスゴー入り
4月6日(火)、エディンバラからグラスゴーへ移動の日。朝起きて、宿のCameron Hotelの周りをゆっくりと走った。そしてこの街最後の朝食を摂るとき、5日間お世話になったアル中の給仕のおじさんにお礼を述べて、宿を後にした。
それなりに物を買い込んだため、荷物が増えてバッグがまた一段と重くなり肩の骨が軋む。まったくなんて重さだ! 5泊6日だけいた街なのに、エディンバラに情が移ってしまい、離れるのが辛くなった。また旅愁というやつだろうか。
St. Andrew Sq.のバスターミナルからグラスゴー行きのバスに乗る。何だか疲れていて、途中ほとんど眠ってしまい、車窓からの景色を見ることができなかった。残念なことをしたと思っている。
到着したグラスゴーのBuchananのバスステーションから、鉄道のメイン駅であるQueen street駅まで、さんざん迷い悪態をつきながら歩き回った。ようやく辿り着いた駅前のtourist
information(通称"i")で、Mclays Guest HouseというB&Bを探してもらった。
エディンバラではThomas Cookの経営している民間のホテル紹介所(とてもよくしていただいた)に入ったが、公営の"i"は手数料も安く、応対も丁寧で安心できる。
Mclays Guest Houseは、Renfrew Streetという静かな通りに面した、気持ちの良いB&Bだ。宿泊代はCameron
Hotelと同額だが、こちらは部屋の中にバス、トイレのついたEn Suiteタイプ。他の人に気兼ねなくお風呂や手洗いが使えることは、正直かなりストレスが減ることだろう。
さっそく街を歩いてみる。『地球の歩き方』にジャズの生演奏が行なわれているというBAR & CAFEまでかなり歩いて行ってみたが、演奏日ではないらしく、しかも店の雰囲気もやたら若作りな感じで、私にとっては今ひとつで残念だった。
ただ、店に飾られていた昔のEP盤のレコード・ジャケットの中に、'65年のサンレモ音楽祭のものがあって"YUKARI
ITO"の名が載っていたのが感動的だった。スコットランドで伊東ゆかりさんの名に出会えるとは。
4月7日(水)、何と『地球の歩き方』を地下鉄の中で落としてしまう。情報が今ひとつ正確ではないの、どうのこうのと言っていながら、偏に頼ってきた本だ。完全に油断していた。
スコットランド唯一の地下鉄、環状のグラスゴー地下鉄に、ひと回り、少し居眠りでもしようかと思って乗ったのがいけなかった。考えてみれば、旅行者としては実にいい加減な態度である。地下鉄の駅員の人が、「明日の午後、Queen
Street駅のLost Propertyというところに問い合わせなさい」と言ってくれたが、まず無理だろう。
これからは、街を歩くときも、島巡りをするにしても、英語のガイドブックと格闘しなければならない。読みこなせるのだろうか。しかし、パスポートや帰りの航空券を落としたわけではないので、本当に軽傷と言えるだろう。身にしみなくてはダメだ。
がっかりして4時前には一度宿に帰って来てしまったので、思わず30分ばかりふて寝してしまった。しかし嘆いてばかりもいられない、私は前向きに生きることを学んでいるのだ。いろいろなものを見て、考え、少しずつ自分のものにするために、この旅をしていたのではなかったか。何かあればすぐに逃げ込むのは止めよう。
旅行のガイドブックをなくしただけなのに、いやに真剣にいろいろなことを考え込んでしまった。こんなに真っ当に考え巡らすことは日本にいるときはなかったのだ。しばらくして、とにかく外を歩いてみようと思い、宿を飛び出した。
宿のあるRenfrew Streetには、スコットランドだけでなく英国中でも有名な美術学校、Glasgow School
of Artがある。ここは、私も名前ぐらいは聞いたことのある建築家マッキントッシュの出身校で、現在の校舎は彼が建築したものだそうだ。
宿からすぐのところにあるので訪れてみたが、斬新な建造物だが、やはりとてもアカデミックな感じがした。学生たちが実に楽しそうに談笑していて、その様子を見ているうちに、私も少し気持ちが晴れてきた。
そのRenfrew Streetをひとつ下った通りがSauchiehall Street。こちらはとても賑やかな通りで、映画館やレストランをはじめ多くの商店が軒を並べている。お腹が空いてきたので、通りにある中華そば屋さんに入る。
チャーシュー麺を注文した。店構えからしてかなり期待をしていたのだが、残念ながら私の好みにあう味ではなかった。とにかく、麺もチャーシューもとても甘いのだ。並盛りなのに結構な量があり、心ならずも残してしまい、店員の方に帰り際お詫びを言って店を出た。
-…つづく
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)