第474回:流行り歌に寄せて No.269 「太陽がくれた季節」~昭和47年(1972年)2月25日リリース
偶然だが、前回に引き続き、日本テレビのドラマの主題歌である。タイトルは『飛び出せ!青春』。村野武範扮する英語教師、河野武の「レッツ・ビギン!」という言葉が流行した。昭和40年(1965年)に『青春とはなんだ』から始まった、東宝とテアトル・プロと日本テレビ共同制作の、学園青春ドラマシリーズの中の1作である。
昭和47年2月20日(日)から1年間放映された。その前の1年の同時間帯は森田健作主演の『おれは男だ!』で、こちらは松竹と日本テレビの共同制作であり、同じ学園青春ドラマとして、局内でも鎬(しのぎ)を削ったことだろう。
『飛び出せ!青春』の始まる前日の19日(土)には、世の中を揺るがす、大きな事件が起きている。「あさま山荘事件」である。
事件の6日前に幕を閉じた札幌オリンピック。笠谷幸生選手始め『日の丸飛行隊』の大活躍やジャネット・リンの可憐さに心を奪われ、日本中が熱い思いになっていた時に、一気に冷水を浴びせられたような大事件だった。
人々は、その事件報道を、文字通りテレビの前に釘付けになり、食い入るようにして(ステレオタイプの連続で恐縮です)観続けたのだ。その翌日から放送開始されたドラマなので、具体的な数字は知らないが、初回はかなり視聴率では苦しんだはずである。
さて、主題歌である『太陽がくれた季節』、多くの人が勘違いしたように、私もずっと「太陽が暮れた季節」という意味だとばかり思い込んでいた。Am(エー・マイナー)、イ短調の曲で、郷愁を帯びていることから、そう思っていたのである。実際は「太陽が呉れた季節」という意味であるのだ。
歌っている『青い三角定規』は、女性の西口久美子、男性の岩久茂、高田真理の三人のメンバーで、昭和46年に結成された日本のフォークグループである。デビュー曲は同年の11月に発売された『翼を忘れた天使たち』である。
『太陽のくれた季節』は2枚目のシングルで、この曲で、昭和47年の『第14回日本レコード大賞』の新人賞を獲得し、同年の『第23回NHK紅白歌合戦』に初出場している。
「太陽がくれた季節」 山川啓介:作詞 いずみたく:作曲 松岡直也:編曲 青い三角定規:歌
君は何を今 見つめているの
若い悲しみに 濡れたひとみで
逃げてゆく 白い鳩 それとも愛
君も今日からは ぼくらの仲間
とびだそう 青空の下へ
君は何を今 待ちつづけるの
街の片すみで ひざをかかえて
とどかない あの手紙 わかれた夢
君も今日からは ぼくらの仲間
とび込もう 青春の海へ
青春は 太陽が くれた季節
君も今日からは ぼくらの仲間
燃やそうよ 二度とない日々を・・・
作詞の山川啓介は、岩崎宏美の『ロマンス』、八神純子の『Mr.ブルー〜私の地球〜』、矢沢永吉の『ひき潮』『時間よ止まれ』『チャイナタウン』など、非常に抒情性のある、素晴らしい詞を書き、実に多くの歌手にそれを提供している。
また、この曲と同じく、いずみたくと組んで、いずみたくシンガーズの『帰らざる日のために』、中村雅俊の『ふれあい』など、今回の『飛び出せ!青春』の続きシリーズ『我ら青春!』の主題歌のほか、多くのテレビ、映画の主題歌も手掛けている。
作曲のいずみたくは、あまりにも有名な作曲家であり、このコラムでも何回もご紹介しているので、今回は省略させていただく。
編曲の松岡直也は、私の印象で言うと、とにかくお洒落でカッコいい音楽家。ジャズ・ピアニストとして大活躍した人だが、作・編曲家としても腕を振るっている。ゴールデン・ハーフの『黄色いさくらんぼ』の編曲、中森明菜の『ミ・アモーレ』は作・編曲を担当、またプロレスラー・藤波辰巳の入場テーマ曲『Rock Me Dragon』の作曲を手掛けたりと、その活動は幅広い。
さて、『青い三角定規』は、昭和48年に、メンバーの方向性の違いから解散した。
西口はその後、ソロ歌手、女優として活躍、現在でも活動を続けている。
岩久は、作曲家として活動し、都はるみの『しあわせ岬』など、歌手に曲を提供していた。昭和54年に秋吉久美子と結婚し、世の久美子ファンを羨ましがらせたが、10年後に離婚している。現在はプロデューサー業を行なう。
高田は、一旦歌手として活動していたが、居酒屋経営者に転身した。平成18年の(後述の)再結成の直後、原付バイクを運転中に人身事故を起こし、逮捕される。マスコミからバッシングを受け、おそらくはそれが原因で、事故から15日後に飛び降り自殺を図り亡くなった。
彼らは、平成18年8月に一時再結成し、高田の死後、(高田の母親の希望で)平成20年1月に二人でもう一度組み、ライヴ活動を行なった。
-…つづく
第475回:流行り歌に寄せて No.270 「許されない愛」~昭和47年(1972年)3月10日リリース
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