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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第300回:冬山と春山、そして温暖化と旱魃

更新日2013/02/28



まだ朝晩、山の家ではガッチリとシバレますが、陽が昇ると強烈な太陽光線の力で積った雪の高さがグングン低くなってきました。ウチの太陽電池も使いきれないくらい発電し、電圧の針はいつも13.5ボルトから14.2ボルトの間を指しています。

今年も暖冬でした…と、過去形で言うのは早すぎますが、この山では12月から1月半ばまでが厳寒の季節で、日照時間が長くなるにつれ、グングン春めいてくるのがパターンになっているので、もう零下20度Cの世界にはならないでしょう。

動物たちにも異変が起こっています。いつもの年なら、深い雪に覆われた冬には、鹿、エルク(アメリカトナカイ)は谷に降り、雪が溶け始めるとまた山に戻っていきます。私たちの小屋は、丁度その中間の山裾にあるので、春先と秋口は動物たちでとても賑わいます。

ところが、今年は真冬でも鹿がそのままこの界隈に居座ってしまったのです。積雪が少ないので、鹿やエルク、雪を漕いで歩くことができるし、木下など雪の浅いところでは、鹿が足で雪を蹴り除けると、その下に柔らかい緑の草が寝ていますから、わざわざ乾燥しきった下界に降りていくまでもない…のかもしれません。

鹿は深い雪の中では本来の逃げ足を活かせませんから、特に春に生まれたばかりの若い鹿、バンビは、足が大きく雪の上を歩いても体が沈まないマウンテンライオンの餌食になっています。私たちの小屋の近くでも、骨と皮だけが残った子鹿の残骸を見かけます。新雪の朝、私の手のひらと同じくらいの大きなマウンテンライオンの足跡もよく見かけます。

冬の間、山での暮らしは雪との格闘です。私たちの小屋に辿り着くための私道が300メートル近くあり、その除雪が大問題です。幸運なことに、私たちの私道に入る入口に住んでいるカップルのダンナさんが、ここのカウンティーの道路メインティナンス要員なので、彼に大きな機械で雪かきをやってもらっています。

それでも、年に何回かは下の公道に車を置き、エッチラオッチラ雪を漕いで家まで帰らなければならない事態が発生します。そんなことがあっても、やはり雪が大好きです。玄関を出て、すぐ前からスキーやカンジキで雪と親しむことができるのはとても豪華なことです。

今年は雪の量が少なく、コロラド州全体で大変な旱魃が予想されています。コロラドは冬の間に積った雪が徐々に解け、川を満たし、谷を潤しているのですが、その雪の絶対量が少なく、特にロッキー山脈の東側は、絶望的なほど大地が乾いているとニュースで言っていました。こんな状態が2~4年続くと、大恐慌と同じ時期に襲ったダストボール(強大な砂塵)が出現するのではと、悲観的予想をしている人もいます。

私たちの家というか小屋は山裾の高原台地のようなところで、平らなところには広大な牧場がいくつもあり、牧草畑や放牧地が広がっています。何軒もの牧場主や牧童たちと近所付き合いがあります。天気、旱魃のことは、お天気予報士さんたちより牧場の関係者は生活が懸かっていますから、余程真剣に、大地に直接結びついた現状分析と予測をしています。

曰く、春に大量発生する小さなハエがほとんどいなくなったが、これは旱魃の兆候である。松の実が大豊作だったが、同時に枯れ始める松が多くなった。放牧している牛に、鹿がたくさん混じるようになった(ほかに食料がないので、牛の草、牧草を食べにくる)などなど、異常に乾燥した気候を裏付ける話が多くなりました。

おまけに、穀物の値段が高沸し、鶏の餌は倍近くになり、牧草も例年なら、年に4回刈り入れできたのが3回がやっとで、しかも水不足のため1回の収穫量は例年の半分以下だとこぼしています。不足分の牧草をどこからか買わなければなりませんが、それが3倍近くも値上がりしているのだそうです。

牧草、干し草がそんなに値上がりしたせいでしょう、アメリカの中西部では前代未聞の牧草泥棒まで出没し始めました。牧草は直径2.5メートルくらい、幅2メートルくらいにくるくると巻いた円筒状にして、ロープをかけ、ビニールで包んで畑に転がしてあります。重さにして何百キロかになるはずです。それが盗まれるというのです。かなり大型のトラックで来て、3、4人の泥棒人員が必要なオシゴトになるはずです。

この界隈の牧場はいたっておおらかなのが特徴で、鹿が牛の中に混じり、牧草を食んでいても、全く気にしていない様子ですが、牧場主たち、セチガライ牧草泥棒に対しては、とても憤っていて、ライフルでズドンと撃ちかねない勢いです。刈り取られた後の広々した牧草畑は、冬絶好の私たちの歩くスキーの場所になるのですが、当分遠慮したほうがよさそうです。

異常乾燥は、人間の心までカサカサに乾かしてしまうのでしょうか。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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