■くらり、スペイン~移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻

湯川カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく!
著書『カナ式ラテン生活』。


第1回: はじめまして。
第2回: 愛の人。(前編)
第3回: 愛の人。(後編)
第4回:自らを助くるもの(前編)
第5回:自らを助くるもの(後編)
第6回:ヒマワリの姉御(前編)
第7回:ヒマワリの姉御(後編)
第8回:素晴らしき哉、芳醇な日々(前編)
第9回:素晴らしき哉、芳醇な日々(後編)
第10回:半分のオレンジ(前編)
第11回:半分のオレンジ(後編)
第12回:20歳。(前編)
第13回:20歳。(後編)
第14回:別嬪さんのフラメンコ人生(前編)
第15回:別嬪さんのフラメンコ人生(後編)
第16回:私はインターナショナル。(前編)
第17回:私はインターナショナル。(後編)
第18回:ナニワのカァチャンの幸せ探し(前編)
第19回:ナニワのカァチャンの幸せ探し(後編)
第20回:泣笑的駱駝(前編)
第21回:泣笑的駱駝(後編)
第22回:30歳、さすらいの途中。(前編)
第23回:30歳、さすらいの途中。(後編)
第24回:どこだって、都。あなたとなら(前編)
第25回:どこだって、都。あなたとなら(後編)


■更新予定日:毎週木曜日




第26回: ビバ、アミーガ!

更新日2002/10/17 


カーテンを開ける。空が青い。……スペイン、なんだなぁ。

移住したばかりの頃、ベッドに寝転がって、窓枠のかたちに四角く切り取られた真っ青な空ばかり見ていた。なにも知らない国。言葉もぜんぜんわからない。知り合いといえば、ダンナだけ。彼の帰りが遅い日など、窓に映る家々の灯りを眺めるうちに、「いま私がここで死んでも、誰も気づいてくれんとやろうなぁ。ああ、本当にひとりぼっちなんばい!」と泣いていたこともあった。本当に。

そのうち、主にインターネットを通じて、友人ができた。友人がその友人を紹介し、私も別の友人を紹介したりするうちに、あっという間にたくさんのアミーガができた。やがて、気づいた。なんだか先進国でもないスペインくんだりまで来た彼女たちは、心のふんどしをビシッと締めた、男気あふれる魅力的なひとばかりなのだ。女に男気というのもおかしな話だけど、「弱いものを見過ごしておけない気性」をそう呼ぶのであれば、やっぱり男気あふれる女たちと言うしかないような気がする。

最初、私は助けられっぱなしだった。急病で倒れたときには、病院へ付き添ってくれた。風邪のときは、栄養満点のスープを持ってきてくれた。ビザの更新、おいしい中華料理店、便利なバス路線、慣用表現、それはそれはたくさんのことを教えてもらった。そこで頭を下げると、みんなこう返すのだ。「いいのいいの、気にしないで。私もそういう時期があったから。いつかカナちゃんがスペインに慣れたとき、いまと同じような立場のひとを手助けしてあげればいい。それだけのことだよ」、と。くぅ~、しびれるね。損得勘定なんて、これっぽっちもない。ここでは人情、ってぇのが生きているのでござるよ。


といっても、みんなフーテンの寅さんみたいにヒマだから他人の問題に首を突っこんでいるわけではない(いや、寅さんだって好きでやってるのじゃないかもしれないが)。それぞれに、スペインでの生活がある。あるひとは家庭で、あるひとは職場で、異文化に揉まれながら頑張っている。悔しい思い、もどかしい気持ちを味わいながらも、異国で根を張って、あるいは張ろうとして、精いっぱいやっている。その精いっぱいのうえで、弱い者には手を差しのべ、ときには親身になって叱ったりもするのだ。

そんな彼女たちと会うたびに、生きる力とでもいうものがビシビシ充電されるような気がする。なかには私と同じように、まだひとの世話をするよりは世話になる方が多いような友人ももちろんいるけれど、でも、今回のインタビューを通じて気がついた。誰も、自分の人生を馬鹿にしたりしていない。ちゃんと正面から、がっぷりと自分に取り組んでいる。悩みの段階を抜けたかそうでないかは別として、この姿勢は、すべてのアミーガに共通していたように思われた。

そしてこれこそが、私が探していたものではなかろうかと感じているのだ、連載を終えたいま。東京で軽快に快適に過ごしているうち、いつの間にか見失ったような気がしていた、あの気持ち。太陽の光をいっぱい浴びながら、取り戻そうとしたもの。『太陽と情熱の国』というキャッチフレーズでしか知らなかったスペインという外国に、私を向かわせたもの。


そういえばアミーガたちには、『太陽と情熱の』という、本来はスペインに捧げられたキャッチフレーズがよく似合う。なんせ、眩しいほど輝いている。「ビバ、アミーガ!」 そう叫んでひとりスタンディング・オベーションを贈りたいほど素敵なのだ。

この、歓呼の言葉として用いられるスペイン語「ビバ」には、「生きている/生き生きとした/鮮やかな/力強い」という意味もある。鮮やかな色彩を表現するときに使う「ビビッド」も、同じ単語から派生している。それは、動詞"vivir"(生きる)。生きている。精一杯、生きている。だから生き生きとしているし、力強いし、また美しい。彼女たちを形容するのに、これ以上ふさわしい言葉はないだろう。まさに、ビバ・アミーガ!

ちゃんと笑って、ちゃんと怒って、ちゃんと泣く。そして「私は幸せだよ!」と胸張って言う。敬愛するアミーガたちのように、私もそのうち男気あふれるかっちょいい女になったら良いなぁ。スペインでは多少太めの体型だろうと、ぜんぜん問題ないし。海辺でトップレスになってみるのも、他ならぬ自分のため。そういう国だから、なんせ楽しそうに生きているのがいちばんなのさ。幸せを感じながら生きることが、いちばん。自分が幸せで輝いていてこそ、周囲を明るく照らせるのだろうし。そう、青空の中心にある太陽のように、彼女たちのように。ビバ・スペイン、ビバ・アミーガ、ビバ・人生!


同じスペインで、頑張っているアミーガたちがいる。そのことに、とても勇気付けられる。
カーテンを開ける。空が青い。
……もう大丈夫。今日も、笑っていられそうだ。

 

 

第1回: はじめまして。

■イベリア半島ふらりジカタビ、の巻
第1回:旅立ち、0キロメートル地点にて